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072:決戦? オルドラ大使館

「「姉さあああああああああああん!!!!」」


 突如響き渡るメイド二人の声に、流も思わず振り返る。


「グアアアッ……来るな! お前達はそこに居ろ!!」

「で、でも姉さん!?」

「黙れ!! いいか、これは因果応報ってヤツだ。オレ……いや、アタシ達はとうの昔に死んでいる。分かるな!?」

「はい……」

「……いい子だ。ナガレ! さあ、最後の勝負といこうじゃないか。アタシとお前の命の輝きをここに示せ!!」


 ボルツは怪我など無かったように、左手と両足で果敢に攻め立てる。

 それは一撃を放つ度にボルツの命を削るかのような鋭い攻撃だった。


「そのダメージでそこまでやるかよッ!」

「ハハッ、当たり前だ。この……そう今、この瞬間のために生きて来たのだからなぁ」


 ボルツは流の頭部へ踵落としで大技を放つが、それを見切って半歩体を右に捻り流は躱す。

 が、それは誘いで本当の攻撃は右足で踵落としをし、そのままグルリと縦に一回転した遠心力を利用した左足の踵落とし二連撃を流に叩き込む。


 セミプロの業ならいざ知らず、玄人。それも本職のトップの業に、たまらず流はすでに再使用が可能になった奥の手を使う。


「ッゥ! アクティブ! 氷盾の指輪!!」


 二連撃と思われた蹴り技は、そのまま止まる事を許さず縦、横とコマのように回転しながら流を追い詰める。

 突然の事にアクティブの三つの盾はあっと言う間に使い切る。


「くぅ!? お前、毒蛇より今の方がよほど脅威だぞ!!」

「くはッ~、嬉しい事を……言って……くれる。本来、これが、アタシの業だよ」


 ボルツの顔はすでに死相が取り付いているのが分かるほど土気色に変色し、さらに息も荒い。


「ボルツ……お前もうやめな――」

「ば~っか♪ これがアタシの最後の生きた証だよ」



 流の言葉を遮るようにボルツはクスリと笑うと、まるでバレリーナのように右足を高々と頭の上へと掲げると、右足から覗く左目で妹達を見ながら最後の言葉をかける。


「ねぇ、ミレリア。ロッティ。今日までありがとうね、あんた達が居てくれたからお姉ちゃん頑張れたんだ。あれからもう何十年かな……」

「百十五年だよお姉ちゃん……」

「そっか……もし天国……違うか、地獄ってものが本当にあったらそこで謝るね。本当にごめんね、ありがとう」

「私達こそごめん……」

「お姉ちゃん、先に行ってて。すぐに向かうね」

「馬鹿!! 出来れば何とか生きて。そのためにも……ッ!!」

「俺が邪魔か?」

「ええ、お願い。私と一緒に地獄へ落ちて!!」

「そう言うセリフは愛しい娘に言って欲しかったんだがな」


 流は腰のアイテムバッグから取り出した、紫色の回復薬を一気に煽り飲む。


「準備はいい? はぁ~。最後の大技、ナガレに受けてもらえて最高の気分で逝けるってねえええええ!!」

「ふん、かかって来い。俺も美琴も雑魚には負けん!!」


 ボルツは高く掲げた足を正面へ勢い無く・・・・落とす。

 すると突然正面の空間が歪み、歪んだ空間の分だけ流が引き寄せられる。


 流は「なッ!?」と言う呻きとも驚愕とも言える声が出る。


「いらっしゃ~い♪ そして、死んで!!」


 目前に迫るボルツの右膝が、流の鳩尾へと痛恨の一撃となってめり込む。


「グッボッッヴァ!?」


 たまらず流は吐しゃ物を嘔吐し、内臓も破壊されたのか血液も吐き出し倒れる。

 それを満足気に見つめたボルツも、同時に大量に吐血して倒れた。


「ぐぼッ――はぁぐぅッ! 今……『契約』が、切れ、たわ!」

「「おねえぢゃん!!」」

「ミレリア……ロッティ……ナガレ、が生きていたら……あり……がとう。そして、ごめんなさいと……伝えて……あと、二人とも……元気で……ね」

「う゛ん゛! おねえぢゃんも……ありがどう」

「さようなら姉さん……愛しています、いつまでも」

「先……生……今そ――」


 その言葉を聞いたボルツは、憑物が晴れたかのような清々しい顔で瞼を閉じる。

 すると美しかった容姿は、突如時間が無慈悲に過ぎたかのように流がれ、美しかった顔は骨と皮だけになってから灰になってしまう。


「ボルツ……最後の攻撃、死ぬほど効いたぞ。よく分からないが、ボルツの意思は受け取った。安らかに眠ってくれ」


 流は完璧にダメージが抜けていないからか、片膝を床に付きつつも左手をスっと胸の位置まで上げ片合掌をし、軽く頭を下げ黙祷するのだった。


「ナガレさん……あの怪我でもう……」

「本当に申し訳ありませんでした。言い訳はしません、後の事はお任せします」

「おいおい、それじゃ何の事かさっぱりなんだが? 俺としてはボルツだと思っていたあっちに転がっている男が実は偽物で、本物は君らの姉さんってだけで混乱モノなんだぞ?」


 二人の姉妹は顔を見合わせ頷き合う。

 

「あらためまして名乗りをさせていただきます。私がこの子の姉のミレリア、そして妹のロッティと申します。少し、長い話になりますがお付き合い……いただけますでしょうか?」

「ああ構わないよ。まだ夜は……始まったばかりだ」


 流は窓より見える、町の喧騒を思い出しながら先を促す。





◇◇◇



 ――百十五年前


 三姉妹は「ライア神国」と言う所で生まれた。


 その国にある小さな村に姉妹たちは住んでいたが、村を当時有名だった大盗賊団が襲って壊滅させる。

 三姉妹は命が助かるが、賊達に捕まり賊達の奴隷にされた所から話は始まる――。



「姉は賊達に気に入られ、賊達の仕事を手伝わされるようになりました」

「つまり盗賊となったと?」

「はい、その通りです。でもそれは私達二人を賊達からこれ以上汚されないため、その魂を守るために仕方なく仕事をしていました。しかし、徐々にですが姉の様子が変貌して行くのが分かりました……あれ程嫌がっていた賊の仕事を楽しそうに始めたのです」

「その原因ってのが、今のお前達がまだ生きている事に関係するんだろう?」


 姉妹は驚きの表情で流を見る。


「っ!? どうしてそれを……」

「どうしてって、それだけ生きてるのにその若さと美しさ。尋常じゃないわな」

「確かに……すでに『コレで固定』されているので、すっかり忘れていました」

「固定? 何の事だ?」

「それこそが私達姉妹が現世に留まっている原因なのです」


 ミレリアはその訳を話し始める。


「あれは姉が狂いだした頃でした、私達のアジトへ一人の男が現れたのです。その男は賊達や私達へ『魔具』を渡しました……それを使えば大幅な力の向上と、永遠の若さを手に入れられると言うありえない話で」

「また胡散臭い話だな」

「ええ、最初は誰も相手にしませんでした。姉以外は……」

「まさかそれを使ってお前達を何とかしようと?」

「はい、そのまさかでした。きっと藁にも縋る思いだったのでしょう……。ですが胡散臭い魔具は本物でした。それを使用した姉は恐ろしい程の力と、頭の冴えで、賊達を一人残らず始末しました」


 流はその話を聞きながら、灰となった姉妹の姉を見る。


「その魔具とは一体?」

「あれは悪魔……そう、悪魔の魔具でした。ナガレさん、申し訳ないのですがあっちに転がっている男、姉の代行者たる男の胸ポケットにある『箱』を持って来てもらえませんか?」

「箱? 分かった」


 流は不審に思いながらも、ミレリアが言った箱を探す事にする。

 偽ボルツの胸のポケットの中には縦五センチ、横十センチ、深さ三センチ程の長方形の木箱が入っていた。


「それにしても代行者って……っと、これか?」

「はい、それです。そのままそのテーブルの上に置いていただけますか? 因みにその男は姉が直接手を下すのが嫌だったのと、本人が頭目の一人として行動するのが快感だったらしく、お互いの利益が一致した結果の代行者でした」

「あぁ、そう言う事ね」


 言われた通り流はテーブルの上に箱を置き、箱を開けてみる。

 すると中には石なのか、それに似た何かなのかは不明だったが、硬質な物で出来た人形が二体と、中央には壊れた同じ物が入っていた。


「これは……何かヤバイ気配がするんだが?」


 流は観察眼を使い人形を見て見るが、詳細な情報は分からなかった。

 ただこの人形は「良くないもの、不吉な物」と言う認識だけは分かった。


「はい、その通りです。それが私達姉妹が取り込まれた『魂のくびき』と呼ばれる魔具です……それはとても酷い、最悪の魔具なのです」


 ミレリアは当時を思い出したのか、とても辛そうに語り始める。


「姉がその魔具を寄越した男とどのような契約をしたかは知りません、その訳は契約内容を話す事を禁じられていたからで、それも契約の一つだったようです。ただ、長年姉と居るうちに分かって来た事もありました。それがその石人形です」


 そう言うとミレリアは石人形が入っている箱へと指を近づける。

 箱に触れた瞬間、ミレリアの手は「ビシリ」と鞭に打たれたかのような音と共に上へと弾かれた。


「これが私達がその石人形に触れられない訳です」

「なるほど……」

「話を戻します。姉が盗賊を皆殺しにした夜でした。暗闇からその魔具を姉に与えた男が何処からともなく現れたのです、そしてこう言いました。『ハッハァ! 契約は成就された、残りの報酬も支払って貰おうか?』と」

「それは一体?」

「それは私達の『肉体』でした。あの男は私達の肉体を、死の世界と言う場所へ持って行ったのです」

「え!? なんだそりゃ。まるで悪魔じゃないか」


 ミレリアが思い出したのか辛そうにしているのを見て、代わりにロッティが話し出す。


「おねーちゃんが辛そうだから、ここからは私が話すね。ナガレさんが言った通り、そいつは悪魔そのものだったんだよ」

「マジかよ! 悪魔とか居るのか!? ファンタジーすぎる……」

 

 自分の執事が何者なのかを知らない流は、驚天動地のファンタジーさに驚く。

 そんな流の驚きを尻目に、ロッティは静かに頷くと話を進める。


「多分姉との契約内容は『私達三姉妹の肉体』だと思う。でもボルツお姉ちゃんはそれを知らなかったんだと思うんだ。悪魔が私達を連れ去る時の、取り乱し方は尋常じゃなかったからね。きっと言葉巧みに騙されたんだと思う」


 流は思う、悪魔の契約って真実を言わないとだめなんじゃないかと。


「悪魔って嘘を付いたら契約できないって聞いたが?」

「さぁ、そこまでは分かんないんだけどね。でも結果的に私達三姉妹の肉体は、何処か知らない場所に今でもあるはずなんだよね」

「それで何が目的でその悪魔はお前達にこんな事を?」

「それは……」


 ロッティは箱を見つめながら話す。


「私達の魂の苦痛を味わっていると言っていたよ、その人形を介してね。だから私達ではそれを破壊するどころか、触る事すら出来ないの。ボルツお姉ちゃんが契約が切れたと、さっき言ってたからもしかしてと思ったけど、私達はまだ続くんだね……」

「だからボルツの人形だけ壊れてるのか」


 箱の中で人形が二つに割れているのを見て、これがボルツなんだろうと思う。


「そして肉体が連れ去れた私達は、この世で活動が出来るようにあの時のまま、悪魔の力で固定した偽の肉体を与えられ、その中に魂を込められたんだ。その魂の半分が人形に入っているとも言ってたかな……そしてボルツお姉ちゃんが、どうして今でも殺盗団とか言う酷い事をしていたかと言うと、多分それも契約の一つなんだろうと思う。悪魔が最後に現れた夜、ボルツお姉ちゃんに『もう凶悪の呪は必要ありませんね、明日から自分で苦悶しながら悪事を重ねなさい。あぁそうだ。盗賊稼業だけは続けなさいよ』と言って笑っていたから……」


 流は話を咀嚼するように、じっくりと考えなら整理する。


「……なるほどね。つまりその悪魔との契約内容に『素で苦しむ姿』みたいなのがあったのかもな。そして盗賊稼業も強制した、と。その盗賊稼業見てお前達二人が苦しめば、さらにボルツの苦痛は大きくなるって感じか?」

「うん、多分そうだと思うよ。私達が何も出来ない事の無力感を餌にしてたんじゃないかと思う」


 二人はとても苦しそうに頷き、その目からは涙が零れるのだった。

な、なんだか評価とブクマが徐々にUPしてまいりました~!(((;°Д°;))))

★も4つ半となり、どうやら皆さまに喜んで頂けている様子……。これは嬉しい!

なのでこの後20時頃にもう一話更新しますね! もう頑張るッス!!


もし面白かったらブックマークと、広告の下にある評価をポチポチ押して頂いたら、作者はこうなります→✧*。٩(ˊᗜˋ*)و✧*。よろしくお願いしまっす!

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