528:迫る敵~大通りへ
「そうか、そうだったな。もう止められないんだな……こんな馬鹿な戦争は」
流がため息とともに、覚悟に似た言葉を吐く。それを見た東門の主将セイジュは意外そうな顔で流を覗き込む。
「んんん? スパイスを流通させ、王都の馬鹿共を結束させ、トエトリーの首脳をまとめ上げた男とは思えない言葉だな?」
「んんん? ちょっと待ってくれ、一体何の話だ? 俺はスパイスの商いを始めたが、その他のことは知らないぞ?」
流のその言葉に、エルヴィスとセイジュは顔を見合わせて「あぁ~」と納得。そしてセイジュが流に向けて話す。
「お前さんがどういう男かわかった気がするよ」
「セイジュの思った通りだと私は思うね。この男、ナガレは自分の『欲』で動いた事は覚えているが、それ意外は基本的に関心がない。よくて記号か数字として認識しているくらいじゃないのか?」
「ぬッ……失礼な」
流はそう言いながらも過去の出来事を思い出す。確かに骨董品には興味はあるが、その他のことは基本的に関心薄いことを。
「コホン、ちゃんと覚えているよ。ウン」
「怪しいものだね。それでセイジュ、この後お前に迷惑かからないか?」
「まぁかかるだろうさ。あの方がナガレの担当になっている以上、ここに来ることを見越しているかもしれない。そして俺の出身を考えれば……な?」
「そこまで切れ者がいるのか?」
「そうか、ナガレは知らないだろうが、王族でありながら実にまともな人物がいる。ただ何を考えているかが分からない、魅力とも不気味さとも言えるものがある」
その王族の事をもっと聞こうとしたタイミングで、門番長が戻ってきた。すると焦っていると言うのがよく分かる、緊張した顔で右手を大きくふっている。
「そんなに慌ててどうした?」
「兄、いやセイジュ大変だ! 向こう側で兵が集まりだしているらしい!」
「チッ……やはり気が付かれていたか。ナガレ話は終わりだ、今すぐ通用口から出てすぐの馬小屋に入り、そのまま裏の搬入口から逃げろ。ラーマンでも通れるスペースがあるから問題ない」
「わかった、ありがとうセイジュさん」
「なに、村と兄さんを助けてくれた礼だ、気にしないで行ってくれ。それとその気絶している娘はシートで隠して行った方がいい。馬小屋にあるから好きなものを持っていけ」
「わかった」
「おっと、もう一つ。今度名乗る時は偽名にしろよ? お前の名前は一部で有名だからな」
「そうだったな……わかった、それにも気をつけるよ」
「よし行け、さらわれた娘の救出を祈る」
流はセイジュに礼を言いながら頭を下げる。それに鷹揚にうなずくセイジュは、流の肩を軽く二度叩き行動を促す。
「よし、じゃあこっちだ。着いてきてくれ」
セイジュは去る二人の背中を見つめながら、今後の事を思うと口から漏れ出る。
「すまないなナガレ。利用させてもらうよ……この国はあまりにも腐りきっている。多分アルバート様はお前を利用するだろう。その隙に乗じて、国をどうにかするかもしれない……この国のために、せいぜいかき混ぜてくれよ」
そう言うと、ゆっくりとセイジュは歩き出す。やがてやって来る、アルバートの手の者に説明する内容を考えながら、「やれやれ」とつぶやく。
だが同時に、大きなうねりが来ると予感し、楽しみにもなる。
「ここの守将になって本当によかったな」
すでに山陰に隠れ見えなくなりつつある月を見て、セイジュは流が逃げ切るだろうと予測するのだった。
◇◇◇
「ありがとう門番長、新しい毛布まで用意してくれて感謝する」
「気にするな、それより早く行け。兵がここまで来ると厄介だ」
「わかった。じゃあ教えてもらった道を行くとするよ」
「おうよ! 救出の成功を祈っている。生きて戻れよ」
「ありがとう、じゃあまた!!」
流とエルヴィスは馬小屋を抜けて、まだ薄暗い裏路地を走り抜ける。
「こんな抜け道があったとは、私もしらなかったよ。っと、ここまで来れば分かる。そこを右に曲がるんだナガレ、その先から大通りに出れる」
「わかった、嵐影たのむ」
「……マ」
流たちは裏路地を抜け、大通りと呼ばれる場所へと出る。そこは通りと言うよりも広場が道になったような幅の、驚く光景が広がっていたのだった。