090:一刀両断
蛇娘が沈黙した事であらためて周囲を確認する。
岩場は崩れはしたが、運良く岩場の外にある物置部分は無事だった。
強奪した馬車と、これまで強奪したであろう馬車と馬。
合わせて馬車五台と、それを引く馬は確保出来た感じである。
「さて、後は中のゴミ共だが……一人では手に余るな。壱、悪いんだが嵐影と娘達を連れてきてくれ」
「壱:了解でっせ! しかしまぁ~ちょっと見いひんうちに、エライ強うなりましたなぁ」
「そうか? まぁ……そうなんだろうな。これも美琴あっての事さ」
「壱:美こっちゃんも当然でっけど、やはり古廻はんの地力でっせ、間違いなく。んじゃ、行って来まっせ」
そう言うと壱は嵐影と女達の元へと飛んでいく。
「違うよなぁ美琴?」
『…………』
「そ、そうかな? 少し照れる」
『…………』
二人の会話は嵐影が到着するまでしばし続く。
やがて避難していた娘達が、手を振りながらやって来るのが見える。
壱は最初に助けた娘の頭の上に乗っているようだ。
「おーい、無事に終わったから安心してくれ!」
「え!? ほ、本当に? あいつらは?」
「ああ、まだ中に少し残っているが、今叩いて来るからここで待機しててくれ。全員縛ってトエトリーまで連れて行かなきゃならないしな」
娘達はその言葉を聞くと、今までの不安が逆に期待として大きく膨らむ。
「うそ……帰れるの私達!?」
「お父さん、お母さん……うぅぅ」
「うっ……ぅぅぅ」
「うわあああん、帰れるんだああ」
今だ信じられない者。家族を思い出す者。声にならない嗚咽を漏らす者。
そしてストレートに感情を爆発させる者と、娘達の心は嬉しさと悲しさで満たされながらも、それでも生きている奇跡に感謝する。
「じゃあ行って来る。嵐影、みんなを頼む」
「……マ」
「壱は娘達に馬車の用意と、御者が出来るやつを選んでいてくれ」
「壱:はいな、行ってらっしゃいませ」
流はその言葉に片手を上げて答えると、そのまま崩れた岩場を乗り越えて内部へと戻る。
その頃大穴から出た所では、アレハンドが賊の残党にボコボコにされて殺される寸前だった。
「この野郎……よくも俺らをッ!!」
「岩場は中からは急で登って逃げれねぇ。こんな場所にアジトを作らなきゃよかった」
「なら最後はアレハンドだきゃあッ」
「ば……やろ……どの道終わりだ……ほら、死神が来たぞ……」
アレハンドに言われ、全員その方向を見る。そこには抜き身の美琴を肩に担いた流が歩いて来るのが見えた。
「ヒィ!?」
「お……終わりだ……」
「あのバケモノすら倒すのかよ……はは、もう好きにしろ」
「よ~っし。大人しくしろ、警察だ! ここは完全に包囲されている!」
「はい? 良く分かりませんが抵抗はしませんぜ……だから殺さないで下さいよ」
「っく! これだから様式美が分かっていない賊は……」
「お、オイ! お前が余計なことを言うから巨滅の英雄が怒ってるぞ!」
「んな理不尽な……」
そんな無抵抗な男達に協力させ、生きている者を縛り上げる。
入口まで戻ると馬車が五台揃っており、馬が何時でも引ける状態になっていた。
「壱:古廻はん。五人御者経験ある娘がおってん、丁度良かったでんな」
「そうか、それは助かる。オイ! 盗賊共、早く馬車へ気絶したのを運び入れろ」
「へ、へい」
賊達は手分けして馬車へ賊達を寿司詰めに放り込んでいく。
「後はコレだな……」
流の視線の先にあるもの、それはラミアのような蛇娘だった。
「今なら斬れるか? 美琴、力を貸してくれよ?」
『…………』
「よし、ならば……。シェアッ!!」
妖力で強化した美琴で、岩から露出している部分を斬り割く。
すると先程まで刃が通らなかった鱗までが、簡単に斬れ真っ二つになる。
「うぉ!? ここまで違うのかよ……魔法ってマジヤバイな」
それを見ていた賊の残党と、アレハンドは顔を青くし、娘達は流に熱い眼差しを送る。
「信じられない……あのバケモノを一刀で切断するだと……?」
「おい、アレハンド!」
「は、はい! 何でしょうか?」
「お前達はどうやってこの蛇娘を捕まえたんだ?」
「それはたまたま偶然に、この蛇娘が寝ていた所を魔法使いに捕まえさせたのです」
「魔法使い? どんな奴だ?」
「私はトエトリーから離れる訳にはいかなかったので、良く分かりませんが……仲間内では『先生』と呼ばれていましたね」
その瞬間、昨日の戦闘を思い出し思わずゾっとする。
あの糸目男が、もし本気で最初から戦っていたら、高確率で負けていたと……。
「先生か……あいつが本気だったら今頃やばかったかもな」
「え、何か?」
「いや、何でもない。それよりこの蛇娘も馬車に詰めとけ。無理なら屋根にでも括り付けとけ」
「分かりました……」
そうこうするうちに、気絶した賊を縛った状態で馬車が動き出す。
流と嵐影は、その後ろから賊が逃げ出さない様に見張って進む事にする。
どうやら殺盗団の残党は、逃げるのは不可能と判断し、大人しくなったようだった。
◇◇◇
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