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006:斬っても斬れないなか

 悲恋美琴の呪縛(違)から抜け出した流は、用心深く深い森を道なりに進む。

 しばらく森を進むとまた生物の気配が前方よりやって来るのを感じる。気配の大きさから言って多分二匹以上居る感じだ。


「また何か来たか……」


 美琴にそっと手をかけ木陰へ身を隠す。すると前方からまた緑の小人が一体、そして灰色で大型犬のような動物が随伴していた。


(狼か? 素早そうで厄介かもな。出来れば戦いたくないが――チッ)


 緑の小人は気が付かないが、狼らしき生き物がこちらへ向けて走って来る。遅れて緑の小人も斧を持ち、必死に走って来るのが見えた流は小さく舌打ちをする。


「やるしかない、か」


 狼が迫る。残り約十メートル、美琴を握る手に力が入る。思ったより早く来る敵は残り七メートル、狼の眉間に目標を定め――。目前に迫る事残り五メートル、美琴を抜刀する。瞬間、冷気が噴出し、威圧感が場を支配する。

 獣ゆえの本能なのか、狼は飛び掛かる寸前で地面を滑りながら生物ながらも急制動をかける。


「チャ~ンス! セイッ!!」


 狼が急制動をかけたと同時に流は地面を蹴り、狼の額へ向けて美琴を突き立てる。豆腐に刀を突き立てたかのように抵抗なく頭蓋を叩き割り――そのまま狼は半分に、割れた。


 思わずおかしな声で「へ?」と漏らすと流は固まった。

 同時に目の前の状況に「ギャ?」と緑の小人も絞る様に言うと固まった。


「…………」

「…………」


 互いに狼と相手を見つめ合う二人。奇妙な親近感が生まれた。


「へへ……」


 いたたまれない流が愛想笑いをする。


「ぎやぁ……」


 いたたまれない緑の小人も愛想笑いをしている、多分。


(これって奇妙な友情ってやつなのか?)


 と、あまりの状況に思考を放棄しそうになった瞬間。


「グギャアアウウウ!!」


 緑の小人は怒り狂った声を上げ、持っている斧で襲い掛かって来た。


「ちょ、友情はどうしたよ! 俺たち分かり合えたはずだろ!!」


 振り下ろされた斧を美琴で受けながら流は愚痴る。緑の小人からすれば、ただの飼い犬殺しの怨敵なだけであるのだが……。


「クッソ! 所詮スペースノイドうちゅうじんとは分かり合えないってやつか、ヨ!」


 緑の小人の斧を美琴で思いっきり押し返す。緑の小人も押し返され一瞬ぐらつくが、また勢いを付けて斧を振り落としてくる。


「しつこいんだよ!」


 振り下ろされた斧へ美琴を袈裟懸けに振り下ろす。すると一瞬抵抗はあったものの〝ゴッ〟とした手ごたえの後、そのまま斧刃ごと叩き斬ってしまった。


「ガガ……」


 袈裟切りにされた緑の小人はそう断末魔を上げ、その場に崩れ落ち沈黙する。


「ハァハァ。ま、まさか石どころか素材は屑同然だが鉄すら斬れるとは……美琴、お前美しいだけじゃなく切れ味も凄すぎだろ」


 刃を見ると天女が恥ずかしそうに頬を染めていた。


「…………妖刀さんマジぱねぇ」


 妖刀の規格外な芸の細かさに驚愕しつつ、流はふと足元に転がる死体を見た。


「これ、このままでいいのか? まぁどうしようもないが。そしてこの道、もしかしてコイツ等の道だったりするのか? だとしたら面倒だな」


 奥に続く道を見ながら独り言ちる。一応崖の上から見た町の方角にはあっているはずだと思いなおし、このまま進む事とする。

 しばらく進むと森の少し離れた所に多数の生命が居る事を感知した。


「もしかして村か何かあるのか? 森の中だから上からじゃ確認出来なかったのかもな。よし、行ってみるか美琴」


 さらに最新の注意をしながら森を進む。小動物や鳥すら見かけないが、進む方向からはどんどん気配が強まる。そして少し進むと村が見えて来た、しかし――。


「村は村でも緑の村がありましたね。通算、第十村人まで発見ってか」


 離れた木陰から双眼鏡で確認すると、粗末な小屋の周辺に緑の小人達が焚火で何かを焼きながら食べていた。


「一応火を使える文化はあるのね。他に障害になりそうなのは無い、か。狼は居ないから逃げるのは簡単そうだが」


 さらに観察をしていると、ありえない光景に目を疑う。それは一人の女性が緑の小人に小屋へ押し込まれている最中だった。

 連れ去らわれて来たばかりなのか抵抗をしているようだが、手足を縛られたままではまともな抵抗も難しく、殴られて地面に倒れたのが見えた。


「あ~嫌なものを見ちゃったなぁ……さてどうする?」


 敵は十匹、美琴が居る以上単体相手なら負ける気はしない。しかし十匹同時となるとどうだろうか? 普通なら逃げるのが良策だろう。しかし――。


「素晴らしい人生と義務の遂行を、か……」


 ここで逃げ出せば元の世界に帰る条件である「自分が納得した」とはとても思えず、また本契約で強制ではないものの、書いた一文が妙に心に残っていた。


「さってと、囚われのお姫様救出と洒落込みますかね~」


 緊張をほぐす様に軽口を叩きながらも、流は油断なく自分の状況を分析する。


「まずは美琴が俺の命綱、そしてウチの爺から叩き込まれた喧嘩剣道じっせんけんじゅつ。後はリュックの中身だが……これは使えそうか? あとこれも」


 〆が梱包してくれた物品の中で使えそうな物を確認し、緑の村へと気配を消して近づく。

 村の外縁に一番近い所に居る、緑の小人に向かって足元に「糸の付いたビーフジャーキー」に石で重りを付けた物を放り投げる。すると二匹が不思議そうに近寄ってきた。


「ギャ?」

「ガ?」


 近づくと旨そうな香りがするのか、緑の小人達は干し肉を手に取ろうとする。しかし干し肉はスルスルと森の中へ消えていく。

 それを追って緑の小人達は小走りに追いかけて森の中へと入った瞬間、視界が自分の胴体を見上げている事に気が付くが、そのまま何も分からなくなり意識を手放す事となる。

 もう一匹は隣の緑の小人の首がいきなり落ちたので呆然としていたが、敵と認識する間もなく同じように意識を手放した。


(ふぅ~。ここまではよし、木をテコのようにして直線的に引っ張らなかったのがよかったな。残り八匹だがもう一度いけるか?)


 ここと真逆の場所で何かの作業をしているのか、緑の小人三人が木材を移動していた。

 木材は山積みになっており、身を隠すには最適な場所と判断した流は、気配を消しつつ慎重に木材の裏側へと回る。


(よし、まだ緑の小人は作業中だな。まずは材木が崩れたようにっと……)


 流は美琴を抜刀し、木材を支えていた木を斬り裂く。すると端の数本がバラリと地面に倒れるが、そこまで太くは無いので、近くに居た緑の小人達だけがその音に気が付いた。

 倒れた木材は太くないとは言え緑の小人よりかなり長いので、それを三匹で元に戻そうと思ったのか、うまい具合に三匹が木材の裏側へとやって来た。


 その様子を木の影から見ていた流は、三匹が木材を担いだのを見計らい静かに背後から近づくと、流は美琴で首を刈っていく。 


(残りは五匹、だが流石にあれは……)


 村から一気に五匹の姿が見えなくなったのを不審に思ったのか、焚火で何かを食べていた緑の小人達は武器を手に持ち、木材が倒れたのが見えたからか木材保管場所へと歩いて来た。

 

(奴らの武器は剣と木のこん棒か? 美琴はハイスペックだが油断は出来ないな。ここからが本番だ、気合を入れて行けよ!!)


 緑の小人は材木置き場に近づいて来ると血の匂いで異常を察知したらしく、仲間内で騒ぎ出す。それでも不用心に近づいて来るのを「気配察知」で感じ取った流は、木材の山の中央に杭のようになっている所から出ているロープがある事を「観察眼」で確認する。


 流は緑の小人が「射程」に入ったのを確認し木材の山の頂上、特に太い丸太が縦に縄で縛られている場所へと一気に登る。


「あーあー、マイクは無いがマイクのテスト中~。緑の小人共! 麗しき姫になんと言う悪逆非道をする、お前らに恨みは無いが覚悟しとけよ~天誅!!」


 緑の小人達はいきなりの人間の登場に一瞬驚くが、すぐに武器を掲げ襲ってくる。

「ギャガ!」と一匹が叫ぶと残り四匹が一斉に迫って来た。


「準備は万端、仕上げを御覧じろってな~そら、ヨっ!!」


 そう言うと流は木材を支える中央の長い杭に掴まりながら、そこから伸びているロープを切り裂く。すると支えを失った木材が観察眼で予想した通り、一気に雪崩を起こし緑の小人へと殺到する。


 緑の小人はいきなりの材木の倒壊に混乱するも、この四匹は他のとは違い運動性が良いらしく、あれだけの木材の倒壊に巻き込まれたのは二匹だけだった。


(残り三匹だが、一匹はボスか? こいつが巻き込まれなかったのは痛いな)


 流は杭の上から足元を確認する。身近に居た緑の小人に狙いを定め、中央に残った杭から飛び降りると同時に、まだ体勢が整っていない一匹へと斬りかかり真っ二つにする。

 

「さあて、残りはお前らだけとなったが……どっちから死にたい?」


 そう言うが早いか、緑の小人二匹は一直線に剣を振りかぶり襲ってくる。流は最初の緑の小人の斬撃を美琴で受け止めるふりをし、そのまま剣ごと袈裟斬りに斬り捨てる。

 驚いた奥のボスらしき緑の小人は一端背後へと飛び、ジリジリと間合いを狭めて来た。


 流も自分の間合いに入るまで、擦り足でにじり寄る。相手も似たような長さの剣を持っている以上、自分と間合いは差ほど変わらないと思い慎重に進む。そしてお互いに間合いに入った瞬間、流が行動に移る。


「剣ごと斬らせてもらう!! ツエィ!! ――なッ!?」


 流がボス小人の剣を斬り飛ばそうとしたが、それは受け止められてしまう。 

 その出来事に「マジかよ!」と驚く流であったが、業物なのか、美琴の斬撃で斬り飛ばせない武器と初めて遭遇した瞬間であった。


 その様子を見て「ギャググ!」と汚い犬歯をむき出しながら、口角を上げニヤケるボス小人は、好機と見るや素早く流れに斬りかかる。流は必死に美琴で防ぐが、緑の小人のどこにそんな力があるのか、流の持ち手に衝撃が蓄積される。


「ぐぅ、重てぇじゃねーか。だが脇が甘い!」


 ボス小人の直情的な攻撃も段々慣れた頃、敵のクセを観察眼で見抜く。


(右から振りかぶった時に皮鎧の隙間がガラ空きだよ!)


「皮鎧クラスなら、頼むぜ美琴!! オリャア!!」


 ボス小人の斬撃より一瞬早く、皮鎧の左下の付け根から右上に斬り上げた。


「ギャヴァァァァ!?」


 断末魔を上げ、切り口から血液が吹き出しながらも、流へ一太刀浴びせようとボス小人は剣を振りぬく。

 流は右上へ斬り上げてるいる最中の美琴をそのままスライドし、そして――「諦めや・が・れ!!」と気合を入れて、そのまま体を両断したのだった。


「ブハアア! ハァハァ……くぅ、キッツイ……まさか、ここまで、とは、異世界ハァ……やばすぎ、フゥ……」


 後ろへ倒れ込むように腰を下ろした流は、あまりの疲労にそのまま地面にへたり込む。


「ハァハァ。クソ、まさか武器を両断出来ないとはな。激しい戦闘中は観察眼もだめだ。慣れが必要か。ふぅ美琴が悪い訳じゃない、間違いなく……俺の技量不足だ」


 血溜まりの傍で休憩するのも嫌なので、広場が見える場所へ戻って来た流はようやく上がった息も落ち着き、粗末な小屋の中の事を思い出した。そこへ意識を向けると複数の反応がある。そしてその中に一際大きい生体反応を感じた時にソレは現れた。


「ギャガ、ナンノ、サワギダ!!」

「――――え?」

 

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