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536:宣戦布告

「トエトリーの商業ギルドの主、バーツの事は知っとるな?」

「ああそれは当然さ。そもそも俺は領都級の商人だからな」

「うむうむ、ならばバーツと同等の事を知っていると言っておこうかの~」


 その言葉で流はトエトリーでバーツに言われたことを思い出す。


 ――ナガレよ。時が来たら全てを話す。それまで待っていてはくれないか。

 ――わかりましたよバーツさん、俺は貴方を信じています。


「そう、か。バーツさんも俺の事をやはり知っていたのか」

「そうじゃな、そしてこの国の最大権力者である、〝あの男〟も知っておる」

「最大権力者……って、まさか国王か!?」


 それに答えずアダムズはコクリとうなずくと、さらに大きく見え始めた趣味の悪い王城を見て嘆息し指を差した。


「そうじゃ。このバンディア王国の腐った主にして、流の先祖の栄誉を盗んだ罪人の子孫――。〝バンディア・フォン・イスカンダリル三世〟も、流の事を知っておる。今頃は慌てふためいている頃じゃろうて」

「盗んだ? まて、一体なんの事だ? それにどうして俺が来た事を知っているんだ……」

「もっともな質問じゃな~。ワシらは流を……いやさ、〝古廻の当主〟の血筋を感じる(すべ)をもっとる。だからワシは流がここへ来た事を察知し、いち早く探すことが出来たのじゃよ」

「ちょっと待ってくれ、俺がドコにいるのかが分かるってのか!?」

「まぁそんなところじゃ。だがワシやバーツ、そして残り数名(・・・・)はある程度の場所まで分かるが、あの愚王・イスカンダリルは〝近くにいる〟ということしか分からぬ」


 その言葉で流は絶句しつつも理解をする。自分の先祖とこの国は深いつながりある事を。そして眼の前の老人、アダムズもそうなのだと。


「アダムズ爺さん、あんたは一体……」

「それは落ち着いたら話すとしようかの~。まずはあの趣味の悪い城の横を抜け、ヴァルファルドの子飼いだった者が始めた傭兵組織。〝黒剣傭兵団〟の所へと向かおうかの~」

「ヴァルファルドさんと関係がある黒剣傭兵団? それはこのエンブレムと関係あるのかい?」


 流はヴァルファルドから預かった物をアダムズへと見せる。それを肩越しに見ると、二度うなずく。


「うむうむ、それじゃな~」

「よく知っているな……なんだか色々驚きの連続だが、アダムズ爺さんがトエトリーと密接な関係にあるのはわかったよ」

「ほっほっほ、トエトリーとはお仲間じゃよ。むしろその下部組織が本部(うち)じゃからのぅ~。っと見えて来たのぅ、あれが王城じゃ~」

「なんだ…………あれは?」


 流はそれしか口から出なかった。その異様な姿に驚き、口を半開きにすることしかできない。

 それもそのはず、城の門はまるで天界への扉のようであり、左右に巨大な女神像が扉を支え持つ。さらに王城を囲む壁は等間隔に歴代の王の像があり、住民が朝から磨き掃除をしている。

 さらに王城そのものも異常だ。石造りなのだが、金と思われる金属であちこち装飾されており、形も独創的というより悪趣味全開の気持ち悪さがある。

 そして城のてっぺんには現王と思われる黄金の像が、真紅のマントをはためかせ王笏(おうしゃく)を天へ向けてさしていたのだった。



 ◇◇◇



 ――王城内部の廊下をひとりの侍女が歩く。真紅のふわりとした踏み心地の良い絨毯の廊下を、侍女は毎朝歩くのがとても好きだ。

 そこには誰もいなく、明るい日差しが窓から差し込み、飾られた名品たちを美しく輝かせる。


「はぁ~。毎朝この光景は私だけのもの……うふふ、ステキな眺めで心が踊るわ」


 誰もいないことでつい思いが口から漏れてしまう。そして侍女の朝一番の仕事である、国王の起床を手伝うと言う役割を思い出すと心が沈む。

 だがその思いだけは口からは漏れ出ない。万一聞かれでもしたら死を意味するのだから。

 そんな陰鬱(いんうつ)とした思いが、城の主の部屋の前までくるほどに強くなり、廊下を歩いていた時の気持ちが霧散してしまう。

 侍女は「はぁ……」と聞こえないほどに嘆息し、黄金で彩られた豪華な扉をノックする。


「おはようございます陛下」


 いつもならネットリとした声でなにかしら返事があるが、今日は物音一つしないのが不思議だった。

 侍女は不思議に思いながらも、もう一度扉をノックする。少し強めにだ。


「陛下、どうされましたか?」

「…………ぃ」

「陛下? どうされましたか? まさかお体の具合が……失礼いたします!」


 侍女は覚悟を決めて扉を開け放つ。そこには遮光された暗い部屋の奥に、キングサイズのベッドがあった。無論派手な装飾付きだ。

 そのベッドの中央に、大きく醜い体をこれでもかと縮めた男が膝を抱えて震えている。そう、この国の主であるバンディア・フォン・イスカンダリル三世、その人であった。


「へ、陛下いったいどうされたのですか!?」

「嫌だ、死にとうない。嫌だ、死にとうない。嫌だ、死にとうない……来た……ついに来てしまったッ!! あ、あの古廻が余を殺しに来たのじゃ!! あああああ異世界のバケモノが、余を! この国を!! 滅ぼしに来たのじゃああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


 錯乱するイスカンダリル。侍女はどうしたらよいか分からず、顔を青ざめて数歩あとずさり、次の瞬間。


「――クフッ!?」


 背中に衝撃が走ったと思った後、心臓の位置から銀色の刃が突き出ているのを目撃する。そのまま前に倒れると、侍女は意識を失い絶命した。


「お前はよく尽くしてくれたが、これは見せられない。悪いが死んでくれ」

「あ、兄上……父上の言葉の意味はまさか」

「そうだろうな来たんだろう。アルマーク商会から報告が上がっていたが、父上は信じようとしなかった。が、やはり来ていたのだろうな」

「ひぅッ!? あ、あ、あ、兄上ぇぇ。ど、ど、ど、どうすればッ!?」


 第二王子の狼狽した問に答えず、皇太子は国王(ちち)を見下しながら窓の方へと進む。そしてカーテンを開け放つと、眼下に見える街並みを不敵に見つめ口を開く。


「王のみが感じることの出来ると言う、古廻の気配……やはり本当だったのか。来るか古廻の者よ……この国が生き残るか、お前が先祖の恨みを晴らせるか――見せてもらおうか、古廻 流。お前の覚悟と暴力(ちから)を、な?」


 皇太子〝バンディア・フォン・アルデバラン〟は、赤き闘気をたぎらせる。瞬間、目の前の窓が爆散し、粉々となったガラスが宙を舞う。

 その濃密な気配を感じた流は王城を見上げながら、細かな光が舞い散り輝く最上階を凝視する。


「あれが俺の敵なのか……」


 そう認識せざるをえないほど、城下へと……いや、流へ放たれる敵意と悪意。それをジリジリと焼かれるように感じつつ、流は嵐影の背に立つ。

 背に立った瞬間、流は妖人(あやかしびと)となり、魔力を最大限に練り上げ妖気も込めれるだけ込めて抜刀術の構えを取る。


「お……おぉ……なんと雄々しい……」


 その様子に思わずアダムズは涙をながして見入る。目の前のそれ(・・)は、父や祖父から聞いていたものと、全く同じであったのだから。


「誰かは知らんが、お前の挑戦は受けよう。これが俺の返事だ……受け取れ、ジジイ流・抜刀術――奥義・太刀魚【改】!!」


 美琴がいない今、魔力の方がおおくなり蒼い斬撃となった太刀魚は、一直線に王城の真上へと昇る。

 童子切との戦いで魔力の引き出し方を学んだ流は、これまでに無いほどに太刀魚を昇華させた。その威力、最大にして最強。

 以前の【極】よりもさらに力を増した斬撃は、迷いなく王城の最上部へと到達した刹那、王都全域に響く硬質で高音な金属音。


 〝カックォーーーーーーーーーーン!!〟


「な、な、な、何が起こっているのです兄上ッ、ヒエァッ!?」

「ヒィィィィィッ!? 余の首があああああああああああ!!!!!!」


 まるで祝福の鐘の音が響いたかと思った次の瞬間、なめらかに何かが滑る音が上部からした。

 それが何かを確認しに第二王子のが窓辺に向かおうとしたが、巨大な金色の顔が落ちてくる。そう、黄金で作られたこの国の王の首が、中の三人を嘲笑うかのように落ち、不愉快な視線で本人を見つめながら落下していく。


 その光景にさらに発狂した国王イスカンダリルは、そのまま気絶し失禁。そんな事を全く気にしないアルデバランは、その斬撃が来た方向を見下ろし口角を上げた。


「よかろう、いい宣戦布告だ。受けて立とう、古廻 流よ……此度(こたび)は逃さん、互いとも存分に滅ぼし合おうぞ!!」


 そう言うとアルデバランは烈火の如く、激しく笑いながら部屋を後にする。その後を転げるように付いて行く第二王子。

 残された国王イスカンダリルは、誰もいない部屋で哀れにも気絶することで、恐怖から開放されたのだった。

これで一時休載となります。

後ほど活動報告にすこし書きたいと思います、こんなにも長くお付き合いいただきまして、本当にありがとうございます(´;ω;`)


こんなに長く続けられたのも、あなたのおかげです。本当にありがとうございます。

不定期更新になりますが、これからもよろしくお願いします!!

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