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060:羊達の楽園

 困惑するヒクター達の前に、豪華な肉料理の皿が一皿置かれていく。

 それは白磁の皿に趣味良く形どられた、芸術とも言える黄金比で肉と野菜が盛られた一皿だった。

 怒りを忘れ賊達は一瞬その見事な美しさと、香ばしい肉と香草の一皿に心を奪われる。

 思わずそれを手にしようとした時、体の不自由さを思い出し怒りが再燃する。


「何のつもりだテメーら!! このままただで済むと思わ――」


 セバスが話の途中で、会話を止めさせるように人差し指を口元に当てる。


「お静かに願います。ここは我が主の屋敷です。本来なら貴方達のような者が来る事は不可能なのですが……。主のご意思故、仕方なくお招きしているのです」


 セバスは心底招くのが嫌そうに、しかしおもてなしの心を大事に表現すると言う表情と、言葉遣いを同時にすると言う高度な顔芸を披露する。


「何だと!! じゃあ俺達が来るのを知っていたのか?」

「勿論でございます。ですのでこれから『この屋敷で相応しい』マナーを学んで頂きます」

「ふざけるな!! そんな馬鹿なこ――ゴッガアアアア!?」


 ヒクターがセバスに怒鳴った瞬間だった。

 どこからの攻撃だったか、分からないうちにヒクターの「顎が」吹き飛ぶ。


「お静かに、と申したはずですが?」


 次の瞬間、ヒクターの顎は再生していた。


「ナッ!? 何が起きた!?」

「ヒ、ヒクターさんの顎が吹き飛んだと思ったら治って……た?」

「ですから『お静かに』と申しました。次も同じですよ?」

「…………」

「…………」


 ヒクター達が混乱の中で静かになった時、よく通る声でセバスが話す。


「さあ、皆様。ナイフとフォークをお持ちください。テーブルマナーを教えて差し上げましょう」


 瞬間ヒクターは部下数名に目配せをし、それに気が付いた部下達は即座に行動する。

 それは投擲に秀でた者達であった、つまり――


「ご高説ありがたいね。お前ら、執事さんの言う通りにナイフを持て。そして……死ね!!」


 ヒクターと部下二名がナイフをセバスへと投擲したはずだった。


「ぎゃあああああああッ」

「がああああああ!?」

「ゆ、指がああああああ」

「お客様、セバスさんが下品な貴方達にマナーを教えているのです」

「ダメですねぇ。誠心誠意の気持ちで学びましょうよ? あ、微妙な例えですね」


 ナイフを投擲したはずだったが、赤髪と黒髪の執事二人は投げたナイフを片手に持ち、さらに投げた者達の「指を綺麗に折って」いたのだった。


「本当にお行儀が悪い……」

 

 そう言うとセバスは「パチン」と指を鳴らす。すると折れていた指は元に戻る。


「はえ!?」

「ゆ……指が元に戻った……?」

「夢なのかこれは……」


 賊達はさらに混乱する。


「ふ、ふ、ふ、フザケルナ!! 俺達をここからアガベッ」

 

 叫んだ男は黒髪の執事に頬を串刺しにされる。

 その後セバスが指を鳴らすと元に戻る。


「学習能力が無いのですかね? さ、楽しいお食事を始めましょう」


 賊達は黙々と食事をする事となる、が。


「あぎゃ!」「いでえええ」「ギャウッ」


 騒がしくしていないが、賊達の指は折れ、鼻や耳は落とされ、手首は粉砕される……が、セバスが指を鳴らすと元に戻る。

 永遠とも思える理解不能な拷問に、流石の賊達もこの異常な空間を支配する恐怖で精神が壊れかける。


 そしてその恐怖からヒクターは思わず聞いてしまう。


「お、俺達を殺すつもりか? 大体お前達は何なんだ!! 人間じゃないだろう!?」

「いえいえ、殺すなんて恐ろしい事は致しませんよ? 主の命ですからね。それと正体、ですか? 普通の執事ですが何か?」

「嘘をつけ、普通の執事にこんな事が出来る訳が無い!!」

「ウルサイデスネ……私ハ普通ノ執事ダト言ッテルジャナイデスカ?」

「ヒィィ!?」


 そうセバスが言うと顔が真っ赤になっていき、渦巻くような角が頭の左右から生えてくる。

 背中からはビロードのような色艶の、漆黒の羽が脈打ちながら生えていた。目は羊の形をしており、顔も凶悪で冷酷な羊そのものだった。


 つまり……


「「「あく、悪魔ああああああ!?」」」

「サァ、楽シイ楽シイ時間ノ始マリデス。未来永劫、魂ガ擦リ切レテモテーブルマナーヲ教エテ差シ上ゲマショウ」


 賊達はあまりの絶望に失神する、が。即座に黒髪と赤髪の執事が太い針を背中に打ち込み正気に戻す。

 しかしあまりの恐ろしさにまた失神すると指を折り、体の何処かを常に損傷しながらも、即復活させる永遠の地獄がそこにあった。

 さらに狂気が進むと、落とされた指を食べだす者や、抉られた目玉を舌で転がす者等が出てくる始末になる。


 その様子をセバスの目を通して参は見ていたが、顔と背中は冷汗でジットリと濡れていた。


「フム……しゅ、趣味が悪すぎる……流様がご覧になったら卒倒しますな。コレ」

「壱:お前は一体どこからあいつ等を連れて来たんや……」

「いや、その……魔界?」

「壱:何で疑問形やねん!? どーすんのや、こんなん愚妹に知られたら風穴開くで!!」

「と、とにかくです! こんな醜態が妹にバレる前に、ここへ来る馬鹿共を急いで拘束しておきましょう! 一階と二階は見なかった事に!」



 ドルド達もヒクター達と同じように、階段の迷宮に迷い込でいた。

 いくら上れども何故か三階に到着せず、妙な感覚で戻ろうとも思えずそのまま進む。

 このまま何時終わるのかも分からない階段だったが、しかしそれもやっと終わりが見えて来る。


「はぁはぁはぁ……ドルドさん、やっと……着いたみたいですよ」

「はぁふぅ……やっとか。クソッ! 腹減ったぞ。だから三階は嫌だって言ったんだよ」

「きっと部屋の中には食い物もありますから、今は落ち着きましょうよ」

「そうだな。これだけの屋敷だ、何か美味い物があるはず……だ……んん? 目の前の扉から美味そうな香がしねーか?」

「確かにしますね。開けて見ましょう」


 ドルド達はあまりのいい香りで腹が鳴るのを抑えつつ、そっと扉を開ける。

 すると中には三人の人影があり、その二人が手招きをしている。


「何だ? 誰か居るぞ」

「お! 来おったで、早くコッチへ全員入って来んかい! ぼさっとしとんやない、今すぐこっちへ来るんや!!」

「フム、早くしなさい、お目当ての美味しいのならホラ、ここにありますよ」


 手招きしている男二人の目の前のテーブルには、豪華なご馳走が並び、その隣には財宝が無造作に置かれている。


「ドルドさん、ありゃ罠かも」

「だな、あからさますぎる。だが所詮あの人数だ、罠があろうと無かろうと問題ねーだろ?」

「確かにそうですね」


 そう笑いながらドルド達は部屋に入って行く。



「おい、お前ら。今すぐそれを袋に詰めてよこせ。ついでにその食い物も一緒にな!!」

「ああ~そう言うのはええから、ちょっと待っとけ」

「フム、とりあえず《呪縛札》でも貼っておきますか」


 参は右手を一振りする。するとその背後から十一枚の札が賊共に襲い掛かる。


「何だ!? 体が動かねぇ」

「くっそ! 何をしやがったー」

「ドルドさん、俺達も動けねえ!!」


 それを見た参と壱はフゥ~と胸を撫でおろす。


「と、とりあえず妹が来る前に片が付いて良かったですね」

「ああ全くや……って僕、元の姿に思わず戻ってしまったがな」

「フム。後は地下の馬鹿共ですが。兄上、お願い出来ますか?」

「ええ良いですよ。それは私がやりましょう」

「「…………はい?」」


 壱と参は「ギギギ……」と油が切れた自動人形のように顔を背後に向ける。

 すると居てはいけない、荒ぶる尻尾がキュートな狐娘が居た。


「フム。い、妹よ。もうケリは着いたから帰ってもいいんだよ?」

「せ、せやで、何の問題も無く片付いたさかいな」

「ええ、ええ、片付いたみたいですね『この上なく下品』に、ね?」


((あらやだ! この子、激オコぢやないですかーー!!))


 ケモケモしい荒ぶる尻尾の持ち主から〝そっと〟目線を外す二人。

 それに巻き込まれた哀れな盗賊達は、白目をむいて絶賛失禁中。


「……何ですか失禁コレは? 誰の許しをへて神聖な場所で汚物を垂れ流して良いと言いましたか?」


((理不尽すぎる! お前が原因だろうに!!))


 理不尽な妹がこちらへ気が付く前に、ソっと折紙になり入口へと飛んで行く壱。


「壱:あ、僕ちょっと用事を思い出したねん。参、後は任せたで~ほなさいなヴぁぁぁぁ」

「フム。ま、真っ二つですね」


 〆は実にいい笑顔で参に向き直る。


「ねぇ~兄上? どうしてこんなに、流様のお屋敷が……『汚物に塗れているの』かしらねぇ?」

「ふひッ!? いや! 落ち着くのだ妹よ!! 私は兄上のように頑丈ではないので!! それにこの部屋の惨劇はお前が原因じゃないか!?」


 ふと、〆は汚物ぞくを見る。冷静に考えて見れば、確かにそうかもと思いなおす。


「……そうですね。確かに私が原因なのかも知れませんね」

「フム! 分かってくれたか妹よ!!」

「ええ、ですから私が地下の賊に天誅を下している間に『一人で染みは無論、雑菌一つ無い床』に掃除しておくんですよ? 勿論匂いがあったら……」


 〆は入口の近くで真っ二つになった兄を一瞥する。


「理不尽だああああああああ!?」

「兄を労わる妹の心……まさか、お分かりにならないと言う事はなりますまいね?」

「あ、ハイ……」


 丁度その時、賊が開けたままの扉に人影があった。

 魂が抜けた表情で参が頷いている姿を確認したセバスは、報告を後にしてドアを〝そっと〟閉めるのだった。


 

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