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078:気になる木

「お、おい。いきなりどうしたんだよ?」

「すまぬ、年を取ると涙脆くなっていかんの。お主と今日この時会えた事も、また運命なのだろう。そやつから聞いたが、お主は流と言うのじゃろう?」

「ああ、そうだ。って……何か変だぞ? え!? あ、そうか。あんた言葉を話しているのか!!」

「ふぉふぉふぉ。今頃気が付いたのかい。まあ、そやつと話しているから気が付かなかったのかも知れないがな」


 あまりに自然と会話している事に、最初気が付かなかったが話せる事に驚く流。

 しかも異世界で呼ばれるような妙なイントネーションじゃなく、日本語で「流」と呼ばれている事にも気が付く。


「あんた一体……」

「ワシか? ふッ……フフフフハハハハ! 世間では魔王……と、呼ばれておる!」

「なッ!? 魔王だと!!」


 思わず腰の美琴へ手をかける流、だが――。


「冗談じゃ、ご老人ジョークじゃよ。ふぉふぉふぉ」

「たたッ斬るぞ!!」

「まぁまぁ、そういきり立つものではないよ」

「あんたのせいだよ! で、こんな時間にわざわざ呼んだ理由があるんだろう?」

「うむ。ここの空間はな、通常入って来れないようになっとる。それに夜しか開いておらぬでの、それでお疲れの所申し訳なかったじゃがついでに来てもらった訳じゃよ」


 そう言うと颯は普通のラーマンの二倍はある巨体を揺らし、テーブル席へと流を誘う。

 するとそこには、すでにお茶セットが置かれており、温泉饅頭まであった。


「……何時用意した? って言うか、温泉饅頭!? この世界にもあるのか」

「ふぉふぉふぉ、まあ掛けなされ」


 颯は大きな手で器用にカップを持つと〝ずずぅ〟とお茶を楽しむ。


「うむ、今日もいい出来じゃな……さて流殿。本日来てもらったのは他でもない、そこにおるラーマンの事じゃ」

「そうだった、コイツにはここ最近、毎回助けてもらって感謝してるんだよ。長老のあんたにも感謝を言わせてくれ」

「ふぉふぉふぉ。心を聞く、そして見る。さすれば話も通じる。これがラーマンと話すコツじゃよ。それを自然に出来るからこそ、コヤツも流殿に懐いておるのじゃろう」

「そうなのか?」


 入口で丸くなっているラーマンを見ると、本当に愛嬌たっぷりな姿だと思う。


「それでじゃ、あらためて流殿に話と言うのはな、コヤツを流殿に預けたいのじゃよ」

「それは願っても無い事だが……いいのか? 多分俺はこれからも戦いや、面倒事に巻き込まれるはずだ。下手すりゃ命の危機もあるかもしれない」

「ふぉふぉふぉ。そこはコヤツも納得済みじゃわい。数おるラーマンの中でもコヤツはワシの直系でな、一族中でも最高峰の走破力を持つ」

「そんな大事な跡取りを俺に……。でも何故そこまでしてくれるんだ?」


 颯はとても優しい目で流を見つめ、こう続ける。


「なに……昔話にある、お侍との約束でな。それにコヤツも『時が来た』と大はしゃぎじゃからな」

「お侍? あぁこの刀の事かい? 確かに昔は侍が差してた物だが……ちょっと待て。あんた一体何歳だよ?」

「ふぉふぉふぉ。さてなぁ……もう年齢なぞ意味の無い事じゃから忘れたわい。まぁそんな訳じゃから、コヤツを流殿の友としてはくれんじゃろうか?」


 何か色々煙に巻かれた感じもあるが、颯の言葉には嘘は無いと確信した流は快く受ける。


「分かった! 俺もコイツとは気も合うし、逆に頼みたい程だよ。じゃあよろしくな! え~っと……そう言えば名前は何て言うんだ?」


 その問いに颯もラーマンもピクリと眉を動かし、背後で寝ていたラーマンも流の前へ来る。


「流殿、なぜ名を欲するのじゃ? この世界の住人はラーマンはラーマンとしか認識しておらん。故に『名』と言う概念が存在せぬのじゃよ」

「んん? なぜも何も、その方が親しみがあるだろ、友達なんだからな?」


 その答えに颯は目がしらが崩壊する。


「そう、か。友と言うてくれるかよ……ならば流殿、コヤツに名を付けてはもらえぬか?」

「え、俺が? いいのかそれで?」

「……マァ」

「そっか、よし分かった。俺で良ければ名付けさせてもらおうかな!」

「おお! それはめでたい事じゃ!! では少しまっておれ、今最高の条件で名付ける準備をするでな」

「お、おお頼むよ?」


 颯は二本足で立ち上がると、そのまま奥の間へと消えていく。


「どうなっているんだ、この空間は? っとお茶が冷めちまうな。って、お茶ウマー!? 紅茶のようだけど、葛湯みたいな喉越し……これは新しいな! それよりお前の名前だな。え~っと……」


(つぶらな瞳……ひとみちゃん! 違うな。カピバラみたいな見た目だから……カピ〇ラサン! ダメだ、著作権団体が飛んで来そうだ。カッコいい路線で行こう! スーパードラゴンキラー号なんてどうだ!? くっこんな時まで発作やまいが出るとは!!)


 ネーミングセンスが全くない事に気が付かない流は、ついつい病が出そうになる所を懸命に抑えつつ、何とか考えをまとめる。


(茶色い体にカピバラはゴワゴワの体毛だから……タワシ! ダメだ美琴に白い目で見られる。もう、栗毛ちゃんでよくね? ……エセ関西弁に『そらないわぁ』って言われそうだ。想像しただけで腹が立つ! じゃあ黒犬運送なんてどうだ? あ、茶色だし犬ですらない!? クッ! 何たる難関だ! 悪魔退治すら生温く感じる!! よし、歴史の名馬から選ぼう……)


 そうこうしていると颯が奥から戻って来るのが見える。


(タイムアップか……あぁそう言えば、今日のラーマンは本当に凄かったなぁ。森の中なんて影すら見えない程飛び回ってたし……ッ!? それだ!!)


「流殿、お待たせしましたな。それで決まったかの?」

「フッ……悩むまでも無し!」

「おお、それは凄い自信じゃて。ではこっちへ来てくだされ」


 危うくスーパードラゴンキラー号になりそうだった事を忘れて、ドヤ顔で長の後をついて行く。


「さて、これじゃよ。この葉っぱをコヤツの頭の上に乗せ、流殿はその上に右手を乗せて命名してくだされ。オマエはその魔法陣へ入るのじゃ」

「分かった、じゃあラーマン頼む」

「……マ」


 颯は流へ虹色の葉っぱを渡すと、ラーマンを魔法陣の中央へ座らせる。

 流はラーマンの頭の上に、そっと葉っぱを乗せると心を込めて命名する。


「ではいくぞ……お前は俺を乗せ嵐のように走り、その影すら置いていくように疾走した。故に命名する。お前の名前は『嵐影らんえい』だ!!」


 流が命名した瞬間、突如巻き起こる嵐のような風と、大自然の息吹を感じる生命力が魔法陣から溢れ出る。


「ふぉふぉふぉ。これはこれは……やはり貴方は……」

「うぁああ、凄い突風だけど大丈夫か!?」

「……マ!マ!マ!」


 数十秒の嵐の猛攻が徐々に治まって来る……その紺碧色の嵐が過ぎ去ると、そこには驚く事に「明るめな紺碧色のラーマン」が居た。


「ッ!? お、お前……嵐影か?」

「……マママ!!」

「色が変わったけど、体大丈夫か?」

「……マ~マ」

「今までの十倍元気になったって!? マジかよ……」

「ふぉふぉふぉ。流殿、これが命名の効果じゃよ。今後コヤツ……いや、嵐影もますます成長していく事じゃろう」


 そう言うと颯は快活に笑うのだった。


「流殿、今後も嵐影をよろしくお頼み申しますぞ」

「無論だ! これからも頼むぞ嵐影!」

「……マッマ!」

「あとこれをお持ちくだされ」


 颯は手に持っていた細長い筒のような物を渡す。


「これは?」

「嵐影を呼ぶときに使える魔具の笛じゃよ。これで奏でた音はラーマンにしか聞こえず、さらにこれは嵐影専用にしてあるから、どこに居ても届くじゃろうて」

「おお~それはまた便利だな! 長老、ありがとう」


 しばらく歓談していたら、もうじき夜も明ける時刻になってくる。


「流殿、話は尽きぬが、そろそろこの入口が閉じる時刻じゃ」

「ああ~もうそんな時間か……。じゃあ帰ろうか嵐影」

「うむ、また何時でも来てくだされよ」

「ありがとう、お茶とお菓子美味しかったよ」


 そう言うと流は入口へと向かう。


「流殿。一つお願いがあるのじゃが」

「ん? なんだ?」

「ワシを……ワシの名を呼んでくださらんか?」

「お、おう? 別に構わんが……じゃあまた来るよ、颯!」

「ふぉふぉふぉ。久しぶりに名を呼ばれるのも、また良いものじゃな」


 流が入口を出て行くのを眺めながら、颯は独り言つ。


「お帰りなさい『お侍さま』……今度こそ不義理はさせませぬぞ」


 颯は先程の流の言葉『なぜも何も、その方が親しみがあるだろ、友達なんだからな?』と言うくだりを思い出し、止めどなく涙を流しながら流の背を見送るのだった。



◇◇◇



 ぽてぽてと歩きながら幽霊屋敷へと向かう流と嵐影は、朝焼けの始まる夜空を眺める。

 流石にこの時間は静かだろうと思っていたのだが、それでも酔っぱらいや、早朝の仕事をする準備をする人や、コンビニ顔負けの二十四時間営業をしている屋台や、店が開いている事に驚きながら帰宅する。


「この世界の人って、みんな生き生きとしてるな」

「……マ」

「本当だなぁ……」


 感慨深くも目新しい風景を見ながら屋敷の前に到着すると、以前は認証制だったが今は門が自動的に開門する。

 中へ入ると、そこには驚きの光景があった。








ぉぅぉ……またブクマが増えとるぅぅ(((;°Д°;))))

本当にありがとうございますだ!! 


地震で大変な方も大勢居るとかと存じますが、どうかお体をご自愛ください。

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