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061:〆オススメのアトラクション施設

「では兄上、私は地下へと向かいます。足止めはしていますね?」

「フム、それは間違いなく。今頃出口の無い階段を歩いている事でしょうな」

「そうですか」


 そう言い残すと、〆は無表情のまま陽炎のようになり消えていく。


「厄災は去りましたか……フム、さて」


 参は転がっている汚物達を見ると、ガクリと肩を落として窓から遠くを見る。


「フム。後片付けをしますかな。さすがにこのまま屋敷に置いておくのも憚られますね、となれば庭にでも転がしておきますか。しかし妹相手とはね……全員生きたまま拘束しろとの命でしたが、地下に行った賊は無理かもしれませんね」


 やれやれと一言独り言ちると、上着を脱ぎソファーに掛ける。

 転がった賊を汚物そのものを掴むように片手で持ち上げると、次々と窓の外へと放り投げた。

 不思議な事に、窓の外に放られた賊達はクッションでもあるかのようにバウンドし、庭に転がる。


 それを確認するでもなく、床に広がった汚物と染みを参は一人で撤去作業をするのだった。




 同時刻――。

 

 地下へと向かう階段の終わりが一向に見えずに、少し休憩をしている賊達が居た。

 その顔には焦りと疲れが見える程顔色が悪く、この状況を一刻も早く解決しようとリーダー格の男が頭を悩ませていた。


「おかしい……この階段はこんなに長くはなかったはずだ」

「キルトさんはここに来た事があるんですか?」

「ああ、まだ幽霊屋敷と呼ばれる前に何度か取引でな」

「それだけヤバイ物がある地下室ですか?」

「まあそんなところだ、ここの元の主人は俺達の協力者でな。散々お互いに稼がせてもらったんだがな、ドジこいてコレものだ」


 キルトは首に親指を当て、それを横にスライドするような素振りをする。


「だからこそおかしいんだよ、こんなに長い階段じゃなかったはずだ」

「なるほど……」

「まあ、考えても仕方がない。そろそろ行くぞ」


 部下達は立ち上がると、静かにキルトの後をついて行く。

 ほどなくして先程までの先の見えない階段が、嘘のように突如として終わりが見える。


「着いた、か。全員油断するなよ? 何か嫌な予感がする」


 部下たちは真剣な表情のまま無言で頷く。

 キルトは右手を掲げると握り拳を作り、その後指二本を出すと左右に振って合図を出す。

 すると部下二人が静かに扉の前まで行くと、音が出ないように開ける。

 押し開いたそれは、油をさしたばかりの扉のように、軋みもせずに抵抗なくゆっくりと開いていく。


「キルトさん……なんですか……こりゃあ……」

「何だろうな……夢でも見ているのかもな……」


 後ろに控えていた賊達も安全だと分かったのか、次々と地下室へと入って来る。

 そして全員同じ光景を見て絶句する。


 そこにあったのは金貨、白貨、竜貨まであり、ちらほらと王貨まで見える硬貨の山に、淡い輝きを放つ宝石が無造作にちりばめられ、宝剣ともいえるような美しい剣や、一目で分かる高価な壺や皿等々が硬貨の山に突き刺さるように置いてあった。



「圧巻すぎて何も考えられなくなりそうだ。っと、何時までもボーっとしてられん。お前達、手分けして運び出せ」

「「「ハッ!」」」


 その時だった。キルトが指示を出した途端、背後から大きな音が地下室に響き渡る。

 静かだった地下室に轟音と錯覚するかのような音で〝ギィ~バタンッ〟と何かがぶつかるような音がする。


「は?」


 先程まで音もなく静かに開いていた扉が、何故か油切れを起こしたかのように大きな音を立てて閉まる。

 その音があまりにも大きかったので、全員の視線は背後の扉へとくぎ付けになる。


「オイ、誰も居なかったはずだ。お前ら二人は扉を開けて、そのまま入口には二人見張りに立て」

「はい、分かりまし……た?」

「どうした?」

「う、後ろに豪華な椅子に座った女が居ます……」

「後ろ? ――ッ!?」


 そこにはまるで玉座のような形をした豪華な椅子に座る、この世の物とは思えない、美しい顔をした女が財宝の山を背景に上品に静かに座っていた。


「フフ、よく来ましたね。人と戯れるのは何時ぶりでしょうか……少し、楽しみです」


 そう女が言うと、牡丹クビオチの花が咲いたように笑ったのを見て、キルトはゾっとした。


(クッ!? こいつは絶対マズイ、俺の長年生き抜いた直感が逃げろと言っている!)


「へへへ……豪華なお宝と、秘宝の数々! そしてこの女もオマケとか、最高じゃねーですか」

「ちげーね~ぜ! キルトさん、俺が一番にとっ捕まえて来ますんで、後で味見させてくださいよ~」


 キルトは今から行うであろう、部下の蛮行に絶句する。

 即それを止めようと口を開こうとうするが、それが無理だと悟る。


(ま、待て!! くぅ、恐怖で口が開かん!! 馬鹿共が、何故気が付かない!!)


「さ~って、まずはその綺麗な顔をよ~く見せてもらいま――」


 無造作に〆に近づいた男は、一瞬キラリと光った一筋の何かに眉間を貫かれると、そのまま背後へとニヤケタ顔のまま倒れる。


「……? え、死んで――」


 隣に居た賊も今死んだ仲間を確認した瞬間、光に眉間を貫かれ死んでしまう。


「はぁ~情けないですね。愚兄ならこの程度では死にませんよ?」

「フザケヤガッテ!! キルトさん、囲ってやっちまいましょう!!」

「? どうしたんですか、キルトさん。それにアニキ達も固まったまま動かないで?」


(馬鹿野郎! 動けねーんだよ!!)


 見るとキルト以外に五人の部下達も動けないようだった。


「キルトさん? 一体どーしちまったんだ?」

「仕方ねえ、俺らであの女を捕まえよう。三方から行け、逃げられねえようにな」


(ば、馬っか野郎! 逃げれねえのは俺達だと何故気が付かねえんだ!!)


「オラ行け!」


 男がそう掛け声をかけると、左右から同時に男達が〆を拘束しようと襲い掛かる。

 〆はその様子を見るでもなく、視線すら合わせずキルトを見据えて動かない。


 ついに賊の汚いその手が〆へと届く前、賊達の『影』が蠢き、そのまま賊を影の中に飲み込む。

 その数は〆を拘束しようとした、全員が消える事となった。

 残された賊の数は五名と、キルトのみとなる。


「お行儀の悪い人は嫌いです。でも感謝して欲しいですね……地下室とは言え、あの方のお屋敷を汚す訳にはいきませんので、直接『向こうへ』送らせていただきました」


 どうやら口だけは動かせる賊が一人がいるようで、思わず震える声で聞いてしまう。


「む、向こうってどこだよ……?」


(アド!? 余計な事を聞くんじゃねえ!!)


「向こうって言えば決まっているじゃないですか、それは――」


 ◇◇◇


 エッゾは黒い闇に落ちたかと思ったら、いきなりゴツゴツとした岩場へと居た。

 周りを見ると、先程まで地下室に居た仲間達も居るのを確認すると、近くに居た呆然としているヤルンに声をかける。


「ヤルン! 無事だったか?」

「エッゾか、ああ無事だったが……ここは何処だ?」

「俺が聞きたい……あの女を捕まえうとしたらいきなりココに居たからな」


 周りの仲間達もあり得ない状況に混乱しているようだった。

 すると一陣の風が吹く。すると何とも言えない、死臭漂う嫌な匂いがしてきた。


「エッゾ、これは何の臭いだ?」

「分からん、が。何かヤバイのは分かる。それに聞こえないか、この声みたいなの?」


 そうエッゾに言われて、ヤルンは聞き耳を立てる。

 すると腐臭漂う風に混ざり何かが聞こえて来る。それは悲鳴のようでもあり、嗚咽のようなものでもあった。


「ほ、本当だ。呻き声……か? 泣き声まで聞こえるぞ!」


 その時だった、近くの岩山の陰から五メートル程の影が、ゆっくりと現れる。


「何だ~あ? どうして生きた人間がここさいるだ?」

「「「ヒィッ!?」」」


 賊達は硬直する。そこに居たのは真っ赤な素肌で、衣服はトラの皮で作ったような腰簑を穿いただけの男がそこに居た。

 良く見ると頭部の天辺には、一つの角が生えている。


「ば、バケモノ……」

「んだあ~? オレをバケモノ呼ばわりする奴わ~お前だな~?」


 そう言うとバケモノと呼ばれた『赤鬼』は、エッゾを鷲掴みにして持ち上げると、無造作に岩山の向こうへと放り投げる。


「ウワアアアアア!!」

「エ、エッゾオオオオ!!」

「さでど、おめーらはどごさぶん投げてやんべかな?」


 赤鬼は愚鈍そうな巨体に似合わず、賊達を捕まえるとあちこちへと放り投げる。


「一塊になるな! バラバラに逃げるぞ!」

「クッソ、分かった! ヤルンお前も死ぬなよ!」


 ヤルンは岩場を縫うように逃げる。途中で仲間の悲鳴が聞こえるが、今は逃げる事を優先に全力で走る。

 息も絶え絶えに走りながら、ヤルンは生き物の気配のようなモノを感じて足を止める。

 岩場に身を隠しながら、その気配のする方を〝そっと〟覗く……。


(ひぃっ!? な、何だあれは――)


 思わず心の中ですら絶句する程の、恐ろしい光景がそこにはあった。


 針の山に刺さりながらも生きている人間。

 大きな鍋に入っている真っ赤に煮えたぎる液体の中で、悶えながらも生きている人間。

 先程の巨人と同じ怪物が持つ、巨大な鉄のこん棒で粉々にされながらも生きている人間。

 焼けた鉄板の上で悶えながら焼かれているが、それでも生きている人間。


 等々言葉にするのも恐ろしい風景が広がっていた。

 更によく見ると、まだまだありそうだったがヤルンの心は砕かれて、それを確認するのを拒む。


 それもそのはずで、一番近い場所にある針山に何度も叩きつけられている「エッゾ」の姿を目撃してしまった。

 さらに最悪なのは、その叩きつけらているエッゾは「生きて」おり、ヤルンと目があってしまう。


「ヤ゛ル゛ン゛だずげで……」


 エッゾはヤルンに手を伸ばして助けを乞う。


(馬鹿! コッチ見るんじゃねえ!!)


「あら? そこに誰か居るのですか?」


 ヤルンはゾっとしながら、声のする方へ振り向く。

 そこには浅黒い肌のとても美しい容姿の女が、東方にて着られていると言う服装で立っていた。


「お、女?」

「はい? そうですが、どうされましたか? 何かお困りのようですが?」

「へ、へへへ。こいつはツイテるぜ。オイあんた、ここは危険だ。ここから離れようじゃないか」


 ヤルンは下卑た顔で女を誘う。そんな顔を見た女は、少し困った顔でヤルンへ返事をする。


「それはいいんですけど……何かあちらで、お友達が助けを求めているようですが、助けなくていいんですか?」

「友達? いや、あんな奴は知らねえ、それより早く行こうぜ。ここはヤバイ」

「本当に知らないのですか?」

「シツケ―ナ!! 知らネーって言ってるだろうが!! いいから早くこ……い……」

「ウ~ソ~ツ~キ~ハ~ここに居たかああああああああああ!!」


 女の口が耳まで割けたかと思うと、目は真っ赤に染まり、腕は枯れ木のようになりはて、爪は鋭く折れ曲がっていた。


「ヒアアアッ!? な、な、なんだオマエわああああ!?」

「良く回る嘘吐きの舌はこれだなあああああああ?」

「ヤメヤメヤメアガガガガアアアア!! 」


 女はヤルンの口へ無理やり手を突っ込むと、そのままヤルンの舌を引っこ抜く。


「ほ~ら、ぬ・け・た~ これで嘘吐きは居なくなったわね~。ふふふ……あら? また生えて来たわね……じゃあ、もう一度抜いてあ・げ・る」


 そう言うとまた女はヤルンの舌を抜くのだった――。


 ◇◇◇


「と、まあこんな場所へご案内したんですよ?」


 〆は実に嬉しそうに、開いた扇子の中から映し出された映像を見せ、賊が消えた先を案内するのだった。





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