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531:白きバラと赤きバラ

「それで聞かせてくれるんだろう?」

「は、はい! 警報が鳴ったので私が率いた隊が向かった先にその……」


 隊長は顔面に脂汗をうかべて言いよどむ。それを理解したアルバートは、白いバラが咲いたように微笑みかけ、見るものを魅了させようとする。


(こ……この方なら本当の事を言えば助かるかもしれん……)


「どうしたんだい? 聞かせておくれ」

「失礼しました! 実はその、冗談のような話しなのですが――」


 隊長は見たままの事を話す。それは冗談としか思えない内容であり、魔法を使わず剣だけで街路樹を合計で二十二本伐り倒したということだった。


「――というわけです」

「なるほどね、話は分かったよ。褒美と言ってはなんだけれど、ではいくといい(・・・・・)。良き旅を、ね」


 隊長はその瞬間、肩に背負っていた言いようのない恐怖とも、不安とも、安心とも言える感覚から開放される。そして白いバラが咲き誇るような、優しげな微笑みを向けられて快楽に近い感覚になる。


(あぁ……俺は生き残れた……なんて心が気持ちがいいんだ……)


 そんな事を無意識で考えていると、アルバートが静かに口を開く。


「そんな恍惚(こうこつ)とした瞳で、一体どうしたと言うんだい? さぁ、他の者に見つかると殺されてしまうよ。君の職は私が責任を持って解こう。あとは自由にすればいい」

「ッ!? で、殿下……このご恩は一生忘れません!」

「いいさいいさ。人の一生は短いもの、いつ何があるか分からないものさ」

「はい、ありがとうございます! では失礼します!!」


 樹木師の隊長だった男は、アルバートへ向けて頭を数度下げる。そして馬にまたがり南門へと疾走する。

 それを優しげな瞳で見つめながら、アルバートは右手を胸の高さまであげ振り別れを惜しむ。


「若、よろしいのですか、あのようなゲスを逃してしまって?」

「いいんじゃないかな? 私に心酔しているようだし」

「ハァ~。また白バラの微笑でございますか? 魅入られたあの男も悲運ですな」

「デリルは本当に失礼だね。王族への敬意を払っていただきたいものだが」

「払いましょうとも、少なくても毒バラじゃなかったら」


 デリルが右手の人差し指を指す先。そこには元・隊長だった男が黒影に首を切断されていた。アルバートの白いバラの微笑みは、その光景を表情一つ変えずに見つめる。

 馬は異常も感じずに、そのまま走る。背中の主人は赤いバラの花を咲かせるように血飛沫を吹き上げながら走りさるのだった。


「毒とは失礼だね。ただ(とげ)があるだけさ」

「やれやれ、どちらにせよ私はカンベンですな。さて、余興はここまで。いかがなさいますか?」

「そうだねぇ。あの世に旅立った彼からの情報では、十中八九で彼だろうね」

「同意です。王都に精通している者がいれば別ですが、〝古廻 流〟は王都に来たのは初めてのはずです。なれば行く場所として商業ギルドと思いますが」

「確かに彼は商人さ、だがまず彼が行く所は冒険者ギルドじゃないかな? 今回、アルマーク商会からの依頼で私が出張ったのだが、その理由を私は知らない。まぁろくな事じゃないのはたしかだろうさ」


 その言葉にデリルはうなずくと、アルバートへ話し始める。


「王族をアゴでつかうなど、相変わらず舐めた連中ですが……なぜ冒険者ギルドだと?」


 アルバートは「単純なことさ」と言うと右手を軽く上げ、人差し指を立て、指の数を順に増やしながら話し始める。


「一つは彼が高ランクの冒険者であること。二つ目は彼を理由(エサ)に戦準備をしていること。最後に王宮に対する冒険者ギルドの態度が反抗的であること……と、なれば」

「なるほど、本業の商業ギルドよりも冒険者ギルドへ頼る確率が高い。しかも王都(ここ)の商業ギルドは、アルマーク商会の本体と言ってもいいですからな」

「そういうことさ。ま、ここまでは誰でも分かる。が、相手は彼だ。そうはならないだろうね」

「ではどうしますか?」

「そうだね、そうは言ったが今のところは手がかりはないから、冒険者ギルドへと向かおうか。あとはそろそろのはずだが……」


 そうアルバートが言いながら、馬を冒険者ギルドへと向けて進める。すると眼の前の十字路から数騎の馬に乗った男たちが現れるのだった。

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