085:怪しいやつめ!!
「壱:この町は本当にデカイでんなぁ~。他の町はまだ情報が集まっていまへんが、断片的な情報では王都を凌ぐとも言われとります」
「よくもまぁ、ここまで大きくしたもんだよな。この世界の文明レベルではかなり大変だったろうにな」
「壱:それがそうでもありまへんのや。この世界にあって元世界に公には無い物がありますよって」
「魔法か!? でもそこまで凄いのか?」
「壱:そらあ~えげつない程に凄いでっせ? 例えばインフラでっけど、照明や水道は体験しているからお分かりだと思いまっけど、電力を一切無しにこれらを全て動かしているのが『魔具』でっからなぁ」
そう言えば自然と使っていたが、蛇口を捻れば水が出るし、お湯すら沸かせる。
さらにトイレも現代日本とはいかずとも、水洗で衛生的だし下水も完備してある。
「言われるまで気が付かなかった……確かにイロリーの村ではここまで快適じゃなかったしな。あれは村だからと思っていたが、もしかしたらトエトリーだけが特別なのか?」
「壱:どうなんでっしゃろなぁ、それもあの姉妹がおいおい明らかにしてくれると思いますし、この町でも情報を集めてる最中ですよって、もうしばらく待っとってください」
「あいつらは囚われていたから、昔の情報がメインだからな……」
その後南門へ到着するまで、キルト達から仕入れた情報を聞きつつ、〆の恐ろしい教育内容に青い顔をしながら嵐影の背につかまる。そのまましばらくすると南門が見えて来る。
「壱、お前はどうする?」
「壱:そうでんなぁ、久しぶりにご一緒しましょかね」
「よし、じゃあ行くか。あぁそう言えば、お前は喋る玩具みたいな感じで頼むぞ?」
「壱:そうでんな、それがよろしゅうおます」
嵐影は家の石壁の間を蹴る様にして地面へ着地し、何事も無かったかのように歩き出す。
「こ、この瞬間は慣れないな……『ヒュン』ってしちゃうぞ」
「壱:そらぁ難儀でんなぁ。まぁその内慣れまっせ? 僕が愚妹に真っ二つにされるように……。あ、でもあれは何時まで経ってもなれまへん……な」
「元気出せよ……」
遠い目になってる壱を励ましつつ南門の前に到着すると、そこは警戒態勢がすでに敷かれており、通行が厳しくなっているようだった。
そのせいで、それなりの列が出来ており、流は緊急と言う事で門番へと交渉へ赴く。
「対応が早いな……通信の魔具でも使っているのか? っと、まずは直接行ってみるか」
「オイ! そこのおかしな色のラーマンに乗ってる奴、ちゃんと列に並べ!」
列を整理していた門番の男は、列からはみ出た男を見つけると、槍を片手に走って来る。
その顔と言動は、余裕なくピリピリとした感じで槍を突き出す。
「む? これは嵐影と言う俺の相棒だ、おかしな色とは失礼な奴め。まあいい、バーツ……いや、商業ギルドからの通達でこの対応になっているのか?」
「なんだぁ~キサマ……怪しい奴め!」
一瞬即発の危険な雰囲気になりかけた時、同じ衛兵が好戦的な衛兵の方へ歩み寄ると、思いっきりその男の頭を殴りつける。
「こん馬鹿がッ!!」
「あぎゃ!? も、門番長、何をするんですか??」
「何をじゃない! 見ろ、この方の左腕を!」
「へ……? っ!? し、失礼しましたああ!!」
失礼な門番、もとい職務に忠実な男は、流の巨滅の英雄章を見て自分の失態を悟る。
「気にするな、職務に忠実だったんだろうさ。ただもう少し視野を広く持てよ?」
「ハッ! 申し訳ありませんでした!」
「それで連絡は来ているからこの対応だと思うんだが、状況を教えてくれないか? 俺はドブネズミを追って来たんだよ」
「部下が失礼しました。状況は私が説明します。今から一時間ほど前に商業ギルドから、お尋ねの男が殺盗団の残党との事で、手配書が回ってきました。その後ここが一番抜けそうなルートだと言う事で網を張っていますが、未だに現れた形跡はありません」
この状況を見て、さもありなんと思う。
「するとここでは無いのか……。嵐影どうだ?」
嵐影はスンスンと鼻を鳴らしながら、近くの乗り合い馬車亭まで行くと、そこで手招きをする。
「……マ」
「そうか、ここに……。門番長! ちょっと来てくれ」
「はっ! どうかしましたか?」
「悪いね、ここにどうやらドブネズミが来ていたようだ。その後どこに行ったか見当はつくか?」
嵐影で匂いを追う事は確定だが、その他にも情報が無いか確認するために門番長へ聞いてみる。
「なんと、乗り合い馬車ですか!? そうですな……連絡が来た少し前の時刻に、オルドラ行きの乗り合い馬車が出ていますが……まさかそれに?」
「可能性が高いな。あいつはかなりの資産を持って逃げたから、てっきり自前の馬車か何かだと思っていたんだが」
「ええ、こちらもそのように連絡を受けていました。すると、ある程度隠したか、処分したか……」
「だな。どちらにせよ、もうこの街には居なさそうだ。嵐影、匂いを追えるか?」
「……ママ」
「なら急いだほうがいいな。門番長、世話になった!」
「お気をつけて、ご武運を! お前達、賊を討伐するために巨滅の英雄が出撃される! 大門を全開で開けろ!!」
「「「ハッ!!」」」
門番長がそう指示を出すと、通常は半開きの南の大門が景気よく全開放する。
「巨滅の英雄に敬礼!」
そう門番長が号令を出すと、衛兵が両側に整列して流に敬礼をする。
その姿は実に様になっており、胸の鎧部分に籠手を〝ガッ〟と当て鼓舞する。
「ありがとう、んじゃ行って来る!」
流は嵐影へ颯爽と騎乗すると、嵐のような勢いで走り去っていく。
「ラーマンってあんなに早く走れるものなのか……」
兵士の誰かがポツリと呟いた言葉に全員が納得したように頷くと、別の門番が隊長へと話しかける。
「門番長、大門の解放と言うのはそうある事なのですか?」
「ああ、お前はここへ配属されたばかりで知らないだろうが、今回のような事は珍しい事だ」
「ではどうして?」
「そもそも冒険者にあのような対応は普通しない。彼は巨滅の英雄++にして、殺盗団の本部を一人で壊滅させた英雄だ。その英雄に敬意を払うのは当然とも言えるだろう?」
そう門番長が説明すると、聞いて来た新米の部下も、他の部下達も頷く。
納得した門番達は、爆走するラーマンに乗る流が見えなくなるまで、全員で見送るのだった。
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