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077:【深夜のお散歩をしよう】

「お館様、ご報告いたします。屋敷を取り巻く暗殺者は、全て沈黙に成功しました。予想したギルドや殺盗団の外部からの監視や索敵も無く、問題は無いと思われます」

「お、ご苦労さん。流石夜……よ……」

『…………』

「夜朔だな!」


 ノリで名付けたネーミングを忘れた流は、ジト目の美琴に救われる。


「ハッ! ありがたきお言葉!」

「後ろのお前達もご苦労さん、慣れないと思うが徐々に慣れてくれ」

「「「ハッ!」」」

「そうだ、キルト。こいつ中々見所があってな、俺を結界内へ入れてくれた事もあるから連れて来たんだが、お前達の一員として使ってやれるか?」

「肯定です。こいつは念話による連絡が行えるので、居て重宝する男です」

「お~そんな事が出来るのか、ロッキー?」


 ここまで惚けながら聞いていたロッキーは、突如話を振られた事で現実に引き戻される。


「は、はいぃ! 出来ます、やらせてくだせえ! きっとお役に立ちますんで」

「後はそっちの二人だな……よし、全員まずは俺んちまで帰るぞ」


 全員は頷くと、そのまま正門へ向けて歩き出す。


「そう言えばロッティ、お前達しか使用人は居ないのか?」

「いや、居たはずなんだけど……何処に行ったのかな?」

「お館様、それならば裏口で伸びていますよ?」

「何でまたそんな事に?」


 正門へ着くと、壱がその訳を教えてくれた。


「壱:多分でっけと正面は戦場になるとふんで、裏口から脱出しようとしたんちゃいまっか? 結界に何度か反応がありましたさかい」

「なる程ね、それで結界に触れ気絶と?」

「壱:多分そうなりますねん」

「分かった、じゃあ俺はこのままギルドへと報告してから帰る」

「壱:了解でっせ! 僕も屋敷へと戻っておきます」


 幽霊屋敷への帰館組と別れて、それぞれの目的場所へ向かい歩く。

 流は正門を出てから振り返り、オルドラ大使館を見る。


「悪魔の存在か……また面倒な事になりそうだな」


 そう独り言ちると、そのまま冒険者ギルドへと向かうのだった。



 ◇◇◇



 時刻は二十三時を少し回った頃、冒険者ギルドに激震が走る。

 殺盗団の壊滅と、その詳細が流によって報告されたからである。

 殺盗団討伐中のために待機中だったミャレリナが詳細を聞き、帰宅していたリットンハイムは即呼び出され、何時にも増して神経質な顔が固い。

 現在はサブマスターのリットンハイムの部屋で、あらためて報告がなされていた。


「ナガレ、それは本当の事……なのか?」

「ああ本当だ、最初に遭遇したボルツは偽物で、本物は悪魔の僕だった女が殺盗団の頭目だった」

「その悪魔だが、本当にあの悪魔なのか?」

「あのがどのかは知らんが、魔界の悪魔なのは間違いないと思うぜ?」

「悪魔がこの街に居たニャンて……しかもオルドラの大使として。リットンハイムさん、これはかなりマズイのでは?」


 二人は真剣な表情で思い悩む。


「ああ、だがしかし話によると流が討伐したんだろう?」

「それは確約する。ただすまない、出来るだけ穏便にって事だったんだが、その……屋敷に大穴を開けちまったんだが……」

「馬鹿野郎!! そんな事はどうでもいい! それよりお前が無事で本当に良かったぞ、ナガレ!」

「全くですニャ! あそこは観光地だからそうお願いしたんニャけれど、相手が悪魔だったって言うのだから、むしろその程度ですんで良かったですニャ」


 馬鹿野郎と叱られたのかと思いきや、リットンハイムとミャレリナは流の安否を気遣ってくれた事に、思わず心が温かくなる。


「一応聞くが、悪魔だと証明出来る物は何か持って来て無いか?」

「ああすまない。倒したら全身が塩の塊になってしまってな。あ、そうだ。悪魔が居た三階に、悪魔が閉じ込めたと言う魂が籠った品々が複数あるはずだ。それでどうだ?」

「うむ、調べて見ないと分からないが、それは物証になるだろう。ミャレリナは急いでこの事を憲兵隊に伝えてくれ。あと領主様へもな。今だ信頼が出来る者が戻らない以上、私が陣頭指揮を執ってオルドラの大使館へ乗り込む! ミャレリナも報告書の指示が終わったら、部下と冒険者の護衛を集めて置いてくれ」

「はいニャ! すぐに取り掛かりますニャ!」


 そう言うとミャレリナは、一秒でも惜しいという感じで駆けて行った。


「しかしナガレ、まさかこんなに早く解決するとは思わなかったぞ。しかも外で大暴れした後なのだろう? 凄いな本当に……」

「俺もここまで急展開に進むとは思わなかったさ」

「そうだろうとも。さて、聞いての通り私はこれから出撃する。まぁ事後処理だがね。外の件も含め、詳細は後日ゆっくりと聞かせてくれ」

「了解した。あんたも今夜は大変だな」

「なに、お前程ではないがな」


 お互いニヤリと笑うと、そのまま流は部屋を出ようと入口まで行く。


「ああそうだ。近く、ギルドマスターが戻られる。正式にお前を紹介したいから、そのつもりで居てくれ」

「ギルドマスター? ああそうか、アンタはサブマスターだったんだっけ。なんかここの責任者はアンタって感じで定着してたから忘れてたよ」

「はっはっは。俺と違ってギルドマスターはお美しい方だ。まぁ見てのお楽しみだ」

「期待して待っておくさ。じゃあな」


 去る後ろ姿を見ながらリットンハイムは独り言つ。


「コマワリ・ナガレか……一体何者なんだ? トエトリーに敵対しないといいんだが……ふっ 問題ないか」


 期待と不安。その両方がリットンハイムの中にはあった。

 短い間の付き合いだが、ナガレと言う人物は信頼出来ると思う、そんな自分の魂から来る囁きを信じる事にしたのだった。





 夜も遅いのにギルドの中は相変わらずの好景気で、呑めや騒げやの宴会が続く。

 ふと気配を感じギルドの一角にある、落ち着いた空間を見ると、そこには変態が手招きしていた。


「ようジェニファーちゃん。元気だったか?」

「アハン♪ ボーイこそよん。聞いたわよん、殺盗団……壊滅させたんだって?」

「なんだ、流石に耳が早いな」

「一応ココの守護者ですからねん♪ さ、そこにお座りなさいな」


 ジェニファーは自然な手つきでドリンクを作ると、それを流の前に差し出す。

 それは見るも鮮やかな、青と紺が混ざり合う寸前で留めている不思議な物だった。


「お疲れ様♪ これはサービスよん」

「悪いね、いただくよ」


 ジェニファーになら事の顛末を話すのは問題無いと、流は今日一日の事を話す。


「それはまた凄いわねん……しかも最後は悪魔でしょ? ミーですら数回しか会った事ないわよん。それによく倒せたわねん、偶然一度だけ倒したら白い粉になったわん」

「あぁそれな。あれは塩らしいぞ? そして倒し方は個体により弱点の場所が違うから、それを全部潰さないとだめだ」

「なるほどねん、納得だわん。あの時一思いに潰したからねん」

「本当に豪快なオネエだよ、アンタは」


 潰された悪魔に同情しつつも、これからの事を少し相談する。


「この後、殺盗団絡みはどうなると思う?」

「そうねん……まさかのオルドラ大使が黒幕だなんて、ウチの領主様も黙っていないでしょう。しかも悪魔だったんですからね。最悪戦になるわん」

「やはりそうか……その引き金を引いたのは俺だと思うと、少し思う処があるな」

「とは言え、多分オルドラ側は知らぬ存ぜぬで通すでしょうねん。悪魔が勝手にやった事だってね」

「あぁ……」


 確かにその方がオルドラが取る手法としては濃厚だった。

 正式にオルドラが悪魔を召喚して、手駒に使っていた等と確証があれば断罪されかねないのだから。

 そう考えると何故オルドラと契約した悪魔から、契約内容について漏れて居ないのか? またそれは現在契約中で秘中だからと考えても、これまでの歴史上でジェニファーも遭遇したと言う悪魔が居るのなら、なぜこの世界には悪魔との契約条件が知られていないのかが不思議に思えた。


「まぁ戦はそんなに心配しなくても大丈夫と思うわよん。ただ、この町で今後粛清の嵐が吹き荒れるでしょうね」

「確かにそうなるだろうな……」


 二人はリットンハイムが指揮する部隊が入口から出て行くのを見ながら、明日には届けられるであろう「内通者達のリスト」を得た憲兵隊が次にとる行動を予測し、重い溜息を吐くのだった。


 それから二時間ほどジェニファーと楽しく過ごした後、屋敷へと向かう事にする。


「ふぁ~。何時だ……って、もう二十五時半かよ」


 日本人故、なぜか寝ないと一日が終わらないと思い込む癖がある流だったが、ギルドを出ると、そこには見慣れた顔が寝そべっていた。


「んあ? ラーマンじゃないか。まさか迎えに来てくれたのか?」

「……マ」

「おいおい、そこまでしてくれなくてもいいのに、悪いな本当に」

「……ママ」

「え? 別にいいけど……」


 ラーマンは流を乗せると、おもむろに歩き出す。

 その速度は何時もの街中での通常速度だった。


「でさ、どこへ行くんだい?」

「……マ」

「着けば分かるって? そりゃあなぁ~」


 そのまま流とラーマンはヒタヒタと流の屋敷付近まで来ると、更に奥へと進む。

 少し進むと、そこには大きな公園が見えて来た。

 大きな公園に相応しい大木が数本見え、公園の照明たる魔具がぼんやりと照らしているのが幻想的だった。


 そんな大木の中でも一際大きい木がある所へ、ラーマンは移動しているようだった。


「ラーマン、あの木が目的地なのか?」

「……マ」

「そうなのか。お、そろそろ見えて来たな……ってデカイなこれ!!」


 近くまで来ると、その大きさが良く分かる巨大な木が立っていた。

 葉は横に良く広がり、幹は直径十メートル程で、枝葉まで入れれば三十メートル程あるだろうか。

 しかし背は三階建ての建物程と思ったよりも低かった為、遠くからはここまでの物とは思わなかった。


「で、これを見せたかったのか?」

「……まま~ま」

「え? しっかり掴まってろって? 一体何――うわ!?」


 突如ラーマンは流を乗せたままとても器用に木登りをする。

 背中で騒ぐ流を気にせず、スルスルと目的地まで登った。


「よ~来たのぅ、お若いの」

「は……え?」


 木を登ると、そこには木々に囲まれた広く平坦な空間があり、その中央には白銀のラーマンが椅子に座っていた。

 その空間は木の上なのに部屋のようになっており、魔具による照明が間接的に設置されて落ち着いた空間になっていた。


「え……っと、あんたは?」

「ふぉふぉふぉ。その子から聞いておらんか? ラーマンの長をやっとる颯と言う者じゃ」

「あ、いや聞いてたけど……ハヤテさん? 違うな、颯……この言葉でしっくりくる」

「うむうむ……それよりお主……やはり、そうなのか」


 一人で納得し始めた長・颯は涙を流し始め、何度も何度も頷くのだった。



なんだか、毎日ブクマと評価が入っていて感動ですだよ……(T^T)

応援してくれている方、それと新規で応援してくれる方、皆様には足を向けて寝れないッ!

(やべっ!? 立って寝るしかなくなるΣ(゜д゜lll))


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