表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

76/539

075:決戦オルドラ大使館~EX裏

「俺を騙すとはますます許せん!! 殺盗団が壊滅したのは痛手だったが仕方ない、次はあの人形共を使って新しい盗賊を仕立て直すか」

「つまり、お前は殺盗団を使って人間を誘拐して良質な魂とやらを手に入れて居た訳か?」

「それが何か? オマエは知るまい、死の国へ連れて行く前に懇々とあちらがどんな世界を教えてやるのだよ。ククク……するとな、どんな奴でも恐怖で顔が絶望に染まる。特に若い娘と子供がイイッ!! あれらの魂は絶品だぁ! そう、極上の酒をさらに熟成させたかのような芳醇な香りと奥深い味わい! さらに未練と言うスパイスが後引く美味さで楽しませる! もぅ、最・高・デスッ!!」

「……最後に一つ聞かせてくれ。オルドラは他にも悪魔を使役しているのか?」

「かもしれぬなぁ~? クックック。それを知りたくば私――」

「良く分かったッ!!」


 ゲスの言葉はこれ以上聞くのは無駄だとばかりに斬りかかる流。

 モーリスはとっさに三本の腕に持った短剣で受けめる。

 本当に容赦ない漢である。


「クッ!? また不意打ちとは卑怯者め! 悪魔か貴様ぁぁ!?」

「黙れ、悪魔が悪魔って言うな。プライドが無いのか悪魔め!」


 会話はコミカルだが、その間にも剣戟は積み重なる。


 モーリスは六本の腕をムカデの足のように上段からうねらせ、流へと襲い掛かる。

 まずは左上から襲い掛かる短剣を斬り上げ、剣戟の波を熟年の漁師が荒波を往なすように的確に弾き返す。

 

「オノレィィ!!」


 それがダメだと悟ったモーリスは、刺突攻撃へと変更し襲い掛かる。


「オイ、馬鹿にしているのか?」


 流もまた美琴を霞みに構えると、まるで機関銃の如く美琴を突き撃ち短剣の切先へと当て弾く。


「ナラバァアア!!」


 それも無理と悟ると、モーリスは正攻法へと切り替える。つまり――


「おっと、さながら六腕乱舞って所か?」


 縦横無尽に襲い掛かる太刀筋に一瞬ひやりとしつつも、それらを順番に弾き、隙あらば切り落とそうとするが、上質な金属らしくそれは無理だった。


「いい短剣じゃねーか、それ全部魔法か何かで強化した短剣か?」


 話しながらも斬り合いは加速する。

 加速が更に早くなると、周囲には火花が散り始め鍛冶場の様相を思わせる光景になる。

 

 鍛冶場で高速で槌を振るうことで、烈火が飛び散る幻影が見えそうになる程の、熱い火花が盛大に舞い散る打ち合い。

 その一瞬の打ち合いの間をモーリスは見逃さず、蜘蛛が獲物を捕捉するように、六本の腕を流へと覆うように向かい刺す。

 それを半歩後ろへ下がり、全ての刃が交差する一点を美琴で突き返す。


「クッ! 何故そんな剣一本でこの魔剣レプリカーズを防げる!?」

「あぁ~それが答えですね。それと几帳面に一点集中アリガトウゴザイマス」


 六本の短剣を美琴の切先で受け止めていた流は、更に半歩下がる事でバランスを崩させる。

 モーリスはたまらず短剣の鳥籠とも言える形を崩す。

 そのチャンスを逃さず、美琴を左から右へと薙ぎ払う様に短剣を弾き上げ、その間からモーリスの驚愕した顔と左胸が覗いた。


「チャーンス! 食らえ! ただの突きぃぃぃ!!」


 ガードに入る前に、素早く踏み込み美琴をモーリスの左胸へと突き立てる。

 何の抵抗も無く、左胸を貫く美琴にモーリスは目を剥いてそのまま背後へ倒れた。


「……あっけなかったな。悪魔ってみんなこうなのか?」


 釈然としないが、それでも倒れた悪魔を一瞥して部屋を後にしようと出口へと向かい十数歩歩いたその瞬間――。


「ツツゥ!?」


 流の第六感がまたしても警鐘を激しく鳴らす。

 咄嗟に上半身を左に捻りその原因を目視すると、目の前に二本の短剣が通り過ぎて行ぎ、更には倒れたモーリスが息を吹き返して幽鬼の様に立っていた。

 更に今投擲したであろう短剣は、モーリスの手の中へと戻っている。


(どうなってやがる!? キルトが持ってる手裏剣みたいな物か? それよりモーリスは死んだはずだろ……チッ。ミスった、確認忘れだ)


 流は観察眼の発動をしなかった事を後悔しつつも、雰囲気が豹変したモーリスから目が離せなかった。

 元々あった腕と新たに生えた腕、計六本がさらに太く隆起するように筋肉が膨らむ。

 更に足も大腿・腓腹筋が若木の丸太のようになり、品の良いスラックスは見る影も無く膝下から破けていた。


「やってくれたな。これ以上は手加減せん……」

「手加減してくれてたのか? それじゃあ俺も前言撤回だ……お前はタフで強い、だから俺も本気を出す事にする」


 美琴を納刀し、そのまま腰を少し落とす格好になる。

 それが合図とばかりにモーリスは、先程と全く違う冷静さで攻撃を仕掛けて来る。


「……シネ!」


 あっという間に開いた距離を詰め寄りながら、モーリスは左右の上腕と下腕に持った短剣を投擲する。


「ごめんだね。ジジイ流抜刀術! 奥義・太刀魚!!」


 迫る四本のレプリカーズに、美琴の妖力を「今の流が乗せられる」だけ詰め込んだ結果がこれまでと別物だった。

 以前と違い銀鱗の太刀魚が剣閃から進化したかのように、その存在が顕現する。

 まるで銀色の小竜がそこにいるかの如く、魔剣レプリカーズを呑み込むように強烈に弾き飛ばす。


「無駄な事を!」

「でもないさ?」


 弾き飛ばしたレプリカーズはモーリスの手に戻った瞬間、それは誰の目にも分かるほど「ヒビ」が入っていた。


「な、何……だと? 馬鹿なあああああ!?」

「理解出来たようで何より。んじゃ……続き、イクぞ?」

「くっ!!」


 モーリスが警戒して距離をとった事で、流は空いている距離を美琴を肩で担ぐように構え、上から見たらまるで床を舐めるように低い姿勢で速攻で駆ける。

 モーリスは低姿勢で突っ込んで来る流の頭へレプリカーズを投擲し、流の接近を阻もうとするが、美琴を軽く角度を付けて受け流す。

 

 目前に迫る流に慌ててレプリカーズを手に戻すが、それは致命的に遅かった。

 

「遅い!! ジジイ流弐式・・! ――」


 ――三連斬や四連斬には「式」と付く型式がある。

 壱式は本来の業。そして弐式は「溜め」の業である――


 流はモーリスへ向かいながら力を溜め疾走しており、更に美琴の妖力も同時に溜め込む。

 刀身の天女が怪しく輝きだし、あわやその存在が刀身から抜け出ようとするかのように存在感を増した天女が刀身で舞い踊る。


「なッ!?」

「シィィヤアッ!! 砕けろ、人に仇なす魔剣め!! 四連斬!!」


 モーリスもその異常さに気が付き、ギリギリで手に戻ったレプリカーズで防御しようとするが、すでに流の四連撃はガードと「ほぼ同時」にモーリスへと向かっている。


 先生との闘い、そしてボルツとの闘いを経て、更に力量が上がった流れは四連斬を使いこなす。

 更に休憩中に異怪骨董やさんで「美琴より教えてもらった妖力の操り方」を実戦に投入し使う。


 弐式により強化された斬撃は、モーリスの首を目掛けてして疾走するのを確認すると、流は「ある行動を予想」して行動に移る。


 モーリスはレプリカーズを手元に戻す事が遅れたために回避不能と判断すると、ヒビの入ったレプリカーズを全面に押し立て、最後尾に「極楽送りの双剣」でガードする。

 

 迫る四本の斬撃、それがついにレプリカーズに激突する!

 あれ程堅かった手前のレプリカーズは、砂城のように脆く崩れ去る。

 次に二本目のレプリカーズは、一本目よりは持ったがやはり粉々になるものの、斬撃の一つはそれで相殺して消える。


 続く三本目は斬撃の二撃目に耐え切れず、かき氷が溶けるように蒸発する。

 最後の四本目は、二撃目の斬撃を絶妙に押し返し、消し飛ばしたが、続く三撃目に耐え切れず爆散した。


「クッソッガアアアアアッ!!」


 最後に残った極楽送りの双剣で、懸命に白銀の化身たる残りの二撃に耐えるモーリス。

 その甲斐があって三撃目は防ぎ切り、四撃目も辛くも弾き飛ばす事に成功する。

 

「ハァハァ、や……やったぞ! 馬鹿め――ぇ?」


 満面の笑みで、ざまあないと流へ侮蔑の視線を叩きつけるモーリス。

 しかしその視線を送った相手は、妙な恰好で自分を見つめているのに気が付く。

 それは刀身を逆刃に構えて頭上に掲げ、背中越しにモーリスと向き合い、顔だけを向けている状態で流は別れの挨拶をする。


「予想より強固な短剣と業だった、見事だモーリス。そして、さようならだ……ジジイ流断斬だんざん術! 羆破斬!!」


 ――羆破斬ひぐまはざん……本来なら背後から追って来る巨大なヒグマ・・・・・・を、カウンターで一刀の元に真っ二つに叩き斬る豪の業である。しかし例によって美琴の妖力が加われば――


 流は後ろを向いた状態から、左足を勢いよく右足の裏側へと回し込む。

 すると体は左回りに回転し、それと同時に右足も左回りに足を運び、上半身も同じように回転する。

 やがて回転が徐々に早くなり、その高速回転を三度行いながら遠心力を付けてモーリスへと斬り込む。


 その姿はまるで斜めに回っている大型の丸鋸のようでもあり、死神の鎌が生えたコマのようでもあった。


「や、ヤメヤメヤメヤメテエエエエエエエエッ!?」


 その死のコマが、ついにモーリスの最後の希望たる「極楽送りの双剣」へと斬り結んだ刹那――『『ガギンッ』』という音と共に、極楽送りの双剣が真っ二つに折れる。


「そんな゛馬゛ギャプゲレァァァァァ」


 双剣を叩き折った流はそのままモーリスを斜めに両断し「ズダン」と言う音と共に踏ん張って止まるのだった。


 しかし、やはりと言うべきか、当然と言うべきか、業を放った流れは止まったものの、円状の斬撃は止まる事を忘れたかのように、斜めに放たれたその斬撃は大きくなり、やがて屋敷をも斜めに切断してしまう。


「分かってはいたけど……えぇ……うそん……」


 そんな美琴の力の片鱗を毎度毎度絶句する流に、刀身の天女は頬を染めて顔を隠すのだった。



毎日ブクマと評価していただき、ありがとございまっす!

本当にうれしいです!


もし面白かったらブックマークと、広告の下にある評価をポチポチ押して頂いたら、作者はこうなります→✧*。٩(ˊᗜˋ*)و✧*。よろしくお願いしまっす!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ