512:覚醒まで、アト
美琴と童子切の背後はまるで、巨大な嵐が吹き抜けたように大崩壊を起こす。建物はバラバラに吹き飛び、見るも無残な瓦礫の道が出現した。
童子切はその様子を見て、苦虫を噛み締めたような表情で美琴を睨むと、その膨大な青金色の神気に戦慄する。
それは過去一度だけ見たことがある、恐ろしい存在から漏れ出ていたものだったのだから。
「おいおい……洒落になってないねぇ。『理』とは言え、やる事が出鱈目すぎる。おい娘、どうやったらそうなる?」
「……さ……ぃ……」
「あぁん? 何を言っている?」
美琴は南国の蒼い海を思わせる涼しげな瞳で童子切を見る。が、その色とは裏腹に全てを凍てつかせる蒼で、童子切を射殺すように睨みつけた。
「流様を傷つけるのは許さないって言っているんだよ!!」
瞬間湧き上がる青と金色の神気。そこに妖力は含まれておらず、借り物の力が美琴へ異空間から流入するのがハッキリと見える。
それは美琴の背後にあの神玉が浮いており、そこから無尽蔵に力がながれこんでいるのだから。
「はぁ……はぁ……やめ……ろ、はぁ……美琴ぉ」
どう見てもまともじゃない力。それは美琴を蝕むように見え、流は美琴にそれをやめさせようとする。
だがそれを聞かず美琴はさらに力を取り込むと、童子切へと悲恋で斬りかかる。
「クソッ! 冗談じやああああないッ!!」
奇しくも刀照宮美琴の死後は〝古廻 流〟の登場により、時空神・万世の帝の手により大きく改変された。
その行動は悪鬼羅刹を打ち払い、妖魔を斬り裂き、歴代の古廻の者や他の武芸者との〝新たな記憶と経験〟により、美琴は一流の剣術を収めた事に歴史が改ざんされた。
おかげで最初の時間軸では存在しない、美琴を悪妖を払うものとして祀られた神社があるほどだが、本人は知らない。
その剣術の経験が今ハッキリと身に宿った美琴は、躊躇なく童子切へそれを使う。
「悲恋一刀流 壱の型……琴華景桜!!」
悲恋の鍔の彫金の一つが輝くと、甲高い高音が一つ響く。
その音色、琴の弦が一本美しくちぎれ切れたものであり、その瞬間音に弾かれたあらゆる影から桜の花びらが出現。
美琴を中心に半径十メートルの、石・瓦礫・木々などのあらゆる影から一斉に桜が舞い散りだす。
それが急速にかたまりだすと、悲恋に吸い込まれるように刀身に集まったと同時に、美琴は悲恋を左上から袈裟斬りに斬り下げる。
青と金色の神気が複雑にからんだ桜をまとった斬撃は、瓦礫を吹き飛ばしながら童子切へと向かう。その桜、まるで鋭利な刃そのものであり、高速で動き途中にある柱を抵抗なく切断。
その断面は鏡のごとく輝く。流や童子切と違い、繊細かつ鋭利な切れ味と威力で瓦礫を次々と音も立てずに斬り裂き進む。
「神気はおろか、業も似やがって嫌だねぇッ! 神刀流・紅時雨!!」
親指は下。つまり防御型の紅時雨を童子切は放ち防御体勢。瞬間赤い花びらが舞い散り童子切を包みこみガードする。
(ちぃ、予想外に……いや、予想以上に力強い!! 鉄壁の紅時雨が何度も破られるたぁ業腹だねぇ。が――、紅時雨が破れた瞬間斬り殺す!!)
童子切は左足を後ろへと引き、刀を納刀する姿勢へとはいる。紅時雨が美琴に破られたと同時に駆け出し、抜刀術の無響羅刹を近距離から食らわせて一気に葬るつもりだ。
そこには一切の遊びはなく、美琴がまだ完全体ではなないうちに始末する。
(やはり持たないねぇ……が、これが消えた瞬間、てめぇの終わりだよ)
徐々に真紅の花びらが、青金色の桜に斬り飛ばされやがてそれが耐えきれなくなった瞬間、童子切は刀を高速納刀。そしてそのまま抜刀術・無響羅刹を放つ!!
「いくら時空神の神気とはいえ、コイツまでは防ぎきれまいよ! 神刀流・無響羅刹――なにいッ!?」
無響羅刹を放ったと同時に美琴の元へと駆け寄り、至近距離でもう一撃放つはずだった。しかしその思惑は美琴の驚く行動により、童子切は思わず叫ぶ。
遠くにいたはずの美琴が今は目前におり、無響羅刹を驚く剣速で斬り払いながら童子切へと迫って来たのだから。
明日は更新出来ないかもしれません。
もしくは早い時間に更新するか……もです……