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092:ケルト王

 町の中を役人が走るのを多く散見する。

 今日は良く走っているなぁと、まるで他人事のように思いながら、商業ギルドの前へと辿り着く。


「嵐影、ちょっと行って来るからな。そうだ、お腹減ったろ? 丁度そこに屋台があるから何か食べてこいよ。はい、これ御駄賃」

「……マッマ~♪」


 嵐影は嬉しそうに首に掛けてある、お財布にお小遣いを入れると、近くの屋台へお買い物に行く。

 因みに以前は鞄だったが、現在は〆がプレゼントした「がま口財布」の大きい物を首からぶら下げている。


「ただいま戻りましたよ~。おーい、メリサちゃん。お茶くれ~おちゃ~」


 瞬間ギルドが静まり返り、全ギルド職員と客達が流を凝視する。


「ほあ? ど、どしたのみんな?」

『『『『『帰って来たあああああ!!』』』』』

「ななな、何があ~??」


 思わず挙動不審になるナガレに、大声で叫ぶ男が現れる。


「ナガレ! てめぇやりやがったな!!」

「ファン!? 一体これは何事ですかい?」

「何事もくそもねーよ! おめえ昨日に続き、今日も大活躍だったそうじゃねーか!?」

「おおぅ……? 残党狩りして来ただけだが……」


 その時、三階から降りて来たバーツが笑い声をあげる。


「ブハッハッハ。領都級にして巨滅の英雄は自分の功績が全く分かっていないようだ。よく戻ったナガレ! 心から無事の祝いと、その功績に感謝をしよう。本当にありがとう!」


 そう言うとバーツは流へ深々と頭を下げる。

 その様子にギルド内は騒然となるが、先程聞いた内容を思い出すと、その思いが本物だと確信するのだった。


「ちょ、バーツさん。頭を上げてくださいよ、みんな驚いていますって」

「馬鹿者、お前はそれだけの事をした自覚をちゃんと持つのだな。じゃないと後から続く者がお前の背中を見れないだろう?」


 バーツは若い商人達が集まっているテーブルを一瞥する。


「な、なるほど。大した事はしていないと思っていましたが、予想より大事になっていたようですね……」

「そう言う事だ!」


 バーツは流の肩を何度も叩きながら、快活に大笑いする。

 その様子を若い商人達が眩し気に見ているのを見ると、バーツの言っている事が正しいのだと流も思うのだった。


「ナガレ様……」

「メリサ、お前の無念は晴らして来たぞ。だからもう泣くなよ?」

「もぅ、またそんな事言って変な顔するのは無しですよ?」


 そう言うとメリサは泣き笑いの顔になり、流へ感謝の気持ちを伝えるのだった。


「あの冷血天使が……」

「っち、だがあの領都級ならそれもアリって事だな。見ろ、あの幸せそうな顔を」

「ハァハァハァ。見ているだけで幸せになれる! いいぞ、もっと酷い事を言ってくれ!」

「あの娘がねぇ……人って変わるもんなんだな」


 安定のおかしな奴は置いておき、みんなメリサの変わりように頬を緩める。

 その後、流はギルド内で質問攻めにされながらも、バーツの部屋へと場所を移し詳細な報告をする。


「――とまぁそんな訳で、南大門へと魔物の討伐物証と、アレハンドは預けてあります」

「何度聞いても信じられない功績だ……メリサ、もう一杯茶を頼む」

「はい、すぐに」

「しかしそのラミアの全長は六メートルはあったのか? しかも人語を話し、王の器だったと言う。もう出鱈目すぎて意味が分からん」

「俺も意味が分からないですよ。楽な仕事かと思ったら、あんな蛇の化け物が居たんですからね」

「二十二名を楽と言うお前の感覚が分からんが……まぁそこはいい。とにかく今日は本当にご苦労だった! それで今回の依頼に対する報酬だが」


 バーツは立ち上がると、机の上に用意していた箱を持ってくる。

 それは宝飾が施された実に立派な仕上がりの高級な箱だった。


「おお~これはまた凄い仕上がりの箱ですね。職人の拘りと言うのも生温い……そう、執念のような物を感じる出来の箱ですね。特に角のここ! そう、この宝石で出来た動物の彫刻が素晴らしい!!」


 大興奮の流を見るバーツは、口角を上げてニヤニヤしていると、そこへお茶をメリサが人数分用意して戻って来る。


「お待たせしました、どうぞ……って、これは凄い品ですね! ケルト王朝のものじゃないですか?」

「ほほ~メリサも中々見る目がある。そうだ、これはケルト王が作らせた一品物で、このエンブレムがその証拠だ」


 流はその価値やエンブレムの事は分からないが、それでも品自体の価値観を見抜く目はあった。


「このエンブレムは?」

「そうか、流は国外から来た商人だったな。このエンブレムはな、ケルト王しか用いる事が許されないものだったのだよ。そして……見ていろ」


 バーツは指に魔力を込めると、エンブレムが光り出し、箱の上五十センチ程の高さに立体的な設計図のような物が浮かび上がる。


「これは変わったエンブレムですね……一体何です?」

「そうだな、一説には三百年前の大戦に用いられた重大な秘密が隠されているらしいが、今は全くの不明だな。まぁお伽噺の一つって所だろう」


 そう言うとバーツは笑う。


「これが今回の報酬だ、受け取ってくれ。本来なら冒険者ギルドを通すのだが、今回は緊急だからこんな形でスマンがな」

「い、いいんですか? 俺にこんな歴史的にも重要な物をと思いますが……」

「なに構わんさ。それにその箱はオマケだ、本当の報酬は中にある」

「……は?」

「くくく、いいから開けてみなさい」


 流は言われるまま箱を開け中身を見る。すると高級な羊皮紙が魔法的に処理された、手触りの良い不思議な感覚の物が入っていた。



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