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082:サイン・コサイン・ブーメラン

「あ~。もう気が付かれたか……やれやれだ。俺ってば、やっぱり忍者に不向きだな」


 自分の隠密性の欠片の無さにガッカリしていると、外では騒ぎになり始める。


「おい! 今の音は何だ? 誰か見てこい」

「ッ!? 大変です! 詰所が破壊されています!」

「何だと!? オイ、お前ら全員武装して原因を探れ、急げ!!」


 そんな大声と共に、慌ただしく足音が廊下を駆け巡る。

 するとドアがノックされ、男が飛び込んで来る。


「た、大変です! 詰所が攻撃されました!」

「なぬぅ!? それはタイヘンダ!」

「え、誰?」

「え、俺だけど?」

「だから誰だよ!」

「オレだよ、オレオレ、流だよ! だから寝とけ」


 オレオレ詐欺も真っ青な、俺様りゅうの不殺閃で雑魚を廊下へ吹き飛ばす。

 途端、廊下に出ている殺盗団の残党は流へと注目する。


「や~だ~。そんなに見つめちゃ~俺、照れちゃう。照れちゃうついでに言うと、だ。お前ら無駄な抵抗はやめて、大人しくすれば痛い思いをしないで済むぞ?」

「何だこのフザケタ野郎は! ちっ、こいつだ。全員で掛かれ!!」


 左右から挟撃される流は、両方の攻撃が当たりそうになってから軽いステップで元居た部屋へと戻る。

 そこへお互いが斬り合う形になり、負傷したのを確認すると、入口方面の敵に向けて逆刃で殴り倒す。


「ふぅ……手練れが聞いて呆れる。お前ら本当に殺盗団の手練れなのか?」

「な、何だコイツは……ありえねぇ! お前ら飛び道具で攻撃しろ!」

「「「「ヘイ!」」」

「それでどうにかなると思ってるんだから、おめでたいね」


 流は迫るナイフを次々と弾き返すと、そのまま裂帛の気合で斬り込む。


「オオオオオオオオオオ!!」

「ヒィ!?」「なッ!?」「ッ……」


 流の気合なのか、美琴の妖力なのか、殺盗団は硬直をして動かなくなる。

 それを次々と逆刃で薙倒し、指示を出していた男へと迫る。


「クギャァアァガアア!?」


 そのまま男の右肩へ美琴を突き立て、壁へと縫い付ける。


「だから言ったろう、痛い思いをするぞって? で、最後のチャンスだ。この上に太ったネズミ……アレハンドは居るな?」


 男は流が本気だと目を見て確信し、震える声でその問いに答える。


「は、はい。居ます! だから命だけはッ」

「誰の命の事かは知らんが、お前は終わりだよ」

「そ、そんな話が違――」


 美琴を抜き取ると、鳩尾へ膝蹴りを食らわせ男を気絶させる。


「終わりは終わりでも、人生がって意味だ。約束は『今は』守るさ。ダンジョン奴隷になった後は知らんがな。さて……この上か」


 目の前の階段を見上げながら気配察知で探る。

 上も大慌ての様子で、人が動いているようだった。


「行くか……」


 階段をゆっくりと上る。すると喧騒の中に、一際ヒステリックな大声が徐々に聞こえてくる。

 どうやらその声の主が「目標のアレハンド」らしく、その話の内容も聞えて来る。


「早くしろ!! 詰めるだけ詰め込んだら、さっさと緊急脱出路から逃げるぞ!」

「しかしアレハンドさん、何処に逃げるんですかい? オルドラ大使館はもう制圧されているはずですよ?」

「くぅ……仕方ない、オルドラへと逃げる!!」

「分かりやした。報酬は弾んでくれるんでしょうね?」

「こんな時に金の話か!? 屑どもがッ」

「こんな時だからですよ、俺達が襲撃者を撃退するんですからね。報酬は五倍でどうです?」

「くっそ……足元を見やがって。分かった、それで頼む。しっかり仕事をしろよ?」

「へっへっへ。言われるまでもありませんよ」

「ではオレは行く!」

「はいはい、お気をつけて」

「心にもない事を……」


 そんなやり取りが聞こえた流は、流石に焦る。


(まずい、逃げられる!?)


 逃がしてはなるものかと駆け足で最奥の部屋へと駆けつけ、二枚扉の右のドアを蹴り破る。


「ようこそ、誰か知らない馬鹿な猟犬め。順風満帆な飼い犬稼業も今日でお終いだ!」


 部屋に入るなりいきなり戦闘になるかと思えば、なんとも間の抜けた事を面白そうに言い出す男が居た。

 よく見ると、部屋の中には既に三人しか居なくなっており、流へマヌケな宣言をした男は腰に手を当てて、流へとビシっと指を差して指摘する。


「え? それって自己紹介ですか? 高等すぎてありがとうございます!!」

「あ~ら、これは一本取られたなぁ~。はっはっは」

「アニキ、笑ってる場合じゃねーぜ」

「まったくアニキには困ったものよね」

「そう言うな二人とも。さてさて、ここは三人で一気にやろうじゃないか」

「とか言って、何時も動かないくせに」

「んまぁ!? 口が悪いですよ、イリス」

「姉貴の言う通りだ、全く困ったアニキだぜ」

「あ~ら!? 酷くね? ラーゼはアニキをもっと敬うべきだと思うんだよ、うん」


 そんな軽口を叩き合う三人に、明らかに他者と違う強者の気配を感じる。


 アニキと呼ばれた男は、黒髪黒目で小麦色の肌をしていた。

 年の頃は四十代前半位で無精ヒゲを生やし、顔に傷があるが、どこか憎めない女好きそうな顔をした締まった体形の男。


 そしてその右側にはネコ科の獣人のように見える人物は、耳と尻尾だけが獣で、スレンダーな体形の白毛で愛嬌のある顔立ちの娘。

 左側には女と違い逆に体形がガッチリとした、同じネコ科で毛並みも似ている、武骨そうな顔立ちの獣人の男が居た。


「一応聞くが……太ったネズミは何処へ行ったんだ?」

「さぁ? きっと夢の国へ旅立ったんだろうさ」

「そうかい……で、お前達は状況を全て分かった上で俺と敵対を?」


 その会話を聞いていた部下の女、イリスが目ざとく流の腕章に気が付く。


「アニキ……あれはヤバイです」

「ん? げぇ~マジで巨滅の英雄かよ!? サイン貰ってもいいですか?」

「「アニキ!!」」

「いや、だってここ最近の有名人でしょ? 欲しいじゃん、サイン」


 何とも掴み所のない人物だったが、流の第六感はこの男の危険さを感じていた。


「サインかい? マネージャーを通してからにしてくれるか?」

「う~ん、それは残念。残念ついでに死んでくれないか?」


 そうアニキと呼ばれた男は肩を竦めた瞬間、両脇の獣人の男女が流へと襲い掛かる。


「ちょ、いきなりかよ!」

「チチチ。戦場で『いきなり』とか『卑怯』とか、そう言う単語を並べる奴から死ぬんだぜ?」


 アニキは人差し指を斜めに振りながら、流へと戦場の厳しさをレクチャーする。


「あぁ、そうかっヨ! 飛竜牙!!」


 流は二人の攻撃を往なしながら、その隙をついてアイテムバッグから出した手裏剣をアニキへ投擲する。


「うぉ!? 危ねぇ! くッ……この『卑怯者』め! 『いきなり』何をする!? オレが気持ちよく話している所を狙うとは、なんて手癖の悪い奴だッ」

「お前の頭はブーメランで出来てるのか?」

「「ええ、その通りです」」

「身内からのまさかの裏切りぃ!?」


 身内からの裏切りに狼狽するアニキは、ショックを受けたようでやる気をなくす。


「あぁ~俺もうやる気が無くなった……後はお前ら姉弟でガンバレ、心から応援してる~」

「もう! やっぱり何時ものパターンじゃないですか!」

「姉貴、言うだけ無駄だ。それよりッ今はコイツ!!」

「チィ! 流石巨滅の英雄様って訳ね」


 流は観察眼で視ながら、二人の獣人の弱点を探る。


(やれやれ……コイツ等スピード型の姉と、パワー型の弟で役割分担をしっかりしてやがるな。崩そうにも片方が邪魔をする。厄介だな……そうなると王道から攻めるのが定石、か?)


 流はパワー型のラーゼ、スピード型のイリスの攻略をするために、氷盾の指輪を使用する。


「俺が止める! 姉貴はその隙にヤツを倒せ」

「任せて~」

「止められるのかね、本当に? 来い氷盾!」


 頭の中で発動すれば効果が発動する事から、流は適当な発動キーで無色透明な盾を、氷盾の指輪で展開する。


 ラーゼは左手に装備している、スモールシールドタイプの籠手を前面に押し立てながら、流の剣を受け止めるように突進し、右手にある鋭い爪が付いた籠手で流へ渾身の打ち込みを食らわせる。


 これまでは流がそれを上手く往なしていたが、タイミングを誤ったのか流はそのまま突っ込んで来る。


「ハッハーもらったぞ! 死ねい巨滅の英雄!!」

「それ、フラグだからな? 立ったらへし折る、それが俺!!」


 流の鳩尾へ向けて迫る凶爪! 

 その爪は吸い込まれるように、流の体へ叩き込まれたかに見えた瞬間、甲高い何かが割れる音と共に弾き返される。


「なにいいいい!?」


 そのままラーゼの凶爪を掻い潜り、後ろに控えていたイリスへと突進する。


「えッ、ちょ!? チィィィ舐めるなあああ!!」


 元々即応体制だったイリスは一瞬驚いたが、すぐに流へと対応するために、強靭な足腰で動きだし、四肢先に装備した鋭利な鉤爪を荒ぶらせ、流を翻弄しようと動き出す、が。


「――ジジイ流参式・・! 三連斬!!」


 ――壱式は通常業、弐式は溜め込み型、そして参式三連斬とは威力は半減するが、三連で六連分の斬撃を食らわせる〝拡散型〟の業である。そこに多少の美琴の助力があれば――


「ヒュガッ!? アガ、べ、ぽきゅ、ヴぉ、モルッポッ!!!!!!」


 逆刃の攻撃とは言え、思いっきり動きに合わせられた斬撃はイリスを直撃し、そのままアニキの元へと吹き飛ばす。


「あ、姉貴いいいいいいいいいい!?」

「ツーストライクにはならなかったか。残念だがまずは鬱陶しい娘猫からお掃除完了っと……。さて、次はどいつだ?」


 アニキはイリスをしっかりと抱きしめて、壁へ激突する事を防ぎながら流を睨みつける。


「あ~ら……こいつは舐めてかかったお前達が悪いな」

「アニキがそれ言いますかい」

「そうだっけ? 過ぎた事を言っても詮無き事さ。ラーゼ、悔しいだろうがここは俺が出る。イリスを頼むぞ」

「くっ、分かりやした……」


 ラーゼは滅多打ちにされた姉を介抱するように、抱きかかえながら後方へと下がる。

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