071:決戦!!! オルドラ大使館
「なるほど、聞いていた容姿と違ったと思ったらそういう訳かよ」
霧から新たに出て来たのは、先程までの中年で中肉中背の男はすでに無く、キルトから聞いていた通りの容姿になった人物が腕組みをして立っていた。
その男はガタイの良い体と、スキンヘッドに二匹の蛇が絡まるようなタトゥーが掘られている男だった。
目じりにはいかにも盗賊の頭目といったような傷があり、肌がテカテカしている程に生気に満ち溢れている色黒の肌が特徴的で、目鼻はゴロリとした印象を受ける。
その顔は悪辣に齢を重ねること五十程に見えるが、顔年齢に反比例したその若い体は、敵を力でねじ伏せるだけの迫力を周囲に強烈に放つ。
「それで、どうする? お前程の男なら最高幹部として迎え入れるぞ! 俺の右腕となってこの町を支配しようじゃないか? 町の半分をお前にくれてやる、この町の経済規模はそれは凄い、それを半分だ!! 冒険者では一生かかっても稼げない富がお前の物だぞ!?」
「はぁ……さいですか」
流は気の無い返事でそれに応えながら思う。せめて某魔王様くらい世界の半分って言えよと。
「それにだ! 殺盗団はいいぞ、無論何でもやりたい放題だ! 金も女も権力も思いのままだ!! 名誉が欲しくばくれてやる! 地位がお好みか? ならそれも纏めて持って行け!! どうだ、最高の待遇だろう? これで断る馬鹿はいな――ハァ?」
その刹那――高原の澄んだ風で、南部鉄の風鈴が揺れたかのような音で〝ティン〟と打ち響く。
ボルツが両手を広げ、殺盗団の素晴らしさを朗々と語っている最中に視界が〝グルリ〟と回転する。
その回転はとどまる事を知らず、天井・窓・床・壁・天井・机・ソファーと変わり、最後は自分の体を見上げると同時に、ボルツの意識は消え失せた。
「聞くに堪えん。初伝の抜刀術でも喰らっとけ」
「「キャアアアアアア!?」」
メイド達が突然の惨劇に悲鳴を上げる。慌てて流は一番端でパニックになっているメイドへと近寄ると「誤認」の効力を停止させる。
「おい、落ち着け。大丈夫だ、お前達には何もしない。だから落ち着け、な?」
突然現れた流にまたもやパニックに陥りそうになるが、流の優しい瞳と、ゆっくりだが力強い言葉にメイド達は落ち着きを取り戻す。
「ふぅ~。落ち着いたか……お前達を巻き込むつもりは無かったんだが、結果巻き込んでしまった。すまなかったな、怪我は無いか?」
メイド達は顔を見合わせて無事を確認する。
やがて無事なのを確認すると、先程一番パニックになっていた右端のメイドが話し出す。
「た、助けてくれますか?」
「ああ、それは約束しよう」
「よかったぁ~」
メイド達は安堵の表情を浮かべる。
それを見た流は、ボルツの死体を調べようと近くに寄った時――
ヒュッボッツ!! ――パキァィィン!!
「グアアッ!? 何だ??」
流は強い衝撃と、何かが破壊された音に一瞬混乱するが、その原因はすぐに判明した。
「なんだ、お前……? 一体どうやって防いだ?」
声のする方を見ると、メイド服の胸の部分が自己主張の激しい赤髪の娘がホワイトブリムを投げ捨てながら唾を吐く。
(くッ!? 氷盾の指輪のパッシブが発動したのか? 助かった)
「ハッ! メイドさんなのにそんな事も知らないのか? 俺に聞くなよ恥ずかしい」
「……つくづく舐めたガキだ。いいだろう、世間の厳しさってのを教えてやる。なに、気にするな。授業料はお前の悲鳴と苦痛、そして命で支払ってもらう」
瞬間赤髪のメイドから紫色の魔力が噴き出す。
その魔力は徐々に両手に集まり、左右に半透明な紫の蛇が顕現する。
「オイオイ、もしかしてお前がボルツなのか?」
「どうしてそう思う?」
「お前も馬鹿の類か? お前の事が大嫌いな奴が教えてくれたんだよ、『毒蛇のボルツ』って恥ずかしい二つ名をな。見たまんまじゃねーか、ちょっとは捻ったネーミングにしろよ恥ずかしい(笑)」
「……シネ」
ノーモーションからいきなり右足で蹴りを流の顔へと放つ。
「うぉ!? いきな――ッ」
蹴りを躱した流は、体勢がのけ反る形になる。
そこへ追撃とばかりに、ボルツは蹴り上げた右足を床に付ける前に、魔力で空中へ足場を作ったかのように踏みしめ、コマの様に回転しながら左足で流の脇腹へと刈り込むように蹴りを叩き込む。
「ぐぅ!?」
「チッ、浅かったか」
蹴りを脇腹に入れられた瞬間、流は伸びきって固くなった体勢のまま無理やり背後へと転がる様に飛ぶ。
(やべぇ、油断した! 残りの眼は……いや、偽ボルツですら見抜いたんだ。下手に慣れさせるより、一瞬なら目くらましに使えるはず……ならここは)
流は起き上がると同時に、因幡謹製の回復薬(紫)を飲み干す。
「オイオイ、ボルツ君は何時からボルツチャンになったんだ? 蹴りも女の子になってるぞ?」
「つくづく舐めたガキだよ、お前はな!!」
(よし、熱くなるタイプと見た。このまま乱してやれば――)
「隙を作れるかも知れない――か?」
流が頭の中で考えている続きを予言のように言い出すボルツ。
「と、思うだろ? 馬鹿だね、これだからガキは嫌いだよ。考えが浅い浅い」
「……はて? 何を言っているのか分からないな」
「フン、隠すなガキ。オレは伊達に殺盗団の頭目の一人じゃないって事だよ。だからお前みたいなタイプは見て来たよ。腐る程な」
「やだ~。見た目よりおばさん? いや、キット婆さんじゃないですか~」
「コロス!!!!!!」
「ちょ! 激オコ!! さっきの余裕は何処に!?」
ボルツは左右の拳に纏った蛇へ魔力を注ぐと、そのまま殴りかかる。
「炎蛇拳! 焼かれるような毒に苦しみな!!」
「ご解説ど~も」
紫色の炎を纏った蛇が無軌道に流へと襲い掛かる。
流も負けじと美琴でボルツの拳を斬るが、魔力の壁に苛まれて狙い通りに当たらない。
ボルツも更に激しく流へ攻撃するが、美琴によって全て弾かれる。
炎の蛇は諦める事を知らないように、執拗に流へ向けて毒牙を正面のあらゆる角度から噛みつき襲い掛かる。
それを全て美琴で払いのけつつも、美琴でカウンターを決めながら押し返す流。
「シィエヤァァ! 裂傷毒蛇拳!」
「くッ! あぶねぇ!?」
ボルツは流が微妙にバランスが崩れるように攻撃しながら、その隙に多種な毒蛇拳を切り替えて攻撃するが、ギリギリ流もそれを弾き、カウンターで攻撃する。
恐ろしく高速な攻防だったが、お互いその場から一歩も動かないと言うありえなさに耐え切れず、床や天井が円形状に崩壊しだす。
「「お前! 何だその武器は!?」」
思わず同時に叫ぶ二人。
「チィ! お前のその剣は普通じゃないな?」
「それはお互い様だろう、何だその蛇は。ヌルッとして気持ち悪いぞ!」
どちらとも言わず、二人は後方へと飛び距離を取る。
その隙に流は、美琴へと耳打ちするように話しかける。
(美琴、行けそうか?)
『…………』
(そいつは面倒だな、探ってみる)
「……おい、ガキ。誰と話している?」
「おばあちゃんなのに耳がいいですねぇ。気のせいですよ、御年なんですからね?」
「絶・対コロス!!!!」
「まぁ怖い!!」
その言葉が合図の如く、弾け飛ぶように敵に向かう二人。
右手の炎の蛇が霧のような物を纏いだしながら流に迫る。
「今度こそ死ね! 霧毒蛇拳!」
「お前がな! ジジイ流壱式! 三連斬!!」
流の三連撃がボルツが放つ霧毒蛇拳を弾きながら、左胸へと迫る必殺の一撃がボルツの胸へと吸い込まれた。
「殺ったか!! ッ――何だ!?」
会心の剣筋に思わず禁句を発する流。しかし禁句の効力は絶大らしく、その威力を存分に発揮する。
「捕えた……ガキィィィ! お前は御仕舞だよ! どうだ動けまい? 防御不能の霧毒だ。斬り結んだ瞬間お前の負けは確定だああああ」
「つぁック!? 左半身がッ!!」
「クククク……ギャハハハハハハ!! これだ! これ程楽しい事はない! お前はオレを予想以上に追い詰めていた事を自覚していないだろう? そうさ、久しぶりに命のやり取りをして生きている実感ってヤツを楽しんだ……そうだ、これこそが生だッ!! 殺盗団? ハッ! そんなモンはオレが楽しむ椅子に過ぎねぇ! 見ろナガレ! オレ達は今、最高に、美しイイイイィ!!」
ボルツはメイド服を無造作に剥ぎ取り、下着姿のまま奥に詰まった妖艶に実った果実を惜しげも無く流に献上する。
さらに上気した恍惚とした表情で涙を流し、右の口元より涎を垂らしながら流に歩み寄る。
「大体半身しか麻痺らねぇとは何だよオマエ……ハァハァ……ナガレ! ナガレ! ナガレェエェ! どうだ!!! 俺と一緒に世界を楽しまねーか!? お前となら何処までもイケる気がする! 心も体も全部イケる!! 間違いねぇ……オマエだ、長年探していた半身は絶対にオマエダ!!」
血走った目で目の前に迫る痴女に流は覚悟を決める。
最早これまで! 流は不自由な右半身で精一杯の返答をする、全身全霊で嘘偽りなく、心のホゾまで晒して命を賭して真剣に答える。
「あ、いや、ロリババアは趣味じゃないので……それにロリババアは十七歳までが世界標準なんで、二十代半ばに言われましても……(困惑)」
「ふふ……そうよね、オレなんか女として見てくれねーんだ……はは……そうだ、とっておきのプレゼントがあるんだった。受け取ってくれよ……」
ボルツの両手に顕現していた蛇が具現化していた魔力が右手に集まる。
紫から赤紫へと変化したその魔力の塊は、禍々しいと言うにも烏滸がましい程に、見る者全てを射殺すような強烈な呪詛を含んだモノが具現化した蛇へと変貌する。
「シッネェェェ工エェェェアアアア!! 極死蛇拳!!」
叫びなのか奇声なのか良く分からない雄叫びを上げ、ボルツは流に「触れたら命が無くなる」のが分かる、ヤバイ蛇を解放するように右拳を放つ。
それは狙った獲物が死ぬまで絡みつくように、毒蛇の化身が襲いかかる強烈な一撃だった。
「それがどうした! 誤認&疾風発動!!」
流は動かないはずの半身に力を込める。
すると麻痺していた半身が、活力を取り戻すように細胞が活性化する。
それは因幡謹製の回復薬による効果が、今だ続いていた事による復活劇だった。
流は細胞が復活する感覚を感じながら、異世界へ来た時に因幡からもらった薬を整理していた時、一枚の紙が輪ゴムで括り付けられていた事を思い出す。
そこには丸っこい文字で「あ、そう言えば毒にも効くのですよ。えっへん!」と書いてあった。
「ナァッ!? 消え――」
誤認の効果を発動した流は疾風を纏い、高速バックステップで距離をとったかと思えば、即腰を落とし美琴を「即死の毒蛇拳」へと一点突破の構え、つまり――
「ジジイ流刺突術! 間欠穿!!」
オルドラ大使館へ突入前、キルトからボルツの必殺とも言える業を聞いた時に美琴はこう言った。
『問題ありませんよ、人の業など綺麗に穿ってみせましょう』と。
ボルツの纏う蛇の魔力が具現化し、さらにソレが凶悪に成長した姿になった毒蛇の化身とも言える蛇へ、流は美琴を渾身の力で蛇の眉間へと美琴を突き立てたと同時に姿を現す!
即座に毒蛇を介して、右手に伝わる衝撃にボルツは口角を上げてあざ笑う。
「ギャハハハ! 馬鹿かよ! 一瞬隠れて驚いたが、その程度の業でオレの極死蛇拳が破れるものか!」
「――と、思うだろ? 俺もそう思う。が、美琴さんにかかればこうなるッ!!」
攻撃力より防御力、拳闘士においてそれは攻撃力と同義な拳を流は穿つ。
先程までヌルヌルと美琴を受け流していた魔力は、美琴がその魔力の要を見極めた事により、確実に毒蛇が顕現している要を破壊する。
それは赤紫の毒蛇を真っ二つに叩き斬り、その斬撃は止まる事を忘れたかのように疾走する。
「ッ!? ギャアアアオレノ腕ガアアアア」
止まらない斬撃は、右手の中指と人差し指の間から綺麗に肩口まで真っ二つにし、背後の壁まで斬った後、壁に大穴を開けて止まるのだった。
お前! 昨日さぼったから寝ないで投稿しろ!
今日も今までさぼったろう!!
とお怒りの方は、なにとぞ! ブクマと評価をポチポチしていただけたら、エア切腹します。
その時の掛け声は、某射〇音先生の如くガンバリマス……。
本当にあの表現は何度笑わせてもらったか……。
それはそうと、です……。 うぉぉぉぉ!!
ブクマをしてくれたあなた様のお陰で、ついに50になりました。
ありがとうございますぅ!
無論これまでも応援、そして見てくれた読者様にも感謝です! (*ˊᗜˋ*)/