515:徳利の意味~美琴の現在
震える声で流は向日葵へと問う。それは目の前の最愛の娘が、今どうなるのかを。
「向日葵……美琴は……まさかこのまま……?」
「いえ、それは無いと思われます。今は神気のかけらも感じられませんし、ただ単に気絶しているだけだと思います」
それを聞いた流はほっと胸をなでおろす、が……。
「ただいつ目覚めるかは不明です」
「なんだと!? それはどういう意味だッ!!」
「ふぇ~落ち着いてくださいょ~くるしぃぃぃ」
流は向日葵の胸ぐらを思い切り掴んでゆらす。幽霊なのに向日葵も苦しいようだ。
「す、すまんつい……って、待て。お前まさか……」
「もぅ、熟成された乙女の胸ぐらは安くありませんよ? そうです、私も他の物も多分そうなるでしょう」
「つまり……お前らまで実体化しつつあると?」
それに向日葵は首をうなずくことで応える。その様子を見た流は顔を硬直させて驚いた。
「うそだろう……死者を蘇らせれるのか? しかも肉体も無しに……」
「いえ、それは多分姫様だけでしょうね。私達はそうですね……例えるなら、すっごい濃ゆい幽霊です!!」
「いや、それは元々だろう?」
「むぅぅぅ、そう言われると釈然としませんが、まぁそんな感じなところです。そこにも~っと、濃ゆくなる感じですね」
「いやなんて言うかその……鬱陶しい?」
「酷い!! まぁそんなところです」
「いいのかよ!? まぁいいや。それより美琴は本当に大丈夫なのか?」
「そうですね……正直私にも分かりません」
二人は美琴を見る。そこにはただ眠っているように動かない、いつもと変わらない美琴がいた。
流はそっとひざまずくと、美琴を抱き髪の土を払い汚れを落とす。
「すまない美琴。俺が弱いばっかりに……」
「大殿様、たしかに貴方は弱いです。姫様がこんなになったのは貴方のせいです」
『向日葵よ、それはいいすぎじゃ』
「三左衛門か……いや、向日葵の言うとおりだ。俺が弱いせいで負けたんだからな」
流は美琴を抱きしめ、一言小さく「ごめんな」と呟く。それを見た向日葵は「やれやれですね」とため息をもらし、さらに続ける。
「確かに大殿様は弱い。ですが、あの童子切よりはと言う意味です。ハッキリと申しましょうか、あの男――童子切は異常な強さです。私が今できる最大の策を講じ、大殿様の暴走一歩手前まで追い込み、それを上回った」
『向日葵の言う通りですぞ大殿。あやつは人の枠を大きく逸脱しています』
「かもしれない。が、負けは負けだ。この家業で負けは死を意味する。たまたま運が良かっただけだ」
そんな流に黙って見ていたエルヴィスが肩に手を添え静かに、だが力強く話す。
「ナガレ、先日お前から聞いた言葉をそのまま贈ろう。運も実力の内ってな……おまえは努力を怠ったことが無い事を、私はこの短い間だがよく知っている。まぐれで生き残ったワケじゃない、お前の努力あっての事だと私は思う」
「エルヴィス……」
『そうですぞ大殿。わしもそう思いますぞ。無論そこな辛辣な娘もですがな』
流は向日葵を見る。すると実に腹の立つ顔で流を見下しながら、「ふぇ~」と煽る。
「……とてもそうは見えないが?」
「心外ですね。確かに私の姫様がこうなったのは大殿様のせいです。が、もう一度いいますが、童子切は異常です。すでにお気づきでしょう? 〝あの男が全く本気を出していなかった事〟を」
「そう、だな。ああそうだ、童子切は全く本気を出していなかった。なにせ終始、右腕一本で戦っていたんだからな」
流は思い出す、童子切が右腕一本で戦っていた事を。そして鑑定眼がなぜ徳利に反応したのかを考えると、それの意味も今なら分かるのだった。
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