052:カワードさん出立する
「仕方ない。〆、ここは諦めよう。今ある物で何とかするさ、じゃあ前回借りたのは返却する」
「〆:申し訳ございません、力ある物の異界越えは制約が多くて……」
「気にするな、元々分かっていた事だしな。そう言えば、この付喪神も神様なんだろう? じゃあ異超門を今は自由に超えられるって訳か?」
「〆:いえ、超えられるのは古廻様の許可がある場合か、異怪骨董やさんが認めた、私達クラスの神格が無いと無理にございます」
「なら安心した。いきなり向こうに道具が居たら驚くしな」
「〆:ふふ、もしそうなりそうでも大丈夫です。私が不穏な道具は排除しますし、常時、夢見姫が監視をしていますので」
天井から「カタリ」と音がする。夢見姫の挨拶なのかもしれない。
「〆:そう言えば美琴はどうですか?」
「それはもう調子がいいさ。あの巨滅兵を倒してから、益々色気が出た気がする。なあ美琴?」
恥ずかしそうに鞘の桜が色づくと、美琴は〝ふるり〟と揺れた。
「〆:それはようございました。明日も頼みますよ、美琴」
「じゃあ、またあっちでな」
「〆:はい、いってらっしゃいませ」
流は片手を上げながら異超門に消えて行く。
その姿が完全に消え失せると、〆は冷めた目で店内を見渡す。
「〆:……時に愚物共。流様がお持ちの品には因幡の『神速回復薬』や『エリク玉』もあったはずですが、あれらは良いのですか?」
『それよ、正にそれよ』
『口惜しきかな、わしらの妨害も弾き返すとは、げに口惜しや』
『大体畜生が神の一柱等と到底認めら――』
畜生と言った木彫り熊に付いた付喪神は、〆が放った黄金の閃光で跡形も無く消え去る。
「〆:何か……勘違いをしているようですが、因幡は愚物共が束になっても敵わぬ神の一柱。それに不敬を働く事は私が許さぬゆえ、発言には気を付けるがよい」
〆の「お願い」を素直に聞く付喪神達は、その存在を消したかのように沈黙する。
「〆:全く融通が利かない愚物共ですね、どうしたものか……。それに私がここを長時間離れられない事も、問題がありますね」
〆は夢見姫が居るだろう場所を見上げると、ぽつりと独り言つ。
「〆:破壊坊の力を借りてみますか……」
そう〆が言いいながら店の奥へと消えて行った。
◇◇◇
異超門を潜り、屋敷へ戻ると参が目の前で待っていたのに一瞬驚く。
「お帰りなさいませ古廻様。地下のお荷物は丁重に荷解きをしておきました」
「ありがとな、それは助かる。ファンは?」
「お寛ぎになって古廻様を待っておられます」
「じゃあ飯にするか、頼む」
「承知しました」
その後、明日の打ち合わせをしながら食事をする。
ファンは食事に大満足していたので良かったと思いながら、流れは明日の話をする。
「明日の決戦の地なんだが、どんな場所なんだ?」
「そうだな……名前の通り草原だが、大きな岩とかが多い。ちょっとした岩山もあったりしてな。そこに待ち伏せには丁度いい場所があるが、俺の予想ではそこが怪しいな」
「どんな感じなんだ?」
ファンは手持ちの用紙を懐から出すと、筆のような物で絵を描く。
「手前には人が隠れる程の大きさの岩がある。そして奥は窪地になっていて、そこを通る道がある。その窪地は岩山に囲まれている感じで、弓の狙撃とかも注意だな」
「マジかよ、弓兵とか想定外だったわ」
「まあ、その窪地自体も岩があちこちあってな、中央を通る道以外は自分も体を隠せる部分は多いかな」
「なるほどね……」
「もしそこが待ち伏せの場所なら、出入り口を塞がれてジワジワ狩るって感じになるかもしれねーな」
「俺は狩の獲物かよ」
「だろ?」
「違いない」
二人は笑いながら軽く酒を酌み交わし、更に明日の作戦を練ってから就寝する。
ファンと別れ、部屋に戻ると壱がテーブルの上に居り、それを確認した流は、おもむろに右の手のひらを前に突き出す仕草をする。
「ステータスオープン!」
「壱:キャー カッコええで~古廻はん!」
「よせ……照れるじゃないか」
美琴が〝ガクリ〟とした雰囲気を出したのを感じたが、あえて知らないふりをする流は漢であった。
「む……う?」
「壱:また意味不明な……」
――――――――――
【現在見れる健康状態】
生命力:平均的アゲアゲ ←NEW
魔 力:未開放(痛い思いしろ)
攻撃力:平均的アゲ+やばsぎ ←NEW
防御力:薄い本五冊分+妖刀の加護 ←NEW
魔法力:未開放(修行が足りん)
速度力:今すぐ! 殺られる前に殺っちまえ!←NEW
幸運値:あらすごい
――――――――――
【手帳の小言】
流、先日の巨滅兵との闘いは見事だったぞ。
だがまだまだ美琴だよりなのが甘い! 精進せよ。
次は多人数との戦となるか。
本当の意味で初の人間との命のやりとりだ。平穏な人生を『捨て去る覚悟』はいいか? 刹那の躊躇は確実に死を招く、それを肝に銘じておけ。
斬って良いのは斬られる覚悟のあるやつだけだと、黒くてエライ人が言っていたのを忘れるな?
それと、もっとこまめに手帳を確認するがよい。
だって……寂しいぢゃない?
本日のメッセージは以上となります。
ご利用、ありがとうございました。
――――――――――
【魔法】
ーー未開放ーー
【特殊能力】
観察眼(上級) 気配察知(上級)
第六感(上級) 一撃必殺(中級)←NEW
――――――――――
「何だよ『アゲアゲ』って……」
「壱:本の厚さも変わってまんな、二冊分……」
「速度も上がっている……のか? それに『痛い思いしろ』だと? 解読するだけで精神力がゴリゴリ削られる呪いの本か何かなのかこれは?」
「壱:あ、でも小言に良い事書いてまっせ」
「だな。捨て去る覚悟、か。でも何だ……」
「「寂しいのかよ!!」」
「お? 最後はまともな情報もある。『一撃必殺』が中級になってるな」
「壱:ほんまでんな~」
「何かの参考になればと開いてみたが、まぁ……覚悟は決まった、かな」
「壱:現代日本ではハードルが高い話でっけど、大丈夫でっか?」
「ああ、ジジイのお陰で『思い出せば殺伐とした人生』だったと先日思い出してな。俺の中での覚悟は、すでに出来ていたと思い知らされたよ」
「壱:そうでっか……僕らで少しでも古廻はんの力になれるように頑張りますさかい、何時でも頼っておくんなはれ」
壱の普段とは違った力のある言葉に流も嬉しくなる。
「ありがとうな。お前達が居てくれるから、俺も美琴も異世界を堪能出来ている。本当に感謝しているよ」
「壱:そんな事言われると照れまんがな~。あめちゃん食べまっか?」
〆や壱、それに参と因幡は本当に良くやってくれていると、改めて感謝しつつ明日の話に意識を戻す。
「それで奴らの行動は?」
「壱:古廻はん、やっぱり覗いてましたわ」
「だろうな、で。俺とファンは奴らに見られたな?」
「壱:それはもうばっちりと!」
「ならいい……明日は頼む、壱よ」
「壱:僕にドーンと任せといてや~」
壱の頼もしい返事を聞きながら、その日は就寝する事にする。
窓から見える星空はとても美しく、明日が決戦だとは思えない程に心が安らぐ。
――時は流の一日が終わりを終える少し前に戻る。
ここはトエトリーの歓楽街にある、とある飲み屋の大規模な地下室。そこには殺盗団の幹部と、その手下が達が居た。
「よし、報告通りガキは屋敷に居るらしい。商人の客も居るらしいが警戒されている感じはしなかった、そうだな?」
「ヘイ、間違いないです、キルトさん」
「奴らは歩きで行くと情報が入っている。岩山までゆっくり行って片道二時間って所だが、遅いほど仕事はやりやすくなる。無いとは思うが、万が一ガキが囲みから逃げ出す事もありうるしな」
「分かりやした。伝えておきやす」
「ガキには外の兵力から五十人を出す。繋ぎは明日の開門一番で向かわせろ」
「ヘイ!」
キルトは次に控えている手下に指示を出す。
「屋敷は使用人が複数居るらしいが、そこは問題無いんだな?」
「ヘイ。偵察の奴らからの話ですと、荒事が出来そうなのは、入口の寝ぼけた爺さんだけとの事でした」
「よし、では屋敷にも俺の手勢で五十だ。それと……」
商人の男を思い出す。その男はこの町でも有名な商人で、その男がターゲットと懇意にしており、さらに珍しい色の箱を幽霊屋敷へと持ち込んだとの報告もあった。
「商人の男は本日宿泊するのか?」
「そのようです」
「……すると明日、報告のあった緑色の木箱を運搬する可能性がある。そこも対処出来るように五人回せ」
「ヘイ、了解でさぁ」
「衛兵の目を誤魔化すための人員はどうなっている?」
「屋敷に踏み込む前に、三か所で火事が起こる手はずになっています。その後商人に扮した馬車五台で、方々へと散る予定です」
「火か……行動は薄暗くなってからの方が効果的か。繋ぎを出してガキ共の出発を遅らせろ」
この指示を出している男はキルトと呼ばれていた。
その正体は、トエトリーの街と外部からの接触を取り持つ、殺盗団の頭目の右腕であり、用心深いのか黒いフード付のマントを着用し、顔も外見も分かりにくかった。
「最終確認をする。ガキからは『鞄と金貨とついでに命』を。屋敷からは持てるだけの『財宝とメイド』を。商人からは『荷物と命』を。以上の三つを今回の仕事とする」
「「「ヘイ」」」
「では持ち場へと伝えて明日に備えろ、解散!」
キルトがそう告げると、盗賊達は忙しく動き出したのだった――。
――次の日の昼前。
ギルドからの使いで、カワードが出発時間を遅らせて欲しいとの連絡が来たので、二時間遅れの出発となった。
流が集合場所へ到着すると、すでにドランゴンスレーヤーの三人が西門の前で待っていた。
「オイ、遅いぞナガレ!」
「悪いなカワード。昨日呑みすぎてな」
「ナガレさん、よろしくお願いします!」
「ナガレ昼だがおはよう。今日はよろしくな」
「はいおはよ~さん。こちらこそ案内よろしくな」
挨拶をすませると、カワードはイラつくように促す。
「チッ、オラさっさと行くぞ」
「はいはい。んじゃ行こうぜ?」
姉妹二人は言葉少なげに付いて来るが、カワードは気にしていないようだった。
ナガレも特に話す事も無く、景色を見ながらボケっと歩いている。
そんな空気に耐え切れなくなったのか、レイナが流の下駄に話を振る。
「ナガレさん、えっと……その靴変わってますね?」
「んあ? あ~これね。面白いだろ? 修行中って感じでさ」
「本当だな。と言うより、よくそんな板の中心から出ている板の上に乗っているのに、転ばないのかが不思議だ」
「チッ、そんなに目立ちたいのかお前は」
「まあそんな処だ。何せ『目立った方がいいだろう?』お互いに、な?」
気楽に流がそう言うと、カワードの表情が少し硬くなった気がした。
ついに20万文字超えました!
そしてここ数日お客様が増えて来たのに加え、ブックマークと評価を頂き本当に大感謝でっす!
(੭ु ›ω‹ )੭ु⁾⁾ありがとーーーー! 凄く励みになりまっす!