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005:【森を抜けよう】第一村人との遭遇

「そう言えばこのまま鍵鈴を持っているのも危険だな、しまうにしても袋ってのも壊れそうだしなぁ」


 そんな事を思っていたら鍵鈴がまた緑色に発光をし始め、持ち手にスっと吸い込まれた。


「うわ! 手の中に入っていった……嘘だろ。なにこれファンタジー? いやすでにこの状況がファンタジーだよな。じゃあ出すときはどうするんだ? う~ん……とりあえず呼んでみるか?」


 流は何となく、お約束のように鍵鈴が消えた右手を前に突き出し強く言い放つ。


「来い、鍵鈴!」


 すると突き出した右手に鍵鈴が音も無く出て来た。


「出たよ、オイ。それじゃあもしかして『アレ』も呼べるのか!? よし、言うぞ、言っちゃうぞ! 全国の大きな少年少女の夢を今こそ形に!! こほん、いくぞ……『すてーーたすおーーぷーーん!!』…………アレェ?」


 両手を胸の前に勢いよく突き出す。しかし何も出なかったのにガッカリしつつも、厨二病が今だ癒えていない自分に赤面しながら「もう二度とコレは言うまい。絶対にだ!」と心に硬く誓う流であった。


 高台の草原を歩くうちに、崖から降りる道を見つける。時折人が歩いているのか、道は下の森まで続いており、そのまま森の奥へと繋がっていた。

 変に脇にそれては迷うかもしれないと、流は獣道よりはいくらかマシな道をしばらく歩く。


「結構深い森だな。そう言えば〆の奴が動物もかなりいると言っていた気がするな。それに動物と交流とか何するんだよ? 餌付けか? そう言えば爺さんが言ってたな、狐と会ったらルールールーって言えば仲よくなれるって」


 などと呟きながら森を横断していく。よく見れば鬱蒼と茂っている森の中には、生き物の気配が濃密に感じられた。

 流は不思議と色々な気配に敏感と言うより、異常に感知しやすく、霊的な存在もハッキリと感じる事が出来た。

 さらに動物が考えている事が良くわかり、近所の犬や猫に大人気だった。

 ちょっとした自慢だが、たまに猫の集会にはゲスト扱いで呼ばれたりする。


 しばらく森の中の道を歩いていると、右前方から動物のような生き物の気配が近づく。


「ん? 何かが近づいて来るな……右前方からか、熊とかじゃければいいが」


 流は思わず美琴に手を伸ばす。それに答えるかのように美琴も軽く震える。

 その時だった、林から現れたのは薄暗い緑色をした小学五年生ほどの背丈で、汚い布製の三角帽を被った存在と目が合う。

 それは猿のような顔つきだが、耳が左右に異様に長く、目は大きく、さらに充血しており、腰簑はしているがとても文明人とは思えない容姿だった。


(OH……あれと交流せねばならないとは……ハードル高すぎじゃね?)


「あー、こんにち~わ! そこの緑色の人。私、日本人デスネー、ワ~カリマスカー?」


 実に怪しげな笑顔を浮かべ、片手を上げながら何故かカタコトに挨拶してみる。日本人のある意味様式美だ。


「無反応? 異世界言語理解は仕事しろ。もしかして挨拶が違うのか? ならば、ボンジュ~ル。ヘロ~。オラ。ナマステ~」


 流が色々な言語の挨拶を試みるが、緑の小人は不思議そうに首を傾げながら流を見つめている。


 やがて不思議そうに見つめていた目は、次第に鋭くなって来たかのように思った頃、緑の小人が話し出す。


「ナガ……」

「え? ナガ? そう、俺は流だよろしくね」

「ナギャギャギャ!!」


 緑色の小人は、いきなり手に持っていた槍のような物を突き立て攻撃して来た!


「うわ!? 危ないだろ! マテ、ハウス! 今ならアメちゃんやるぞ!」


 さらに攻撃をする緑の小人に焦る流は、さらに上乗せした良案を出す。


「うおッ、怒ったのか? なら『二つ』やるから落ち着け!! 怪我でもしたらどうする!」

「ギャルルル! シャ」

「くそッ! どうやら文明的なお付き合いは無理だこれは。こうなったら敵として処理するしかないか! 頼むぞ美琴!」


 流は腰に装備した美琴を初めて抜き放つ、戦闘中だと言うのにあまりの美しい刀身に一瞬意識を持っていかれる。


 瞬間、何処を攻撃すればいいのかが瞬時に理解出来た。


「っ!? 何だ? って今はそれ所じゃない」


 緑の小人は槍の長さを生かし流を仕留めようと、左右に突きを放ちながらジリジリと流に迫ってくる。


 流が刀身に意識を持って行かれたのを、怯んだと思った緑の小人は、その隙に槍を流の腹目掛けて突き出して来た。


 その行動を予測した流れは必死に体を反らせ、槍の攻撃を躱しバックステップで背後に飛ぶ。



「甘い! 伊達にクソジジイに喧嘩剣術叩きこまれてねーよ! これで仕舞いだ!!」



 着地と同時に今度は緑の小人へ向け一足飛び掛かり、そして小人の首目掛けて美琴を迷いなく突き刺す。



「グガ・・ァ・・・」



 緑色の小人は苦し気に声を漏らす。その直後、緑の小人の首が胴体より吹き飛んだ。



「な!? なんだ!! なんで首がぶっ飛ぶんだ……ファンタジーこえー」



 あまりの凄惨な状況に、自分がした事ながらも真っ青になる。だから何かを話さずにはいられなかった。



「それともあれか! 俺の隠された力が今、ついに、覚☆醒! なーんてな、ハッハッはぁ~……。テンション上げねーとやってらんないわ。まさかの第一緑人殺害事件になっちまうとはなぁ。あれがこっちの世界で人間扱いだったらどーするよ、ホント」


 その時、流の頭上で何か軽い物が〝ポン〟と弾けるような音がした。


「ん、何か音が……これは?」


 ちょっと前に見たばかりの巻物がゆっくりと落ちて来た。


「これは異世界言語理解と同じ巻物か? とりあえず開いて見るか。えっと……魔物の初討伐報酬だと? って事はあの緑の小人は魔物だったって事か! 〆の奴、何が動物や人と交流しろだ! 化け物が居るぞオイ」


 〆に憤慨しながらも、巻物を調べる。


「まぁ今はこの巻物を持って念じれば……おぉ、やっぱりそうだ」


 頭の中で『健康手帳を解放しますか? 了承・不承』と表示された。


「なになに……健康手帳は現在の状態を表示します、か。起動方法は『ステータスオープン』と叫びましょうって、あるんかい!! うぅ。俺の魂の誓いはどうなる? 仕方ない、もう一度言ってみるか。いや、でも恥ずかしいなぁ。ハァ……。ステータスオープン!」


 するとこれまた何処かで見たことがある和紙製のメモ用紙が目の前に現れ、脳内と視覚と聴覚同時に語り掛けて来る。


「壱:これまた古廻はん、お初ですな~。僕は健康手帳を管理する付喪神ですよって、これまたよろしゅ~に」

「ナンカデタ……え? お前も〆と同類ですかね?」

「壱:お前とはこれまたイケズですな~。僕の名前は壱と申しますぅ、よろしゅーに」

「エセ関西弁は嫌われまっせ? ほな早速、健康手帳を見せてーな」

「壱:あんた良い性格してるって言われはるでしょ? まぁ仕事をさせてもらいまひょ。まずはこれを見てーや」


 突如現れたエセ関西弁が鼻につくメモ用紙の男、壱が表示した内容は驚愕する内容だった。


【現在見れる健康状態】


生命力:平均的

魔 力:未開放

攻撃力:平均的+やばsぎ

防御力:厚紙的

魔法力:未開放

速度力:平均に毛が生えた

幸運値:あらすごい


【魔法】


――未開放――


【特殊能力】


観察眼(上級) 気配察知(上級) 第六感(上級) 一撃必殺(初級)



「なんだよこれ、抽象的すぎてよく分からん。って言うかあるのか、やっぱり魔法! くぅぅ! これだけでも来たかいがあるってもんだな! やっぱり魔法だろ、魔法。で、どうやって使うんだ壱よ?」


「壱:なんやこれ……そ、そうでんな~。古廻はんがこの先色々な人と会う中で、もしくは戦闘や特殊な状況で発現するかもしれまへんな」

「そう言う物なのか?」

「壱:はいな」


 いまいち納得が出来ないまでも、それなりに能力が分かったので満足した流は更に質問する。


「特殊能力の使用方法はどうするんだ?」

「壱:これは自分で色々試してもらうしかありまへんね。例えば気配察知でっけど、どうやって使いました? そこを思い出して、その状況を再現すればいつでも使えるようになりまっせ」


(取得しているのに自由に使えないとか……馬鹿なの?)


 そんな疑問を持つも、一番聞いてみたい事を質問する。


「まず一番気になる事なんだが、さっきの敵が一撃で首が吹っ飛んでいったんだよ、理由は分かるか?」

「壱:あれは美こっちゃんと、古廻はんの合体技みたいなものですねん。まず古廻はんの観察眼で見極め、美こっちゃんの妖刀その物の力が溢れ出すぎて、結果くび・ちょん・ぱ☆って訳ですねん。それが派生して、古廻はんの特殊能力『一撃必殺を取得した』感じですかね?」


 流は美琴を掲げ見る。怪しげな雰囲気は無く、むしろ凛とした空気があった。


「俺と美琴がねぇ……しかし今まで分からなかった自分の異常な感知能力の理由が少し分かったよ。それにしても上級? これはまだ伸びるのか?」

「壱:はいな。古廻はんの頑張り次第ですが、伸びる事もありますねん。しかし上級でもかなりのもの。今回の一撃必殺は発動こそ普通は難しいんですがね、でも古廻はんの能力値のアレ……『あらすごい』が関係してるんかと思います~」


 あらすごい? 手帳の中の人がいい加減で、意味が不明すぎるだろうと流は壱へと質問する。


「そう、その『あらすごい』って何なんだ? 抽象的にも程がある」

「壱:そうでんなぁ 僕にもさっぱりですねん」

「おい、健康手帳の中の人仕事しろ」

「壱:た、多分でっけど、すごいんでっせ! 色々と!! 例えば、オネーチャンがウハウハとか! ラッキースケベとか! そらもう一言で言えば『あらすごい』としか言えないような事が起こるんですわ~」


(ダメだコイツ、早くリコールしないと。メーデーメーデー、軍医! こいつを引きってくれ!!)


「壱:何か今と~っても、失礼な事考えてまへんでしたか?」

「…………ベツニ」

「壱:ま、まぁいいですがな。今後ともよろしゅー頼んます! 必要な時は何時でも呼んでもろてOKですねん。ほな、さいなら!」


 そう言い残すと壱はいかにもな煙と共に消えてしまう。


「なんと言う胡散臭い関西弁を喋るやつなんだ……っと、モンスターが居るなら気を引き締めて行かないとな。それと特殊能力か? あれも追々検証しないとな」


 流は腰から美琴を抜くと、改めてその刀身の美しさを見る。 


「凄い、な。多分ここは夏だと思うけど、それなのに刀身から冷気が出ているぞ……そしてこの切先の異常な鋭さと、刃先の鋭利と言うのも烏滸がましい作りはどうだ。もしかして石でも切れるんじゃないかこれは。刃紋に至っては……最早美の化身としか表現出来ない……」


 日本刀自体に美しさを感じる事は多々あれど、これほど完成された物は見たことが無い。

 地金はまるで生きているかの如く、呼吸する肌のように艶やかで金属とはとても思えない。

 刀身とも言える地金に浮き出る刃紋は、一つの極上の絵巻を見ているようだ。

 それは雲が棚引き、天女が舞い踊る様がはっきりと見て取れた。


「刃紋でこれほどの表現が出来る物なのか? 刀匠美琴の凄まじさに絶句するしかない……」


 悲恋美琴のあまりの美しさにその場で固まる流。目の前には魔物の死体があり、そこで刀を見ながら口角を上げながらブツブツ呟く漢が一人。


 傍から見たらヤヴァイ奴と思れ通報待ったなし! しかし骨董好きの六郎爺さんならこの行動に納得もするだろう。


「あ~美琴、お前はなんて美しいんだ美琴!! もう美琴だけでご飯三杯いけちゃう!!」


 やっぱりどう見ても危ない奴だった……六郎爺さんすら通報待ったなしである。


「ハッ!? 気が付けば一時間も過ぎていたじゃないか。流石妖刀、ここまで人を狂わせるとは……恐るべし!」


 絶対違うと転がっている首も叫びたくなるほどの変人は、やっとこの場を後にし森を進むのだった。

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