521:白ちゃんの謎
昨日の分、本日二話更新!!
「美琴……すまない……」
左腕の中にいる美琴の頭をそっと撫でる。明らかに増している肉体的な存在を感じ、流は戦闘で美琴がこうなった原因をあらためて考える。
「向日葵、卵妙姫はどうなった?」
「ふぇ? 無限万華鏡の主ですか~。あの程度では死にませんよ、ただ肉体を失ったので天界で復活を待ちますがねぇ」
「そうか……卵妙姫には悪いことをした。この世界を見て回るのを、本当に楽しみにしていたのにな」
そう言うと下を向いて、嵐影の蒼い体毛が美しく風になびくのを見る。視線をそのまま固定し、もうひとりの犠牲者について重い口を開く。
「そうか。天女ちゃん……雅御前はどうなった?」
「天女ちゃんはその……正直言って分からないです。それと言うのも、あの消え方は消滅までは行かずとも、かなり存在力が消失したと思われます。なので、現在彼女の行方を探していますが、悲恋の中は姫が時空神より力を得たことで、ますます拡張してしまいました。お陰でどこまで広まったのか、現時点では不明です」
「そう、か。雅もなんとか無事であってくれ、頼む」
そう流は言うと、両目を閉じ美琴をギュッと抱きしめる。そのまま流はまぶたを閉じ、自分の弱さを嘆く。が、それを見越したように向日葵が流を煽る。
「ふぇ~? 大殿さまぁ~またまた悲劇の野郎気取りますかぁ?」
「悲劇の野郎、か。そうかもしれない、俺は弱いからな」
「ダサダサですねぇ。で、どうするですぅ? このまま逃げ帰った方がいいんじゃないですか?」
「逃げる……」
流は一瞬その言葉に惹かれる。一度体勢を立て直し、イルミスと合流後にもう一度来ればいいんだと。
「それもいいな」
「そうですかぁ。じゃあとっとと逃――」
「――だが、俺は逃げない。メリサまでもう少し。悲恋が半分以下の力しか出せなくても、俺には向日葵お前がいる。力を貸してくれ向日葵、頼む!」
流は向日葵の言葉を遮ると、ジット向日葵の瞳を見つめ、そのまま頭を下げる。いきなりの事で戸惑いながらも、向日葵は内心嬉しくもなる。
(もう馬鹿ですねぇ、ちゃんと助けますよ。本当に折れない人で良かった)
「フフン、ならば有言実行をしてもらいましょうかねぇ。王都攻略、私達でやって見せましょうか~」
「心強い。頼むぜ向日葵」
「ぅ、わ、分かってますよ! フンだ」
まっすぐ見つめ、自分に頭を下げる流に向日葵は思わず困惑する。そんな様子を白ちゃんはヤレヤレとため息を吐きながら、向日葵へと問う。
「んだよそれはよ~。つかお前もまともな人間らしいところもあるんだな? 俺様びっくり」
「うっさいですよ」
「よく分からないが、お前たちは仲がいいんだな」
「「これを見てそう思うなら、頭がどうかしている」」
「失敬な。それより白ちゃんは、なぜ白ちゃんなんだ? どう見ても黒ちゃんだろうに?」
「だろう? 俺は黒ちゃんがいいと思うんだが、向日葵が言うことを聞かねぇんだわ」
「ふぇ~? だってどう見ても白ちゃんだしぃ。大殿様見てくださいょ~白ちゃんの足の裏を」
「裏ぁ? どれどれ……ぬお!!」
流は走っている白ちゃんの足の裏を見る。すると足の蹄の裏が純白だった。それもただ白いのではない、走っている時に付着した泥すらも瞬時にかき消してしまい、ホコリ一つ無い足の裏になる。
「驚いたな。足の裏を綺麗にする神獣だったのか」
「誰がお掃除神獣だゴラ。俺様はな、穢れが嫌いなだけだっつーの」
「ふぇ~潔癖馬め~」
「馬ぁ? だれが馬だと向日葵!! やっぱテメェは一度、俺の蹄をくれてやるしかねぇなぁ?」
「むかし散々もらったのでいらないですけどぉ?」
「なら、あらためてもらっとけ!!」
白ちゃんはロデオの牛のように、前足を地面にふんばると背の向日葵を前方へと吹き飛ばす。
向日葵は「ふえええええええええ!?」と言いながら、月に照らされながら宙を吹き飛ぶのだった。