535:本部の受付嬢
それに全く動じず、まゆすら動かさないでアリエラは答える。
「日ノ本? 侍? なによそれは、そんな存在はあの時、あの瞬間からこの世界から消えたわよ」
「そう、生き残り意外はね。そして――」
アルバートはさらに厳しい目つきとなり、探るようにつづける。
「――異世界から新たに来たあの男も、ね」
「異世界? いやだわアルバート。貴方、物語を読みすぎじゃないかしら? そんなにアタシのファンだったなんて知らなかったわよ」
「ハハハ、それはファンさ。なにせこの国の根幹を成す出来事であった人物だからね。それで返答はいかに?」
アリエラはニコリと微笑むと、氷の花が咲いたかのごとく冷たくあしらう。
「そうね……ハッキリと言いましょうか。知らないわ、例え知っていても言うはずがないし、その理由も〝根幹が何なのかを知ってる〟貴方なら分かると思うけれど?」
「ハハハ、それは手厳しい。やぶ蛇と言うものだったかな? まぁ理解したよ、邪魔をしたね英雄殿」
そういうとアルバートは踵を返し、入り口へと向かう。そのままウエスタンドアに手をかけふと止まり、背後を見ないまま口を開く。
「……あぁ、そうそう。アリエラは今回はどちらにつくんだい? 当然私についてくれると理解しているが?」
「ふん、自信家というのはいつの時代も一緒ね。せいぜい策に溺れないようにしなさいよね」
「ははは違いない。期待しているよ、古の英雄殿」
そのままアルバートはギルドを出ていくと、外で待っていたデリルへと右手をあげ口を開く。
「やぁ待たせたね」
「いえ、それよりなにか収穫は?」
「ん~アダムズ伯とは会えなかったよ。アリエラとは話せたけれどね」
「やはりアリエラ様でしたか。さきほど緑色の風が吹いたかと思えば、その中に人影が見えましたので。だがそうですか……そうなると手がかりは無いと言うことですな」
デリルの言葉にアルバートは両手を胸の前にだし、肩をすくめてそれを肯定する。
その様子にデリルは手がかりが無いと思い、次の手を模索するが。
「いや、そうでもないかな。手かがりはあったよ」
「しかし何もアリエラ様からは聞き出せなかったのでは?」
「そう、彼女は何も答えてはくれなかったよ。だけど受付嬢は優秀だね、彼女らは私が放った殺気を受けて、瞬時に行動を起こした」
「と、申しますと……あぁなるほど。王族が問題を起こせば、ギルドへの捜査の手が入る可能性がある。そこから、うちの首脳部に秘密裏に工作していたと言う証拠を捏造され、ギルドをさらに調べられ、身動きが出来なくなるという事を恐れての行動」
「そう、今は戦争間際だからね。実際は本当にしているんだけれど、今はこちらもそれを利用させてもらおうか」
「それで手がかりとは?」
「うん、その受付嬢で最高位の娘が向かった先は、サブギルドマスターの部屋だったのさ」
「なるほど、つまりアダムズ伯は留守だと?」
「そういうことになるね。ただ事前情報では、アダムズ伯は数週間ギルドで寝泊まりしているはずだ。つまりはそういう事だろう?」
ニヤリとデリルは口角を上げると、呆れた声でアルバートへと話す。
「やれやれ。お一人で向かうと言うから何事かと思いましたが、初めから受付嬢を狙っての事だったのですな」
「やめておくれよ、人聞きの悪い。お前たちまで入ったら、私が目立たない。ただそれだけのことさ」
「まったく、その黄金の瞳にはどこまで見えているやら」
「見えるところまでさ。さて、お出かけになったアダムズ伯を迎えに行こうじゃないか」
デリルはその言葉を受け、全隊に指示を出す。
「これより隊を三つに分ける。二つは憲兵隊と合流し、お前たちが指揮をとれ。残りは直衛として護衛につけ、セイジュの隊は現状維持。以上、ゆけ!」
「「「ハッ!」」」
その様子を見て、セイジュは内心冷や汗をながす。アダムズが向かう先に心当たりがあり、その様子をアルバートに悟られはしないかと、心臓が激しく鼓動するのだった。