526:てがみの効果
アルバートが流の行動を読み指示を出していた頃、流たちは東の大門の前にたどり着く。南の正門ほどではないが、実に大きく見事な作りであり、見るものを圧倒した。
「凄いな……扉の高さだけでも二十メートルはありそうだ。どうやって開閉するんだこの扉」
「驚くのも無理はない。一見、木材で出来ているように見えるが、あれは魔法でコーティングされたダミーだ。本体は金属製で、しかも真下へと落ちる仕組みなんだぞ?」
「マジかよ!? 開門する時は楽だろうが、閉門する時は時間かかるだろう?」
「ま、そこも何代か前の王の思いつきでそうなったらしい。攻められたら即壁になるからと言ってな。そして門が上部に収納されると見た目が悪いと言う理由だったらしい」
「非効率に見えるが、そうなのか……王様ってのは凄いんだなぁ」
「ふぇぇ、馬鹿が権力持つとろくな事になりませんねぇ。あ、白ちゃんがいると面倒そうなので、一度悲恋に戻っていますねぇ」
「おいどう言う意味だコラ?」
「鏡を見るといいかも~。じゃ、壁の向こうでお会いしましょ~」
そう言うと向日葵は消え失せ、同時に白ちゃんも姿がかき消えた。どうやら召喚者の向日葵が消えると、天界へと戻る仕組みらしい。
消えた向日葵と白ちゃんに驚きながらも、嵐影とラーマンは大門へと進む。やがて大門の入り口の横にある石造りの警備室まで来ると、エルヴィスはラーマンから降りて歩き出す。
「何者だ? まだ開門まで時間がある、出直せ」
「すまない、ここの責任者はいるかな? 私はこういう者だが」
「ん? ッ!? アルマーク商会のお方でしたか、少しお待ちを!」
焦る門兵が警備室へと入り魔法で内部へと連絡を取る。すると即返事があったようで、門兵が駆け足でやって来た。
「お待たせしました! 門番長が早番でしたので、ただいまこちらへといらっしゃいます。少々お待ち下さい!」
「すまないね、わがままを聞いてもらって。これは少しだがとっておいてくれ」
エルヴィスは一枚の銀貨を門兵へと渡す、が。
「いえ、お気持ちだけで結構です! 他の門の事は分かりませんが、ここ東門ではそういった事は門番長が変わった時からやめました」
「そうだったのかい? それは失礼した、許してほしい」
「頭をお上げください。こちらこそ、そう言う仕組みで搾取していた事を恥じるばかりです。ではもうしばらくお待ちください」
そう言うと門兵はニコリと笑い足早に去っていく。その姿を見た流は王都のイメージが少しよくなった。
「驚いているのか? 私も驚いているよ。普段は東門を使わないから、まさかこんなまともな対応をされるとは思いもしなかったね」
「そうなのか? てっきり兵士はまともなのかと思ったが」
「まともな兵士もそりゃいるだろう。が、大抵は荒んでいるのさ……この王都のようにな」
「そういうものか。それよりエルヴィス、お前が嫡男だと知らせれば、もっと早く事がすすむんじゃないか?」
「それも思ったが、私が戻ったと知られれば厄介事になりかねない。だから商会証はシーラのを使わせてもらった。あいつの商会証の裏書きは〝上級〟とだけ分かるが、身分は書いていないからな」
「そういうものか……っと、来たようだぜ?」
流が軽くアゴでしゃくった先から、先程の門兵を連れて歩いて来る男が一人。
とてもいかつく、ヒゲがもみあげまでつながっているのが特徴的な、三十代前半ほどの男が右手をあげてやって来た。
「よう、あんたらがアルマーク商会のお偉いさんかい? すまないが、東門は規則通りでね。どうしても入りたきゃ、他の門へ行ってもらうしかないね」
「なるほど、やはりそうか。貴方の部下の態度を見てわかったよ。が、こっちとしてもワケありでね」
「そうだろうねぇ。わざわざこんな薄暗い時に来るんだから、そうなのだろうさ。だがダメだね、それが規則だ」
「しかたない、ナガレ例の物を」
「ああ分かった。門番長さん、これを見てはくれないかい?」
門番長は訝しげに流から手紙を受け取ると、くるりと裏を見てハっとする。
「これは兄貴のサインに違いない。ちょっと待っていてくれ。……ふむ…………なるほど……話は分かった」
「なら!」
「いやダメだね。ココは通すわけにはいかないよ、黒い髪の人」
「クッ、どうしてもかい?」
「ああ、どうしてもダメだね」
門番長はまっすぐと何かを探るように流の目を見つめる。それに気がついた流は、言葉を選び慎重に口を開くのだった。