080:【神聖な握手で報酬はアレとアレ】
嵐影の背に揺られながら、先程話した内容を思い出す流。
(どうやら骨董やさんの道具も万能じゃないって事か……相性やその場であった物を見繕う目を養わいとな)
ふと見ると嵐影の耳がパタパタを動いているのが可愛いらしい。
思わず付け根をコリコリとかいてみると、嬉しそうに「……マァ~」と鳴いた。
「嵐影、昨日は色々大変だったけど、お前を友とする事も出来たし、ゴミも掃除出来たし、姉妹も解放出来たし、大変だったけど差し引くといい日だったな」
「……マ」
「ははは、それは俺もだよ。お互い強くなったもんだ……って、お前さ。もしかしてだけど、以前の十倍早く走れたりしてな?」
「……マ?」
「いやいや! ここで走ったら交通事故ならぬ、ラーマン事故になるから!!」
「……マァ……」
嵐影は残念そうに首を左右に振ると、視線の先に偶然知り合いのラーマンが居たようだった。
丁度目的地の商業ギルドへと付いた事もあり、流は嵐影を一撫でする。
「……マ?」
「ああ良いよ、俺がギルドに行ってる間話してるといいさ」
嵐影は一瞬止まってから、知り合いのラーマンを手招きして呼び寄せる。
そのまま嵐影とラーマンが歩いていると、どこからともなく他のラーマンも流達の後ろに付いて来ていた。
「ギルドには着いたけど、なんだ? ラーマンがいっぱいだな……」
商業ギルドへ着くまで気が付かなかったが、何時の間にかラーマンが十数頭集まっている。
そんな珍しい光景を商業ギルドから出て来た客も、驚きの表情でそれを眺めている。
「じゃあ嵐影。ちょっと行って来るから、適当にくつろいで居てくれ」
「……マ」
嵐影は右手をフリフリと流へと振ると、他のラーマンを連れて木陰へと向かって行くのが見えた。
「さて……何が出るかお楽しみってね」
商業ギルドのドアは冒険者ギルドと違って普通のドアだった。
よく手入れがされているようで、油がしっかりと染み込んだ蝶番は異音を立てずに動き出す。
ドアをゆっくりと押して中へ入ると、内部はハチの巣をつついたような状態だった。
「うわぁ……これってやっぱり俺のせいだよな……」
「あ、ナガレ様! お待ちしていました、どうぞこちらへ!」
「よぅメリサ。その……これってやっぱり?」
「はい、殺盗団がらみで阿鼻叫喚と言ったところですよ。詳しくはギルドマスターの所へ行きましょう」
「お、おい」
流はメリサに手を引かれながら、人で溢れかえるホールをかき分けマスタールームへと到着する。
「マスター、ナガレ様をお連れしました」
「ナガレだと!? 早く入ってもらえ!!」
切羽詰まった様子のバーツは、部屋に居た部下達を一端下がらせながらも、メリサへ茶を持ってくるように指示を出す。
「ふぅ~。よく来てくれたナガレ、昨日の事は聞いたぞ。よくこの短期間で、あの凶賊を殲滅出来た……しかも見たところ無傷じゃないか?」
「ええ、まぁ苦労はしましたよ……本当にね」
「さもありなん、正しく巨滅の英雄に相応しい功績だな」
先程部屋から出て行った人達の事を思い出し、流は少し申し訳なく思う。
「それで良かったんですか、忙しい所来てしまって?」
「ああ問題無い、むしろお前と会う方が重要だ。何故という顔をしているな? はは、それはお前が一番情報を持っているからだよ。冒険者ギルドも今頃はハチの巣をつついてるだろ? だから情報の連携がイマイチでな。そこで当事者のお前に話を聞きたいって訳だ」
「あ~なるほど」
そこへメリサが丁度お茶を持ってきたので、三人で情報をすり合わせる。
その話にバーツとメリサは芝居を見ているように一喜一憂し、時には怒り、時には顔を青くし、驚きと感動の洪水に溺れながらも流の話に聞き入っていた。
「――と言う訳で、外での殺盗団は外道のカワード共に壊滅し、今程話した大使館の内部は悪魔と、その僕を倒したと言う訳です」
「し、信じられない程濃密な一日だったのだな! とても人の成せる事とは思えない働きだ!!」
「ナガレざま……よ、よぐ無事で戻っで来れまぢだね!!」
バーツは顔を上気させたように興奮し、流の活躍を頷きながら聞き入っており、メリサに至っては涙腺崩壊で流の無事を喜んでくれている。
「いやぁ、そこまで喜んで貰えるとは、冒険者冥利に尽きるって感じですかね? っと、本業はあくまで商人ですけどね」
「何を言っているんだ。今やお前は両ギルドにとって、なくてはならない存在になったと言うのに。う~む……この話を劇や芝居にしたらウケる! 間違いなくな!! ただオルドラが抗議してくるのは目に見えているな……。よしそこを何とかして売り出そう!」
「それは良いお考えですよ、ギルドマスター♪」
何やら二人でよからぬ方向へ話が流れ始め、焦る流は元に戻そうとする。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。俺を芝居にしたって面白くも何ともないですよ。それよりこれ! これを見てください!」
流は慌てて出がけにロッティから貰った資料をバーツに渡す。
「ん? これ……は……殺盗団の内通者リストかッ!!!!」
「ええええ!? 今一番欲しいものじゃないですか!!」
「たまたま俺に協力してくれる人物と知り合いましてね、悪魔に拘束されていた姉妹を保護したんですよ。悪魔が死んで自由になった事で、殺盗団の内部を良く見ていた関係者だから、誰よりも信ぴょう性は高いと思いますよ?」
「さっき言ってた姉妹の事か? なるほど、それなら信頼も出来よう。ただな、その姉妹が殺盗団に与していないのは分かったが……」
バーツは姉妹の生い立ちと、現在の状況を考えると不安要素があると判断し、素直に喜べない所もあった。
「まぁ心配でしょうね。そこで今回の俺への報酬ですが、この二人の身柄を俺が貰うと言うのはどうでしょうか? あまりに不憫な姉妹ゆえ、何とかしてやりたいんですよね。それ以外の報酬はいりませんから、何とかなりませんか?」
悩むバーツは、ひとしきり唸ると流の目をじっと見つめ問う。
「……しかしそれでは、今回のお前の苦労に見合った報酬とは思えんが?」
「まぁ、それはそうなんですけどね。金は稼げば何時かは増えますが、不憫な姉妹が処刑されたら戻って来ませんからね。そしてその資料の功績をもって、自由の身になれたらいいかな……って、まぁそんな所です。あ、でも他にもくれるって言うなら遠慮無く頂きますよ~?」
流は最後にコミカルな動きで両手を差し出す。
それを見たバーツはクワっと眉を上げると、豪快に笑いだす。
「ガッハッハッハ!! 何だそれは、いい話かと思えば最後で台無しではないか。ハッハッハ……はぁ、笑った。ふむ、いいだろう。その意気やよし! ここで答えなければ男じゃないな。うむ、ではその願い聞き届けよう」
「あぁ~良かった。聞いてくれると思ってましたよ」
それを聞いたバーツは手をスッと差し出す。
そしてこう続ける「汝と我の約束を違えず遂行する」と。
「この場での握手と言うのは、商業ギルドで商売上神聖な意味がある。これを拒否したら、二度とこの件に関する取引は成立しない。しかし握手が成立すれば、必ず実行しなければいけないと言う意味が込められている」
その言葉とバーツの真剣な眼差しに、流も無言で頷くとバーツの手を取る。
「ええ、こちらこそよろしくお願いしますよ、ギルドマスター」
「……バーツだ。これからはバーツと呼べ。この取引のもう一つの意味は『対等な身分』と言う意味も込められている」
握手一つにここまでの覚悟を込める文化に、流も素直な気持ちで称賛する。
「ただの握手にそこまで意味と、そして決意が込められているなんて驚きです。異国の地から見れば素晴らしい文化だと思いますよ。正に信頼と言う形が実にシンプルに表れている。これからもよろしくお願いしますよ、バーツさん」
「ふむ、呼び捨てでも構わんのだがな?」
「いえ、そこは目上の方への礼儀と、ビジネスの時はこうと決めていますので」
「はっはっは。そうか、冒険者ギルドのように振る舞ってもいいんだがな? まぁ、少々寂しくもあるが、今はそれでいいだろう。今はな」
いささか含むような言い回しに少し気になる流であったが、そこへ今まで黙って聞いていたメリサが割り込んで来る。
「あのギルドマスターが『握手の儀』を行うなんて……始めて見ましたよ。ナガレ様って本当に凄いんですね……しかも無報酬に近い条件で終わるなんて信じられませんよ……って、もしかして!? ナガレ様、その姉妹と恋仲になったからなんですか!?」
「おいおい、メリサ。妄想もそこまで来ると才能だぞ? まぁ、しばらく俺の所にいて、落ち着いたら旅立つさ、間違いなくな」
「そ、それならいいんですけど……」
その様子を見てバーツはまたも大笑いする。
「ブッハハハハ! あのメリサが女になったのかよ! これは今日はギルド上げて祝いかな? ククククッ」
「なぁッ!? 酷いですよギルドマスター!!」
「ぷくくく。悪い悪い、今はそれ所じゃなかったな。どれ、もう一度しっかりとリストと見て見よう」
メリサが抗議の声を上げるが、最早バーツは仕事モードであった。そして見つけてしまう、この商業ギルドの汚点を。
「メリサ、これを見ろ……」
「もう! なんですか!?」
憤慨しているメリサを呼ぶバーツ、しかしその瞳は怒りで静かに震えていた。
「ッ!? こ、この人は」
「ああ、局長のアレハンドだ。お前を育て、そしてここまで導いた男でもある」
「そ、そんな……どうしてアレハンドさんが……」
「訳はそこに書いてあるだろう?」
リストにある、個人の弱点たる項目が書いてある場所があった。
そこに〝トラップ要綱〟という欄に目が留まる――そこには「金銭の受領と使い込み」と書いてあった。
「お金……まさか! 不正会計を捜査しているのも彼で……あ……」
「そう言う事だ、泥棒と憲兵が同一人物だったら……捕まるものも捕まらないわな」
心の弱い者が今のバーツを見たら倒れる程の怒気を放出させ、メリサは両手を顔に当て涙を流していた。
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