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054:お前はイイ女だよ

 迫る凶賊の集団。それを冷静に分析しながら、背後のリリアンへも配慮する。


(地形上囲まれても最大五人、正面斜め上からの弓兵が八人! リリアンに一人向かっても何とかなるか!?)


 流は正面から襲い掛かる太った賊の質が悪そうなロングソードを斬り飛ばし、そのまま横に一閃する。

 そのまま斜め下に潜るような姿勢から上に煽る様に斬り上げる。


「ジジイ流壱式! 三連斬!!」


 腕輪の力で六連になった斬撃は、勢い余って背後の賊を一気に十二人減らす。


「ごあ!?」「ギャアア」「ジョダッ」「モギャ」


 悲鳴とも叫びとも何とも言えない声が一斉に轟くと、賊は両断されたり、良くて四肢の何処かが欠損するような状況になる。


「ば、ば、ば化け物がああ!! 弓兵!! 何をしている、早く撃ちやがれ!!」

「へ、ヘイ! お前達、狙え!!」


 呆気にとられていた弓兵は、アニキに急かされて流に狙いを定める。

 それを確認した流は左腰に装備している鞄から細長い物を取り出し――。


「遅い!! ジジイ流投擲術! 飛竜牙ヒリュウガ!!」


 飛竜牙――片手で最大四本の短刀を飛ばし、狙い撃つ初伝の業だが、流はまだ三本が限界だった。が、会心の投擲で弓兵へと向かい飛ぶ。


 弓兵を指揮していた男の頭と、弓兵二人の胸に投擲用の短刀を投げる。

 威力は低いが、急所に当たれば絶命必死の短刀が三人の命を奪う。

 

(弓兵は残り五人! だが)


 襲い掛かる敵を前になかなか投擲するタイミングが掴めず、矢が流の頬を霞める。


(クッ)


 後ろをチラ見すると、リリアンが亀のように防戦をしていた。

 賊に致命傷が入らないものの、それなりの傷を負わせて動きを鈍らせてから、一人を倒したのが見える。

 だが即座に別の賊が、リリアンへと斬りかかるのが見えた。


(俺一人なら足で稼ぐんだが、俺が居なくなったらいくら狭いとは言え、リリアンの負担が大きくなるか? どーする!?)


 流がリリアンに気遣い防御に意識を持って行かれた時、後ろから声がする。


「ナガレ!! 六分だ!!」

「ッ!? イイ女だよ、お前は!!」

「馬鹿ッ! こんな時に何を言っているの!?」

「こんな時だからッ――だろ!!」


 流はリリアンの「決死の六分かくご」を背に受け、目の前の四人を即座に斬り伏せ、正面に居る一人のロングソードを持つ手首ごと切り落とす。

 刹那、賊を倒すのを見計らった矢が、流を目掛けて飛んで来る!

 それを流は利き手を失った賊を引っ張り盾にして躱すと、即座に「真横の岩肌を蹴って」山伏の岩飛びのように移動する。


「なぁッ!? と、飛んだだと!!」


 アニキをはじめ、賊共はその驚異的な機動力に呆然となる。


「美琴!! 岩を斬れるか?」


 当然とばかりに美琴は〝ブルリッ〟と力強く震える。


「うぉ!! 驚かせるな美琴。一度も成功した事ぁねーが、やるしかない!! 頼むぜぇ美琴様!」

「ガキが何かをヤルつもりだぞ!! 弓兵は死に物狂いで射殺せ!! 下の奴らはガキを何としても叩き落せ!!」


 これ以上はやらせんとばかり、上の弓兵も、下の盗賊も後先考えずに突っ込んで来る。

 流が足場にしている場所を直接狙いに来る弓兵、そこに投げナイフを下から投げつける賊共に向けて、流はナイフを美琴で弾きつつ、弓兵に背を向けて突っ込む。


「よし今だ! ガキが弓兵に背を向けて逃げ出したぞ、撃て撃てええええ!!」

「馬鹿め! 弓から逃げてこっちへ来るぞ! 今だ迎え討て……って、なッ!? つ、突っ込んで来たぞ!!」


 そのまま数人を切り伏せると、そのまま近くの岩壁に身を寄せると同時に、背後より矢が降って来て賊共に矢が刺さる。


「ガアアアッ!? 矢がああああ」「いでぇぇ」「グポッ……」

「援護射撃ご苦労!! さて、岩山まで残り……八メートル位か!? 一気に駆け抜ける! 脆いのは……」


 流は観察眼を使い、弓兵が乗っている岩の「一番脆い点」を探しだし、見つけ――駆けだす!!


「あったあああ!! 美琴オオオ頼むぜええ!!」

「撃て! 何してるお前ら!!」

「ア、アニキダメです!! 影に隠れて――」


 弓兵が乗っている、高い岩場の顎の部分に流は美琴で一閃する!


「ジジイ流薙払術テイフツジュツ! 岩斬破砕ガンザンハサイ!!」


 流が斬り付けた岩場に亀裂が高速で走り〝ヴォゴッ〟と言う鈍い音が響く。


 ――岩斬破砕。通常は岩の「要」を薙ぎ払う事で、巨石ですら粉々に破砕する業である。

 しかし美琴が助力する事により、破砕後にオマケが付いて来る……つまり――


 次の瞬間〝ドッパンッ〟と言う弾ける音が聞こえたかと思うと、流が居る場所を頂点として「Δのような形」を残し、岩が弾け飛ぶ!


「ギャアアアアア」「岩がああ逃げッ」「ゴバアア」


 賊共は岩が散弾のように飛んで来るのを躱す事が出来ず、絶命する者、打撲で動けなくなる者で阿鼻叫喚となる。


 あまりの状況に呆然となる殺盗団の生き残り。

 あまりの状況に呆然となる流。


「知っては居たけど、美琴さんマジスゲェ……何で弾け飛ぶし!?」


 運よくアニキは手下を盾にして岩の直撃を逃れ、惨状となった今の状況を確認する。

 見れば五十人居た手下達は、すでに手下が三人にのみとなっていた。


「う……そ、だろ……? 弓兵は!? 下に居た奴らまで埋まっちまったのか!!」

「らしいぞ? さて、どうするア~ニキ?」


 背後から聞こえる間の抜けた問いにゾっとする。ゆっくりと振り向くとヤツが居た。


「あ、あ、あ、アンタは一体何者なんだ……」

「俺? ただの骨董好きの商人だが何か?」

「バ、馬鹿をいうんじゃねえええええ!! こんな事が出来る奴が商人の訳があるかあああ!!」

「む、失礼なアニキだ。さて問おう、二度目の地獄へのご招待だ。今度は逝ってくれるよな?」


 アニキは数歩後ずさると、血の気が失せた表情で叫ぶ。


「せ、先生!! 先生!! お願いしやす!! 報酬は二倍、いや五倍出しますんでお願いしやす!!!!!!」

「馬鹿だねぇ……そこで先生を呼んだら奇襲が出来なくなるだろうに。まぁそれも通じるか怪しい相手だがね」


 瞬間、流の第六感が〝ビリリ〟と嫌な感覚を与えて来る。


 見た目は二十代半ば程の、糸目で優男風の美男子だった。

 その出で立ちは黒の宗教的衣服のような物を着ており、両肩には宗教指導者が掛けているような、白銀の豪華なストラがなびいていた。


「先生? 語学の先生なら、すでに微妙な先生を雇っているから必要ないが?」

「ハハハ。中々楽しいね、キミ。確かに剣技は一流らしい……が、これはどうかな?」


 先生と呼ばれた男は右手に「風の塊」を可視化する程の濃密さで現す。


「先生は王都で昔はそれなりに有名な魔法使いだったんだがね、まあ今となってはこっち側の方が性に合っていた訳だ。そんな訳で、死んでくれないかい?」


 先生はそう言うと、右手の風の塊を圧縮し始める。


「まずはこれでもどうかね? 《風球よ颯となりて敵を撃て、エアボール!》」

 

 風の塊が高速で流れに向かって来たのを、流は美琴で斬り割く。


「こんな物ッ! グガァッ!?」


 斬り割いたはずの二つの風球一つが、流の左肩に当たってダメージを受けてしまう。


「ああ言い忘れていたが、それを剣で斬っても消えないぞ? そのために開発されたモノだからね。おてがるなのに、剣士には嫌われるやっかいな魔法さ」

「そう言う事は早く言ってもらえませんかね、先生……結構痛いんですけど」

「結構ですんでるのが結構な事だね。普通は骨折しててもおかしくないんだが?」


 (確かに美琴で斬らなければダメージがもっと大きかったか、ネットリと纏わりつく風なんて初めてだ)


「さ、流石先生!! テメーら今だ! 女を人質にして来い!!」

「ヘイ!」


 先程の岩石弾により、リリアンの前に居た賊は丁度盾になる格好で頭と体に石礫が当り気絶していた。

 そこへ生き残りの賊が殺到する。更に運が悪い事に、先程の岩石弾が右の岩を割り、そこからもう一人分のスペースが出来てしまう。


「リリアン!」

「大丈夫だ、こっちを気にせず魔法使いを倒してくれ!!」

「死ぬなよ!」


 リリアンは「ああ」と小さく頷くと、向かって来る賊達に備える。


「馬鹿が。やっと一人を抑えてただけの小娘が、二人を相手に出来るかよ」

「やってみないと分からない!」

「分かるぜ? ほらよ!」


 賊が正面から斬りかかるのをリリアンは盾て防ぐ、すぐに反撃をしようとすると、別の賊が棍棒で殴りかかって来る。

 しかしやはり狭いらしく、棍棒を思いっきりは振れないのが幸いして躱す事に成功する。


「テメェ、邪魔だ。もう少しそっちへ寄れ」

「お前が邪魔なんだよ、そっちこそ向こうへ行け」


(これはチャンスなんじゃないか? よし!)


 リリアンは覚悟を決めてショートソードを持った賊へと斬りかかる。


「いいからそっちへ行けって言っ!? あぎゃッ」

「馬鹿! 何してんだよ! その傷じゃもうだめだ、お前は下がってろ!」


 リリアンがショートソードの男を袈裟懸けに斬ると、その奥から最後の賊が槍を持って襲い掛かる。


「おい、俺は槍で攻撃する。お前は前に出て小娘を捕えろ」

「チィ仕方ねぇ。オイ小娘! 大人しく捕まれば痛い事をしねーからこっちへ来い」


 賊はジリジリと間を詰める、そこがチャンスと思ったリリアンは大胆に踏み込み、棍棒の男へ斬りかかる。しかし――。


「バーカ、俺の事を忘れるなよ?」

「ぐぅぅ盾がっ」


 リリアンの盾に槍が突き刺さり、盾の左上の一部が壊れる。

 それを見た槍の賊はニヤリと嫌らしい笑みを浮かべながら、リリアンを嬲る様に槍をこねくり回す。


「ほらほら、どうした娘? もう少しで最後の希望が壊れるぞ~?」

「ちげえねぇ! オラッ! 俺の棍棒もよ~く味わえ」


 棍棒の賊も興奮したのか、汚いテントを張りながらリリアンを弄ぶように棍棒を振るう。

 槍と棍棒の二重攻撃に窮するリリアン。


(こ、このままではやられる!?)


 槍を捌き、棍棒を盾で受け凌ぐ。その時、賊が二人同時には攻撃出来ない事に気が付く。


(そうか! 槍で攻撃している時は刺さるから、棍棒の奴は攻撃出来ないんだ! ならッ)


 リリアンは槍の攻撃を盾で〝ガッシリ〟と受ける。すると弱った盾を貫通し、槍はリリアンの左腕に傷を与えながら盾に食い込んでしまう。


「なッ!? 槍が抜けねぇ!」

「グゥ! こっちへ来い! ダアアアアアア!!」


 リリアンは盾に食い込んでいる槍を、そのまま掴み強引に引き寄せる。

 槍の男はバランスを崩し、手前の棍棒の男へと覆いかぶさる。


「馬鹿! 何をやってい――」

「馬鹿はお前達だ! ヤアアアア!!」


 リリアンはバランスを崩し、倒れ込む二人を刺し貫く。

 二人はなす術もなく、リリアンの剣に貫かれて絶命するのだった。


「ナガレ!! こっちは片付いた! 後は頼む!!」


 リリアンはそう言うと、膝から崩れ落ちるように倒れた。


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