057:ダンジョンライフは最高です!
「そうして私はゴブリン酋長に掴まったの……。でも運が良かったと言うのは『前の犠牲者』には申し訳ないけど、プと呼ばれた酋長は知的で私と話しをしたがったみたいでね。前の人が壊れるまでは手出しをしないと言っていたわ」
その場に居たカワード以外の全員が、悲痛な表情で聞き入る。
「そこに同じく二人連れて来られてね、私達は一つの小屋に押し込められて、『その時』が来る恐怖で気が狂いそうだったわ……でもそこに現れたのが、私の救世主であるナガレ様よ!! ナガレ様は一人でゴブリンの集落を滅ぼし、リーダーと酋長まで倒したのよ!! もう凄すぎて、あの場に居た私達は感謝してもしきれない程の思いで一杯になったわ。無論今もその思いは変わっていないのは言うまでも無いわ!」
恍惚とした表情で、その時の状況を話すカレリナに流は照れるように言う。
「おいおい、俺はたまたまその場に居ただけだ。まさかお前達まで居るとは思わなかったからな。だからまぁ、気にするなよ」
そして流はカワードへ向き直る。
「だ、そうだが……カワード。お前は心底最低の卑怯者だな」
カワードは支えを失ったようにガクリと膝を折り、絶望の表情で項垂れた――が、次の瞬間。
「おま、お前さえ居なければ全部上手く行ってたんだあああああああああ!!」
憤怒の表情を凶悪に歪めながら、カワードは持っていたショートソードを抜き、流に向けて襲い掛かって来る。
流は美琴を高速抜刀すると、カワードの質の悪いショートソードを刃の付け根から斬り飛ばす。
「いきなり『子悪党アルアル』とか美味しすぎるのを見た……くッ異世界最高!! 実にいい物を見せてもらった礼だ、受け取れ。ジジイ流活人術! 不殺閃!!」
剣が斬られて呆然とするカワードに、流は美琴を曲芸のように高速納刀すると、カワードの下腹部へ、美琴の鞘を良い角度で持ち上げるように不殺閃を放つ。
たまらず浮き上がるカワードは、反吐を吐きながら無様に転がる。
「カワード。私達はお前を絶対に許さない! 死ね!!」
不殺閃により無様に反吐を吐き、肥溜めに転がる汚物のような男に、リリアンはその男を殺そうと鬼の形相で静かに歩み寄る。
「ひぃぃぃ!? ま、待ってくれリリアン俺が悪かった。ゆ、許してくれ!!」
「待ってリリアン! あなたがこんな卑怯者を殺して剣を汚す事は無いわ!」
憤怒の鬼と化した形相で迫るリリアン。それを止めたのは意外な事にカレリナだった。
「ッ!? カレリナ、何故止めるんだ!! こいつのせいでお前も私達も、どんな辛い目にあった事かッ!!」
「ええ、その通りよ。でもね、世の中には『死よりもツライ事』があるのを忘れたの?」
カレリナは一緒に来ていた領兵の一角へと、視線を向けて頭を下げる。
「お待たせして申し訳ありませんでした、後の処理をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「承ろう」
そう領兵の一人が返事をすると、歩きながら流に声をかけて来る。
それは隊長のような出で立ちであり、流も良く知った男だった。
「久しいと言う程でもないが、ナガレ。今回もまた派手にやったのかい?」
「お? アレドさんじゃないか! 先日は助かりましたよ。まあその……後片付けをお願いします。結構酷い事になってるので。あ、それと岩山の入口に、今回の襲撃者で『アニキ』と呼ばれる纏め役の男を縛ってあります」
流はアレドに目線で岩山の方を指す。
「そんなにかい? まあ了解した。第一、第二分隊は先行して岩山へ入れ! 生きている者は連行しろ、よし行け!」
「ハッ! 生存者は連行して纏めておきます!」
練度が高いのが良く分かるキビキビとした動きで、分隊長は部下を引き連れて岩山へと向かって行った。
「ありがとうございます。そうだ。先程カワードが言ってたんですが、殺盗団の増援が来るらしいんですよ。その対応もしておいた方がいいのかも?」
「ああ、その事か。なら解決済みだよ」
アレドは後方に居る兵士に目配せをすると、兵士二人は馬車から血の滴る箱を持ってくる。
「これは?」
「首だよ、襲って来た殺盗団のね。本来なら捕まえるのだが、流の件を優先にしたから、全員あの世へと旅立ってもらったのさ。で、その証拠に首だけって訳だ。見るかい?」
「い、いやぁそれは遠慮しときますよ」
「はっはっは、それがいい。生首なんぞ見ても楽しい物じゃないからね」
生首をいきなり見せに来る、異世界の常識に改めて驚く流であった。
「あ! そう言えば冒険者ギルドのサブマスが言っていたのは、もしかしてアレドさんなんですか?」
「おっと、そうだった。今回リットンハイムさんから頼まれていてね、こんな事もあろうかと、信頼できる部下だけを以前から選りすぐっておいたんだよ」
「そうですか……いや、助かりましたよ本当に」
流石の流れも草原と言うフィールドで、リリアン達を守りながら多数と戦闘は勘弁して欲しいところだった。
「それでカワードをどうするんです?」
「ああそれはな……まず魔物への私利私欲の人身提供。これだけで死刑モノだ。次にそれを利用した詐欺行為。そこの子の誘拐、そして殺盗団との関わり。以上を総合して考えると『ダンジョン奴隷』になるだろうね」
「ダンジョン奴隷?」
アレドは思い出したように頷くと、流にダンジョン奴隷の事を説明する。
「ああ、そうだった。ナガレはこの国の事は良く知らないんだったな。ダンジョン奴隷と言うのは、トエトリーの近くにあるダンジョンに送られるんだよ。そこで一生ダンジョンの中で資源を得る仕事をする。外に出る事も出来ず、娯楽なんて何もなく、食事は痛んだ食材を中心に、生きるギリギリの量を配給のみ。延々と死ぬまで魔物と戦ったり、素材を集めたりするだけの人生だ。昼も夜も無く、オーダーが入ればすぐに行動が基本となる。そして使えなくなったら……そのままダンジョンに放置すると言う過酷な刑罰さ。ちなみに自殺しようとしたら回復されるおまけ付きだ」
流石の流も想像しただけでゾっとする内容だった。
「それはまた過酷すぎる内容で……」
「だろう? 言葉にするとこんな感じだが、実際は本当に酷いんだよ。死刑の方が優しく思えて人気がある位だからね。だから、ほら……」
アレドの目線の先に居るカワードは目に見えて怯えていた。
「ひッ! ダ、ダンジョン奴隷だって!? それだけはやめてくれ!! お願いだ、そんな所に行くなら死刑にしてくれ! リ、リリアン!! 俺を今すぐ殺してくれ、頼む!!!!」
リリアンに縋りつくように迫るカワードに、リリアン達は辛辣な言葉を浴びせる。
「……良かったじゃないか、カワード。これで好きなだけ武勇伝が誇れるな? まったく羨ましいかぎりだよ。変わりたくはないけど」
「お姉ちゃんの言う通りよ、いつもありもしない武勇伝ばかり聞くのは辛かったわ。おめでとう、本当の武勇伝が語れるようになって」
「カワード。私の事に執着しないでまともに生きてたら、こんな事にはならなかったのにね……さようなら。二度と会う事はないでしょうけど元気で『長生きして』ね」
三人の言葉を聞いて「最後の願い」が無駄だと悟ったカワードは、今度こそ膝から崩れ落ちたのだった。
「死刑すら生温いとか……異世界マジこえぇ……」
異世界の常識にあらためて驚愕する流だった。
◇◇◇
――少し時が戻る。
流達が去った直後の岩山では、あちこちから呻き声や苦痛にあえぐ声が聞こえている。
そんな中でも異質な「声」が籠るように聞こえた。
「……ヴァッ……ゲホッ……はぁ~、久しぶりに死にましたねぇ。確かナガレと言いましたか……ゴホッ。つぅ~この私がここまでダメージを負うとはね……。何ですかね、あのカタナは? 何か異常で異質で如何わしい気配を感じましたが」
その男「先生」はむくりと起き上がると、流が去った方向を見る。
「あのカタナ普通じゃありませんね。欲しいなぁ~いいなぁ~。でも触ったら死んじゃうとかアニキも言ってたし……やっぱり彼とセットで欲しいなぁ~! そしたらまた私を殺してくれるかもしれませんし……うふッ♪ 楽しみですね」
死にたいのか死にたくないのか良く分からない先生は、流達とは逆の道の方へと、鼻歌を歌いながら去って行った。
◇◇◇
岩山に着いた先遣隊は、あまりの惨状に呆然と見渡す。死体は無論、斬り飛ばされた四肢や、岩に潰された何か。そして崩落なのか、破裂したような跡の岩肌等、魔法でも使ったかのような凄惨な現場だった。
「これをあの男がやったのか……」
「知らないのか? なんでも巨滅兵を単独討伐したとかで『巨滅級++』持ちだそうだ」
「なるほどな、それなら納得と言った所か。それにしても凄まじいな」
そこでフト、さっきの話を思い出す分隊長の二人。
「でもあれだろ、さっきの話では……」
「俺も思った。酋長を倒したんだよな、しかも集落を殲滅までして」
「「世の中スゲー人もいるもんだ」」
「おっと、無駄話が過ぎたな。全員仕事に掛かれ!」
分隊長達の命令を受け、隊員達は即座に行動に移るのであった。
カワードを馬車の檻に入れるために領兵が連れて行った所で、入れ違いに男が流の前にやって来る。
「ナガレ、待たせたか?」
「いや、ナイスタイミングだったぜ、ファン」
流とファンは拳を突き合わせて、無事を確認するかのように話す。
「それにしても大丈夫か? その脇腹血が出ているぞ?」
「ああこれな……正直ちょっと痛い。いやかなりかな?」
「お前なぁ 大丈夫かよほんと」
「まぁすぐに治るさ」
そう言うと親友と語り合っているリリアンの方を見る。
「リリアン、ちょっとこっちへ来いよ」
「え? 分かった」
流はリリアンの腕を掴むと、その袖をまくり上げる。
「ちょ! ナガレ何を!?」
「いいから大人しくしてろ。あ~こりゃ酷いな……まぁ半分で十分か?」
(残り二本か。まあリリアンの怪我を直す方が重要だな)
腰のアイテムバッグから因幡印のお薬を出すと、リリアンに渡す。
「リリアン、これは即効性のある治療薬だ。とても貴重だから半分だけ飲んでみろ」
「ええ!! そんな貴重な物を貰う訳にはいかない。私はいいから、ナガレが使えばいい。その、凄く痛そうだし」
「俺の分もあるから気にするな。まずはお前の方が先だ。ほら、飲んでみろ。っとチョット振ってと……ほら出来た」
「じ、じゃあ半分だけ」
リリアンは緑色の何かが入った試験管を受け取ると、恐る恐る飲んでみる。
「ぅあアアァン……痛くなくなった! えええ!? 傷も無くなってる! ナガレ、凄い効果だ!」
「だろう? 良かった、半分で間に合ったか」
何故かリリアンは頬を桃色に染め、色っぽい声を出したかと思うと、即座に回復した事に驚く。
「んじゃ、俺も痛いから治しちゃいますかね~」
そう言うとリリアンから受け取った「残り半分」をグイっと一気飲みする。
「「「あああああ!?」」」
「お、治った。結構深い傷だった気がするがあれでも治るんだなぁ~。流石うちのウサちゃんは凄いね。ってどしたんだ、お前ら?」
姉妹二人は顔を真っ赤にして口を開けたまま固まっており、その隣のカレリナは涙目でプルプル震えていた……。
カワード編もこれにて終了です。
この物語が始まって初めての本格的な「ざまあ」だった訳ですが、いかがでしたでしょうか?
今日も見てくれてありがとうでした!
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