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079:流さんは三度目のクラスチェンジをする?

「「「お帰りなさいませ、主様」」」

「おおぅ、まさか一晩中待ってたのか!?」

「はい、それが生きがいでございますので」

「馬鹿だなぁ……メイドさんはそんな無理しちゃだめだぞ? 壱にでもやらせとけばいいのに。でも迷惑かけたな、ありがとう。でもアルジ? また変えたのか……」


 そんな流にニコリと微笑むメイド達であった。

 実際の所、中の人はこの世の人では無いので、年単位で寝なくても平気と言う事を流は知らなかった。


 嵐影を降り屋敷の扉の前まで来ると、やはり自動で扉が開く。

 するとやはりそこにも執事達、そして骨董屋さんの三人衆と夜朔が揃っていた。


「あ~お前達まで居てくれたのか……色々迷惑かけてすまなかったな」

「お帰りなさいませ、古廻様。ご無事にお戻りになられ……本当に……よかったです」

「フム。悪魔が出たと聞いた時は驚きましたが、無事に成敗なされたようで何よりでした」

「壱:まったくやで~。妹が早よう気が付いてくれてホンマ良かったわ」


 三人共に流の無事を喜んでくれているようだったが、こんな時間まで待たせてしまった事に心苦しく思う流であった。

 しかも〆は涙まで流しているので、その思いは増すばかりである。


「いや、本当にすまなかった。そしてありがとうな。特にモーリス……あぁ、悪魔の事な。そいつには正直ヤバイと思ったぞ。なにせ真っ二つにしても生きてるんだからなぁ」

「まぁ! 悪魔を真っ二つですか!? 中級悪魔と報告を受けていますが、それをそこまで手玉に取るとは……ますますお慕いしちゃいます♪」

「それがそうでもないんだよ、確かに真っ二つにはしたんだが、その後が悪い。な、ジ・レ?」


 話をいきなり振られたジ・レは驚きの表情をするが、即座に何時もの人好きのする笑顔で流へと答える。


「いえいえ、それも御館様あっての事。ボクはほんの少しお手伝いをしたにすぎませんよ」

「何を言うんだ。お前が倒し方を教えてくれなかったら、下手したら大使館ごと爆発してたかもしれないんだぞ? 本当にお前には感謝している」

「お館様……」

「ジ・レ……」


 流は本当に感謝の気持ちを表し、ジ・レはそんな流に感じ入っている。

 すると隣のケモ耳娘が、ハンカチを持っていたら〝キー〟と言う感じでジットリと見つめる。


「うぅ……そんなに古廻様に感謝されるなんて! 私が行けば良かった」

「壱:また始まったでぇ、過保護は古廻様のためにならんって言うたのお前ちゃうんか?」

「フム。どうして妹は古廻様の事になると、こうもダメな娘になるのか」

「壱:あれやろ、馬鹿は死ななきゃ治らないってやつやな」

「フム。それですな! はっはっは――ッハァ!?」


 そこには可憐な娘は何処にもいなかった、ただ苛烈な縦割れの瞳孔をジットリと滾らせた、世にも恐ろしい何かが居るだけだった。


「兄上方……その言葉、身をもって証明なさってはいかがかしら?」

「フムゥ!? い、いやアレだ。言葉の綾と言う奴だ! 人は誰でも過ちを犯すものだ。そうですよね兄上!? あ、兄上?」

「壱:………………」


 そこには無残にも、すでに真っ二つになっている壱の残骸が転がっていた。


「兄上えええええええ!?」

「さて、ジ・レ……貴方もヨカッタデスネ。古廻様ニ愛サレテ」

「ひぃぃぃ!? ボ、ボクにも、とばっちりガガガガガッ!!」

「こらこら〆。あまり皆をいぢめるもんじゃないよ。〆を始めとした、みんなに感謝しているんだからな? 特に〆、お前には何時も感謝しているよ」


 瞬間、北極に裸で放り込まれたような冷気は霧散し、春の陽気が広まる。


「こ、古廻様……そんな困ったお顔で仰るなんて、ズルいです……」


 よく手入れされた一本生えた黄金の尻尾を春風に揺らしながら、〆は頬を染めて照れる。


「フム……助かりましたな」

「ええ、ボクも何とか生き延びました……」


 そんな二人の命の危機を救った流は、あらためて周りを見る。


「しかしなんだ、これは酷い。夜朔でまともに立ってるのはキルトぐらいじゃないか」


 見ると夜朔の面々はキルトを除き、部下四名は辛うじて片膝で耐えているものの、ロッキーなどは泡を吹いて倒れていた。


「まったく……。〆はもう少し手加減を覚えるんだぞ?」

「はぅ、お恥ずかしい限りです」


 シュンとするケモミミがまた魅力的だったが、そこはぐっと堪える漢流である。

 そんなグダグダなエントランスホールで、この屋敷一番の良識者たるこの男、セバスがまとめる。


「さぁさぁ皆さま。お館様もお疲れのご様子、まずはお休みになられるのがよろしいかと」

「あ! それもそうでしたね。セバス、後の事は任せますよ?」

「承知致しました」

「おっと、忘れていた。今日から俺の大事な相棒が出来たんだ。紹介するよ」

「古廻様、相棒でございますか?」

「ああそうなんだ、今日と言うか最近ずっと世話になってたんだけどな、色々あって俺の相棒になったんだよ」


 そう言うと流は正面の扉へ向かって叫ぶ。


「お~い! 嵐影~入って来いよ!」


 入口からのっそりと入ってくる明るい紺碧色の獣が一匹、何時の間にか背中に二羽の赤い鳥を乗せながら、こちらへと歩いて来るラーマンを全員で見守る。


「まぁ可愛らしい! これは確か、報告でラーマンと言う動物だと聞いていますが?」

「そうなんだよ、ラーマンの嵐影って言うんだ。俺を乗せて大活躍だったんだぜ?」

「そうなんですかぁ。嵐影、今日は大義でしたね。ゆっくりとお休みなさい」

「……マ」

「あらぁ、そうなんですか? うふふ。それは興味深いですね、是非後で聞かせてくださいね?」

「……マ」

「ええ、楽しみにしていますよ」


 そんな二人(?)のやりとりを聞いている流以外の者は驚愕する。

 あの女狐がこうも穏やかに話す相手だと!? と。


「何か失礼な……雰囲気を感じますが気のせいですかしら?」

「「「ええ、気のせいです。間違いなく気のせいですね」」」

「なら良かった」


 にっこりと微笑む〆に、流以外は胸を撫でおろすのだった。


「まぁそんな訳で、嵐影が三階まで上がれるようにしといてくれ。それとセバス、嵐影用に専用の部屋を一つ作っておいてくれ」

「承知致しました」

「じゃあ今日は寝ますかね、流石に疲れたわ~。嵐影、メイド達に良くして貰えよ?」


 そう言うと流は〆と参を連れて自室へと戻って行く。

 それを見送る執事達三人は早速指示通りの行動に移る。

 ただセバスのみエントランスホールに残り、ある一角へ進み寄る。


「やれやれ、御可哀そうに……」


 セバスはそっとカエルの折紙を手にすると、どこから取り出したのか「セロハンテープ」で壱をペタリペタリと補修し、壺を置く台座の上に豪華な敷物を出し、その上に壱をそっと安置するのだった。


「これでよし……さて、御館様は同族あくまと戦ったらしいですからな、メイドに沐浴の支度をさせますかな」


 そう独り言ちると、セバスは廊下の向こうへと消えていった。

 出来る「漢」セバスが居る限り、この屋敷は大丈夫だと言う認識が広まるまで、然程時間はかからなかったのは言うまでもない。



◇◇◇



 セバスが手配した沐浴を済ませ、今日はこのまま屋敷で休む事にする流。

 いつの間にか寝室も出来上がっており、〆は流が寝入るまで傍に居たいとの事でそのまま眠るりに付こうと瞼を閉じる。

 一日の光景が瞼に浮かんでは消え、興奮して寝れないかと思ったが、不思議なほど抵抗なく深い眠りに落ちる……。




 ふと目覚めると、遮光した隙間から外の明かりが漏れ出ているのに目が行く。

 壁にかかっている、夜は鳴かない鳩のカラクリ時計を見れば、正午を少し回った頃だった。


「ふぁ~よく寝たな……腹減ったぁ美琴おはよ~」

『…………』

「ああ、昨日は本当にありがとうな、しかしあれだな。骨董屋さんの道具を使わないで、お前の妖力を込めて奥義級に出来るのはまだ『太刀魚』だけだし、あれは元々奥義だからなぁ……まぁ威力が段違いで『改』に進化した訳だが。まだまだ修行が足りないな」

『…………』

「うん? そう言えばジジイはいつ来るんだろうな?」

『…………』

「だな、もう一度鍛え直さないとな。それと……」


 流はカーテンを勢いよく開ける。


「この世界も楽しまないとな!!」

『…………』

「おう! どこまでも付いて来い。一緒に楽しもうぜ?」


 美琴が嬉しそうに揺れているのを愛おし気に持つと、流は異界の間へ向かう。



 異界の間、つまり流の三階執務室では既に参を始め、既に復活していた壱も待機していた。


「おはよ~さん。ギルドから何か連絡とかあるかい?」

「フム。おはようございます古廻様。商業ギルドから連絡があり、後程来て欲しいとの事でした」

「了解。壱は元に戻った? のか、それ?」

「壱:古廻様、おはようさんです。あの愚妹めに――クッ!? やられた傷は深く、未だ完治してへんのですよ」


 壱を見ると微妙にずれた格好で、セロハンテープで固定されている姿が痛々しい。


「そ、そうか。大事にな」

「壱:はいな、まぁ不死鳥形態になればすぐに元通りなんでっけど、折角セバスが治してくれたさかい、もう少しこのままでいようかと思いましてん」

「戻れるんかい!? 本当にお前達は規格外だよな、色々と……」


 そうこうしているとメイドが朝食を運んで来たので、食べながら話す事にする。


「そうだ、お前達に聞きたい事があるんだよ。えっと『百鬼の眼』についてなんだけど、モーリスとの戦闘中に使用したら全ての瞳が一気に閉じたんだが、原因はなんだろう?」

「壱:ほんまでっか!? おかしいなぁ、あの程度の悪魔やったらそんな事は起こらないはずやけど……」

「フム。兄の言う通りなのですが、可能性の一つとして考えられるのは、やはり『死の国へ送る短剣』と言う物かと思われますね。これも推測でしかないのですが、常時小さなゲートが開いている状態だったんじゃないでしょうか。それとの相性が最悪だったのが、『百鬼の眼』だったんじゃないかと思います」


 そう言われると、モーリスとの戦闘中に感じていた忌避感とも言えるものは、悪魔だからと言うのでは無く、あの短剣のせいだと思うと納得もする。

 なにせこの屋敷には悪魔が居るのだが、あのような感覚は感じないのだから。


「あ~なんか得心がいったな。だってジ・レも悪魔だろ? あいつが居ても嫌などころか、逆に見ていて飽きないものな……あいつ魅了とか持ってるの?」

「壱:いやいや、そんなんは持ってないはずでっせ。あのガキは素でああなんですよって」

「フム。もし魅了など古廻様へ仕掛けたら、万年単位で塩になる事が確定しますよ」


 誰とは言わないが、それを執行する恐ろしい娘を全員が思い描く。


「ははは……さて、落ちもついた事だし、俺は商業ギルドへと行って来る。壱はゆっくり養生してろよな」


 身支度を整えエントリーホールへと降りると、使用人達が勢ぞろいして出立を見送る。

 奥からロッティが走って来るのが見えたので、一瞬何事かと思ったが杞憂だったようだった。


「間に合って良かった、ナガレさん商業ギルドへ行くんでしょ? ならこれが役に立つかも」

「これは? あ~そう言う……。これは役に立ちそうだ。ありがたく貰っておくよ。じゃあ行って来る。嵐影、商業ギルドまで頼むよ」

「……マ」


 全員に見送られながら門を潜る。嵐影はポテポテと町を進み、今日も平和だなと、流は呑気にあくびをするのだった。



こんばんわ~

今日は雨の所も多いですね、温かくなってきましたけど、お体をご自愛くださいね。


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