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055:先生の高尚な授業

「お前ら……クッ!! 先生、ホントに頼んますぜ!!」


 アニキは渾身から搾り出るような焦りで、先生に希望を託す。


「やれやれ、困った男だね。キミもそう思わないか?」

「……ああ、それには同感だ」


 流は先生の使い勝手のいい魔法の「破片」を数発貰って、ダメージを蓄積していた。

 何度か隙を見て攻撃しようと、岩を蹴り先生へ肉薄する寸前に、エアボールの空気弾が流を襲う。それを迎撃するだけで手一杯の状況だった。


「キミは魔法師と戦った事が無いんだろう? なら先生が最初で良かったね」

「どうしてだ?」

「そりゃぁキミぃ~。優しく殺してあげれるからね?」


 そう魔法先生がニコリと笑うと、両手に空気の塊が二つ出来る。


「さぁ今度は二つだ、躱せるかなぁ? 《風球よ颯となりて敵を撃て、エアボール!》」

「クッソ!」


 流は先生の放った空気弾の一つを綺麗に斬り割き、残り一つを躱す、が。


「甘いねぇ~、それッ」


 突如空気弾の起動が曲がり、流の左肩に直撃する。

 たまらず流は右後方へ飛ばされる。


「グウウウウッ! 痛ってぇぇぇ!!」

「おいおい、『痛い』で済むのかい? どうなっているんだキミの体は? 先ほどよりも丈夫になっていないかい?」

「つぅ……そんな事も分からないのか? 先生のくせに」

「あっはっは、キミは本当に面白い男だ。どうだい、先生の弟子にならないかい? 君なら先生の役に立ちそうだ」

「後ろ向きに善処させてもらうよ」


 無駄口を叩きながら、流は考える。

 確かに同じ魔法を何度か食らったせいで耐性が付いたのか、ダメージは軽減されている気がした。

 そして初の直撃すら、かなり痛いが耐えられるレベルだった。


「ふむ、少々興が乗った。それでは中級の魔法を使ってみようかね」

「……は?」


 流は耳を疑った、先程までの攻撃は初級の魔法だったと言うのだから。


「んん? 何を驚く。あれは初級の魔法さ。ま、私のオリジナルスペルではあるけど、最近は使う奴らが多くてね。まったく、使用料を払って欲しいものだよ」


 そう先生は憤慨しながら、中級の魔法を構築する。


「これはまぁ一般的な中級魔法さ。色々迷ったけどね、その『カタナ』の持ち主ならチョット期待しちゃうじゃないか?」

「何故これが刀だと?」


 更に構築しながら先生は話す。


「だってキミぃ。それ、御伽の国の遺物だろう? ワクワクするじゃないか!!」

「なら、持ってみるか?」

「え!? いいのかい!? ……いや、やめとくよ。何か怖いよ、それ」

「先生!! 大正解ですぜ! そいつの剣を触ると死にますぜ!」

「えーやっぱりそうなのかい? 何か嫌な気配がしたんだよね、コワイコワイ。あ! キミは先生を騙そうとしたね? 悪い子だなぁ、メッ!」


 先生は人差し指を立てながら思った、御仕置が必要だ! と。

 流は思った、こいつは普通のやつじゃない! と。

 美琴は思った、私を知らない人に渡すなんて酷よもう! と。


「さて、覚悟は出来たかな? キミのカタナに相応しい魔法を考えて見たんだけどね、やっぱり水属性が相応しいと思わないかい? そのブレードが何とも美しい……それが水に当てられたら、どんなに輝くかと思うと……《水雷の牙!!》」

「いきなりかよ!!」


 先生は突如《水雷の牙》を放つ。

 流との距離は六メートル程だったが、先生を中心に水の柱が立ち昇ると、一気に爆散し、雷のようにうねりながら斜め上方より襲い掛かる。その数は八つ!


「クソ!」

 

(やった事はねーが、ジジイの業にあったアレをやるっきゃねー!!)


 流は迫る水雷の牙を観察眼でギリギリまで見極めながら、上方より迫る殺意を斬り割く。


「ココっきゃねー! ジジイ流壱式! 四連斬!!」


 四連斬は体にかかる負担が大く、以前の流には難しかった業だった。

 だが異世界で図らずしも鍛えられ、十分に放つ事が可能になった。が――


「ぐぅッ!? 付け焼刃では撃ち損じたかッ!!」


 連撃の腕輪で八連斬にまで昇華した斬撃は、六連までは決まったが、七と八。特に八つめが壊滅的に失敗した。

 結果、流の右脇腹の外側を水雷の牙が削り取る。


「んんん!? 凄いよキミぃ~ 魔法使いとの初めての実戦。しかも初見の中級魔法を剣の業のみでよくぞ防ぎました。先生、感服しちゃいましたよ! 及第点をあげます」

「及第点なのかよ、そこは合格にして欲しいね……」

「ははは、それはもう少し先生に『魅せて』くれたらね?」


 そう言うと先生は実に楽しそうな笑顔になるのだった。


「あんたも領域者ヘンタイの類かよ……この世界は変態が多くていけねぇな」

「ははは、そんなに褒めても魔法しか出ないよ?」

「褒めてねぇけど、魔法はもっといらねぇ」


(観察眼での弱点……心臓・首・脳天か、まあ普通の人間だな。それより因幡の涙を飲むべきか? いや、あれは最終手段だ。ジジイの痛みに耐える修行はしたからまだいける、って俺はドMか!? それに酷い怪我人が出るかもだしな)


 流は先生と会話を楽しみながらも、思考の奥では作戦を練る。


「先生はやっぱりキミが欲しいですね~。どうです、先生に師事しませんか? きっと素晴らしい地獄が待っていますよ?」


(今は詠唱をしている雰囲気では無い、今がチャンスか? いやダメだ。あの野郎、風球を左手に出してやがる)


「勧誘するなら、そこは天国って言うべきですよ、先生?」


(連撃のクールタイムは残り六分、時間を稼げるか……いや、無理そうか。なら古典的なアレをやるっきゃねぇ)


「先生とした事が! それは失礼をしました。で、どうですか? 一緒に来ませんか?」

「行ってもいいですがねぇ。先生、その前に一つ付き合ってくれよ」


 流の提案に先生はとても嬉しそうに頷く。


「ほっほ~! それは何です? 先生はキミの提案を心より歓迎しましょう」

「ありがとうよ先生。後三十分待ってくれと言ったら待ってくれるか?」

「それは無理ってものですよ、興醒めです」

「分かった、ならニ十分はどうだ?」

「キミねぇ~先程と何ら変わらないじゃないですか? それにほら、観客もアニキだけになってしまいましたよ? お連れの二人は今逃げ出したようですし」


 気配察知で探ると、確かにカワード達の気配が無い。


「流石先生だな、この状況で良く分かる」

「ふふふ、当然ですよ。先生ですからね!」


 さらに流は話をのらりくらりと引き延ばしながら、時間を半分まで減らす。


「なら先生……残り三分だ。それなら待ってくれてもいいだろう? 最初の十分の一だ。まさかこれすら蹴るなんて言わないだろう、先生?」

「……まぁ、その程度ならいいでしょう」


(かかった!! 先生は詐欺に弱いのかもしれねぇ)


 流は古典的な思考誘導を試みた。

 

 それは詐欺師や強面のお兄さんが良く使う手口で、初めに無理難題を提案し、最後は妥協しやすい所まで持って行く手法だったが、実際は無理な提案なのに「最初よりはマシ」と思い込み、気が付かないで契約すると言う手口だった。


「では先生もそれなりに本気を出しましょうか。次は詠唱破棄をしないで行きますよ?」

「先生……アンタまさか、さっきのは手加減をしてたのか?」

「え? それ以外何が?」

「そうか、なら俺も全力で行かせてもらおうかね」

「素晴らしい! 先生は感動しました! さて……そろそろでしょうかね?」

「そう、だな……」


 流は腕時計をチラ見する。


 残り十秒。


「では行きますよ~《精霊よ、水の彼方より我が呼びかけに答えよ。汝の怒りは自在な雷と化し敵を穿て……精霊魔法・水雷の牙!!》」


 流は詠唱と同時に先生へと突っ込む! 先生は詠唱破棄で放ったエアボールを全面に押し出し、流に備える。


「それは予想済みだ!! これでも食らいやがれ! 飛竜牙!!」


 流はエアボールに飛竜牙を叩き込み爆散させる。

 瞬間、先生の足元から水の柱が噴き出る。

 ついに本気の《水雷の牙》を先生が放つ刹那、流は水の壁に向けて渾身の一撃を放つ!


「ジジイ流刺突術! 間欠穿!!」


 流の間欠穿で、水雷の牙になる前の水の柱に一瞬穴が空く、そこへ――。


「ジジイ流初伝! ただの突き二連撃いいいいいい!!」


 間欠穿で穿った穴へ、さらに一歩踏み出し美琴を真っ直ぐ突き刺す事二連! 

 

 ――間欠穿で開いた穴はすぐに閉じると予想した流は、「ノーモーション」から放てる業が無かった。

 そこで初伝の基本型の突きを放ち、それで貫通出来ないようだったら、「もう一連」連撃の腕輪で押し込む事にする――


 何の障壁も無い状態の先生の鳩尾へと、美琴の切先まで刺さり、さらにトドメとばかりに、物打ちあたりまで突き刺さると同時に水の壁が四散する。


「がっふっぅ!!」

「セ、先生エエエエエッ!!」


 先生はたまらず吐血し、そのまま仰向けに倒れると同時に水雷の牙は霧散する。

 そんな先生を見て、アニキがこの世の終わりのような声で、先生に向けて絶叫する。


「ぶッはぁ! はぁはぁ……どうだ、先生、合格か?」

「ゴフォ……あ~見事ですよキミぃ……まさか、あの……水の壁を越えて来るなんて……想像……しませんよ。ゴフッ……普通、なら剣が折れ、ますよ……合格、です……それでキミ、は一体何者……なんです?」

「俺か? ただの骨董をこよなく愛する商人だが?」

「ハハ……ハ。そんな商人が居て……たまるもの……ですか……ゴホッ! ハァハァ……命の、最後に素晴らしい、戦いを、ありがとう」


 先生は吐血しながらも流を称える。


「先生、あんたも凄かったぜ……もう二度と殺りたく無いくらいにな」

「はは……は、それは良かったです……最後にそのカタナを……もう一度見せてくれませんか?」


 流は先生に美琴を掲げて見せる。


「ああ~美しい……いい物は……イイです、ね……」


 そう言うと先生は満足し、満ち足りた表情で事切れたのだった。


「こんな所で会わなければ、いい趣味持ちとして仲よくなれたかもな……さて、アニキ。お前には二つの選択肢がある。今すぐ地獄へ旅立つか、仲間の情報を教えて生き残るか? さあ選べ、どっちがいいんだ? 時は有限だ」


 アニキは顔面蒼白になりながらも即答する。


「わわわ、分かった! 知りたい事は何でも教えてやるから、命だけは助けてくれ!!」

「よし、じゃあコチラへと追いで頂こうか?」


 流は片手をスっと差し出すと、賊が持っていたロープでアニキの上半身を縛って、元来た道に向けて歩き出すのだった。

 本当にいつも読んでいただき、ありがとうございます! もし面白かったらブックマークと、広告の下にある評価をポチポチ押して頂いたら、作者はこうなります→✧*。٩(ˊᗜˋ*)و✧*。


 特に☆☆☆☆☆を、このように★★★★★にして頂けたら、もう ランタロウ٩(´тωт`)وカンゲキです。


 ランタロウの書く気力をチャージ出来るのは、あなた様だけです!

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