533:冒険者ギルド本部へ
「セイジュ様……このままついていっても、本当に大丈夫でしょうか?」
「大丈夫。と、言えないのが困ったものだがな。まぁなにはともあれ、俺の副官としての任はこれまで通り頼む」
「は、それは無論です。貴方は食えない方だが、国を思う気持ちは誰にも負けない。私はそう固く信じています」
「そのまっすぐな物言いは嫌いじゃない。が、それで副官として優秀な、その才を潰すには惜しいものだ」
「ハハハ、お陰で貴方様に拾っていただけましたがな。っと、目的地までそろそろですな。殿下のお手なみを拝見と言ったところですな」
その言葉にセイジュは首をすくめ、「違いない」と言いながら先頭の方向を見る。そこには大樹が一本生えており、そこの根本に冒険者たちが出入りをしている。どうやらそこが目的の冒険者ギルドの本部のようだ。
「相変わらずデカイ建物というか、木だな。知っていたか? あの建物は〝神話大戦〟の時に作られたらしい。噂ではトエトリーの爆乳エルフが作ったと言うが、どこまで本当かは知らんがな」
「ええ、それはおとぎ話で有名でしたからな。私も幼少期に胸を踊らせ聞いたものです。あの黒髪の戦士たちの話を」
「その生き残りが、あの驚異の爆乳エルフだってんだから驚くよな」
「ちょっと、誰が爆乳ですって?」
その時だった。すっかり昇った朝日を背後にし、胸を張る影が現れる。影だけ見えるくせに、なぜか〝デカイ〟と確信出来てしまうソレは、無駄にデカイ!
「……なにか失礼なことを言われている気がするわね」
「気のせいだろうさ。久しぶりだなアリエラ、また王都で悪さをしていると聞いたが?」
「誰が悪って!? しつれいね。ていうか、セイジュ貴方ねぇ。いい加減話す時は私の胸を見るの、やめてくれないかしら」
「おっと、それは失敬。顔を見るより幸せになれるのでな」
「ハァ~、あなたも副官なんかやめて、冒険者にならない? こんなセクハラ変態と一緒にいると、モテナイわよ?」
「アリエラ様、お心遣いありがとうございます。そんな方ですから私がいないと、さらに酷いことになると思いましてな」
そう言うとアリエラは建物の上から軽快に降りてくる。それと同時にどこからともなく現れたラーマンにまたがると、セイジュの隣に並ぶ。
「ちょっと……ギルド本部に来るつもり? まだ大人しくしているからバレないと思ったのに。まぁあの第三王子ならそれもあるのかな」
「いや違うぞ、もっと別の用事だ」
「別? 何よソレは?」
「〝コマワリ・ナガレ〟それに聞き覚えは?」
「え!? お侍さ――いえ、流がここに来ているの?」
「おい、大きな声で叫ぶな。そうだ、多分だが来ていると思う……それを捕縛しに来たってワケだ」
アリエラは「うそ……」と言うと、両手で口元を覆う。いつもと違う仕草にセイジュは疑問に思うも、話を続ける。
「なににせよお前もトエトリーへ帰ったほうがいい。お前がいないと、ギルド運営にもソロソロ支障が出ているんじゃないのか?」
「まぁそれなりに、ね。でもアダムズ一人では荷が重いわ」
「アダムズ総長か。彼も冒険者の元締めになってからと言うもの、苦労の連続だったな。そろそろ体をいたわってほしいがな」
「ぅぅ、それには反省しているわよ。だから胸を見ながら話さないの!」
「あぁすまん、左のアリエラよ」
「……それ、左ちちぃ」
「お二人共、じゃれるのはそこまでです。アルバート様が馬から降りました」
アルバートは静かに下馬すると、足取りも軽やかに全てが木で出来たドアを押して入る。
普段は油の切れた〝ギィィィィィッ〟と鳴るはずだが、なぜか何事もなく内部へと入るのだった。
明日は更新できないかもしれません。