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518:白き獣?

 美琴を腕に抱き、嵐影へと騎乗する流。ちょうどエルヴィスが粘液から開放され、ねっとりとした表情で、涙目になりながら自分のラーマンへと乗ってやって来た。


「うぅ、ひどい目にあった。いったいアレは何だったのか……」

「世の中には知らないほうがいい事もあるようだぜ? それより行けそうか?」

「あぁ私は問題ない。お二人はどうされるのです?」


 エルヴィスは向日葵と三左衛門へと尋ねると、三左衛門は向日葵へと顔を向け一つ指示をだす。


「うむ、それなんじゃが向日葵。どの程度の損失ですむか?」

「ふぇ~そうですねぇ……すでに五十%のダウンは確定です。そして私が抜けることで、五%ほどかと」

「また横文字か……なれば大殿様。四割五分の力の悲恋でいけますかな?」


 唐突にそう言われ一瞬何のことかと思ったが、よく考えてみればなるほど(・・・・)と美琴と向日葵を見る。

 つまり三左衛門は護衛に向日葵を外に出した方が、悲恋の力を落としても流の役に立つと判断した。

 知ってはいたが、現実にそうなるとではわけが違う。その事にショックをうけ思わず口から思いがこぼれる。


「美琴がいないと俺はまともに戦えないのか……」

「ふぇ~私も抜けたら弱体化が酷いんですけどぉ? 私、ツヨイ、イッパイ、イッパイ」

「なぜカタコトになる。まぁいい、それじゃそれで頼むよ」

「ふぇ~酷くないですかぁ? すげぇ雑ぅ」

「雑なだけ感謝してほしいものですね」

「雑以下宣言!?」


 向日葵が右手の人差し指を立て、左足をズザリと後ろへと引きながらショックを受けているのを尻目に、流は三左衛門へと話す。


「すまない、お前たち悲恋の住人には本当に苦労をかける」

「はっはっは! なんのなんの、これしきの事など苦労のうちに入りませんわい! あれは飛騨で謀反が起こるとの情報を聞きつけ、それがしと手勢七名で討ち入――」

「ハイハイ、三左衛門様の武勇伝は長いですからまた今度~」

「ぬぅ!? まて、ここからがいい所なのじゃぞ!! せめて三好の御首を落とした所までは――」

「ハイハイ。また今度~」

「待て向日葵押すな!! 待てと言うに!! ぬぉぉぉぉ!?」


 向日葵は五芒星に印を切ると、それを三左衛門の背中に押し当て悲恋へと強制的に送る。その有無を言わせない強引さに、流石の三左衛門も「覚えておれええええええ!!」と言い残し、悲恋の中へと消えていった。


「ふぅ~やっと静かになった」

「えぇぇぇ……三左衛門が消えた……ん、待て。その方法で美琴も戻せるだろう?」

「んんん無理でしょうねぇ。ほれ」


 向日葵は同じように美琴へと術を発動。が、五芒星が美琴へと触れた瞬間、風船が割れたような音と共に五芒星が破壊された。


「と、まぁこんな感じですねぇ~」

「そうか……神気が邪魔をするんだな?」

「そうなりますねぇ。なので自然に目覚めるのを待つしか無いです。悔しいけれど」


 美琴を見つめる向日葵の瞳は力強くもあり、同時に泣きそうでもあった。それは主と仰ぐ娘だからなのかと、流は不思議な感覚で見つめるが、それを見透かされたように向日葵が口を開く。


「ふぇ~!? 汚らわしい瞳で見ないでくださいよぅ~イヤラシイ。私は姫様が大好きなだけですぅ。そう大殿様よりずっと姫様が好きなんですぅ」

「ぉ、ぉぅ。そうか、その……がんばれよ?」

「すげぇムカつくんですけどぉ」


 そんな二人を見ていたエルヴィスは、周囲が騒がしくなって来たことで危険を感じる。

 見れば先程まで気絶していた見物人や、流の謎の力に当てられて半分狂っていた人間たちも正気を取り戻しつつあった。


「ナガレ……そろそろまずい。早くここから離れよう」

「ん? あぁ本当だな、そうしようか。それじゃ向日葵は俺の後ろか、エルヴィスの後ろ乗るか?」

「セクハラですね? 抱きつかれてハァハァする趣旨が、大殿様の大殿様からドロドロ漏れています……不潔ッ!?」

「お前の妄想が不潔だよ。で、どうする?」

「ふぇ~ご心配なく。私の体は清く正しく美しくがモットー! なれば――我の求めに応じよ、白灑(・・)の神獣〝黒麒(こっき)〟!!」


 向日葵の白い陰陽服の袖から五枚の札が中を舞う。それが円を描きながら二メートルほど浮かび、そのまま回転しながら地面へと落下。

 するとまるで3Dプリンターで作ったように、上方から一体の獣が徐々に現れた。


 その姿、漆黒の馬のようだったが、ところどころに鱗が生えており、不気味と言うより美しい体だった。

 しかも顔も実に品が良く、馬と似た優しい瞳と真っ赤な角が額から一本歪に伸びている。

 やがて全体が現れると、向日葵へと向かって歩き出すのだった。

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