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093:トエトリーの経済規模

「これは…………なああああああっ!?」


 質の良い羊皮紙を手に取り、じっくりと見つめる。

 するとそこには、簡単に要約するとこう書かれてあった。


【今後コマワリ・ナガレ氏はギルドへの協力金を一切支払う義務を無くすものとする。これは商売神の称号になっても永続するものなり】


 と言う驚きの内容が綴られていた。


「ブハッハッハッハ! どうだ、驚いたか? ん~?」

「え、ええ。眼玉が飛び出るほどに驚きましたよ……ええ、マジですかコレ!?」

「マジだとも!」

「ナガレ様、それはギルドマスターのある意味で意趣返しですよ?」

「ど、どう言う意味だ?」

「ふふふ。今日ナガレ様の活躍に、ギルドマスターがどれ程度肝を抜かれ、驚かされたか……それはもう凄かったんですからね」

「おいおい、メリサ。人聞きの悪い事を言うもんじゃないぞ? まぁ当たっているがな」


 そう言うとバーツはまた大笑いするのだった。


「クククッ! ナガレでもそこまで驚くとは、実に愉快痛快と言う奴だ!」

「いや、驚きますよ。これで完全に俺はギルドや、先日の報酬で下部の者への金銭的な負担は無くなった訳ですからね」

「そうだろう、そうだろう。片方だけの例も歴史的にある事もあったが、両方等は前代未聞だからな」

「私も今この場に立ち会っていますが、あまりの凄さに驚きを通り越して呆然ですよ……」


 バーツだけは楽し気にしているが、流もメリサもこの強大な報酬に驚きを隠せなかった。

 だからこそ思う、そんなとても重大な疑問をバーツに問うて見る事にする。


「でもバーツさん、いいんですか? 王都が商業ギルドの本部だと思うのですが、こんな重要な事を勝手に決めてしまって?」

「なに、かまわんよ。何せここが本部みたいなものだしな?」

「ええええ!? そうなんですか?」

「プフフッ、またも見れたわ、愉快愉快。まぁ本当の事だぞ? 王都の商業ギルド本部なんざ吹けば飛ぶようなショボイ物だからな。この国の経済はここ、トエトリーが握っている! ハッキリ言って、他の領地の総生産力を合わせても、生産力はトエトリーの半分の規模しかない」


 驚きすぎて口を半開きでメリサを見る。するとメリサも苦笑いをしながらコクリと頷く。


「本当にそうなんですよ、ナガレ様。王都だから本部等と名乗っていますが、実質ここが本部なのですから」

「なん、だ……と。マジかよ」

「人口も王都と変わらないくらい居るぞ? そしてインフラや生活水準も、王都等比べるのも馬鹿らしい程だ。だから王宮からの通達で『これ以上、トエトリーに移住する事まかりならん』と言うクソみたいな法律が出来た訳だからな」

「そんな法律まで……。じゃあ俺みたいなのは大丈夫なんですか?」

「まぁ、ある程度はな。例えば村ごと移住とかされたら、村もこちらも制裁を食らう事になるがな」


 何とも緩いのやら、厳しいのやら訳が分からない法律だと流は思う。

 やろうと思えば、いくらでも抜け道はあるのだから。


「お前も一度他の町へ行ってみるといい。まず生活水準の低さに驚くだろう。唯一この街……いや、都市と言ってもいいだろう。そのトエトリーと肩を並べる事が出来るのが、このトエトリーを囲むように存在している、クコロー伯爵の領地とごく一部の領地だけだ」


 流はその名を聞いて、最初に出会った美しく、命より魂のありようクッころせを大事にした気高い娘の騎士の事を思い出す。


「クコロー伯爵領は、このトエトリーの防衛領地と言っても過言ではない。トエトリーの力は強大だが、領地は一つしかない。それがダンジョンだ」

「ダンジョンだけが領地で、この国一の経済規模ですか」

「そうだ、面白いだろう? だがダンジョンからの恩恵だけでは無く、全体的な経済規模が断トツなんだよ。そんな訳で、他の領地から攻撃される事がもしあれば、クコロー伯爵がトエトリーの防衛をする事になっておる」

「なるほど。だからクコロー伯爵領は、トエトリーの恩恵を十分に受けて発展していると?

「そんなところだ。今後ナガレもクコロー伯爵とは会う事もあるだろうから、その辺りの知識もあった方がいいな」

「そうですね、勉強しておきます」


 そしてバーツは同じ伯爵でも、悪辣の化身のような伯爵の話題になる。


「そしてあの男……オルドラ・フォン・ドーレ伯爵が治めるオルドラ領がある」

「あぁ、確か海に面している所ですね」

「そうだ、お前が最初に立ち寄った場所でもある」

「そ、そうですね」


 以前の適当な設定に焦りを感じつつも、先に話は進む。


「今回の殺盗団の件と、これまでの怪しい動きから考えると……。近いうちに何か起こるかもしれないな」

「そうならない事を祈っていますよ」

「それと冒険者ギルドは王都が上だ。理由は向こうの方が会員数が多いからだな。これも王命でそうなってるだけで、実際の冒険者はとぼけてこっちで活動している奴らもかなり居る。冒険者を縛る事など出来る訳がないと言うのにな」


 バーツは困ったものだと溜息を吐きながら、話を戻す。


「さてナガレ。これが俺達商業ギルドの、お前への誠意と思ってもらいたい」


 そうバーツは言うと、あらためてケルト王の箱に入った証書を流に渡すのだった。

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