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523:てがみの中身

「ナガレこれからどうする? 私は正面には罠があると思うが」

「罠、か。あの斥候が戻った以上、罠がどこにあっても不思議じゃないしな」


 斥候の男が童子切に斬られた事を知らない流は、当然王都へ自分たちの情報が伝わっていると考える。

 ならトエトリーから一番近い正門が一番怪しくも感じ、またここから近い門も危ないと考えていた。が、そこへ向日葵が馬鹿を罵るように話す。


「ふぇ~ぶあ~かですねぇ。大殿様の胸のポケットに何があるか、まさか忘れたんですかぁ?」

「胸――ッ! そうだった忘れていた!? エルヴィス、こいつに賭けてみようぜ」


 流は向日葵の言葉で思い出す。ここへ来る前に、盗賊同然の村の長からもらった手紙の事を。


「そうだったな、そいつがあったか。よしダメ元で行ってみよう」

「そうと決まればどっちへ行けばいいんだ? 俺様はこの世界へ来たばかりだし、向日葵の言う場所へ案内してくれや」

「まったく手間のかかる大殿様ですねぇ」

「だからこその向日葵だろう?」


 いきなりカウンターでの何気ない一言に、向日葵はむずがゆさを覚え顔を歪める。


「ぅぅ~もぅ、どうしてそう言うことをサラッと言いますかねぇ。ヘンタイ!!」

「ありがとう、最高の褒め言葉だ」

「ふぇぇぇぇ!! もう何を言っても伝わらない気がしてきたぁ」

「わ、私もそう思うぞ。うん」


 流にとって〝領域者(ヘンタイ)〟とは名誉である。つまりそのままの意味で聞いたのだが、二人にはどうやら違ったらしい。

 流はそんな二人を見て「解せん」とつぶやくと、盗賊の村からもらった手紙を懐からだす。

 月明かりと、流の妖人(あやかしびと)となった瞳で見れば文字はハッキリと浮かぶ。

 そこには村長が東門にいる弟へと書かれた内容が見える。


 ――ヒルズ、元気にやってるか? お前の守る東門の噂はいつも聞いているよ。村は相変わらずだ。盗みや恐喝で生計を立てる者も最近は増えた。だけどお前からの仕送りもあって、なんとか殺しまではしていない。少ない給金の中からの支援に、本当に感謝をしている。

 さて、今回この手紙を持ってきた人のおかげで、村は一呼吸つくことができた。それと言うのも、黒髪の旦那が村へ金貨を十枚も寄付してくれたんだ。それを使い俺が食い物を売って配るってわけだ。無論儲けは無しでな。

 そこで一つヒルズ、お前に頼みがある。旦那たちを黙って通してはくれないか? きっとこの旦那たちなら、何かを変えてくれる気がするんだ。頼むヒルズ、どうか力を貸してくれ――。


 手紙にはそう書いてあり、最後に「いつも世話になってばかりですまない」と書いてあった。

 流はそれを二度読み返し、この国の闇の深さを実感しながら王都から立ち昇る光の柱を睨む。


「村長の好意にかけよう。嵐影、進路を東へと向かってくれ」

「……マ」

「東門か。あそこは確かに良識がある門番長がいると言う話だ。よし行こうか」


 エルヴィスの言葉に全員うなずくと、そのまま足早に東門へと向かう。南の正門は遠くからでも分かるほど煌々と光が灯り、この国の正面玄関らしい贅の込められたものだ。


「門ですらアレか……。中は一体どんな風になっているんだろうな」

「…………行けば分かる」


 エルヴィスは静かにそう応えると、握る手綱に力が入る。そして東門を〝なにもトラブルがなく〟入れるようにと、両目をきつく閉じ祈るのであった。

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