511:神理
「やだ!! だめえええええええええ!!」
「姫様なりませぬ!!」
三左衛門は右手を力いっぱい差し出し叫ぶ。だがそれを振り切り美琴は覚悟を決めて、悲恋より抜け出ようと立ち上がった刹那にそれは起こる。
美琴が座る上座の奥に安置されている、神玉が突如光だす。それは美琴が流と共に過去へと旅立ち、そこで時空神・万世の帝より授けられた青と金色に輝く神玉であった。
それが目も眩む青と金色の光を放ち、美琴を飲み込むとそのまま消えてしまう。次に美琴が現れたのは外、つまり――。
≪御目出度ウゴザイマス。対象・刀照宮美琴ノ、神霊化ヲ確認、シマシタ。コレニヨリ、対象・刀照宮美琴ニ、時空神・万世ノ帝、ノ、神力、ガ、一時的ニ付与、サレマス≫
美琴が外へでたと同時に告知される、多数の無機質な声。それが全方位から響き渡り、一人の娘へと祝福を告げる。
それに驚く童子切。そして視線の先にさらに驚く存在を目撃するが、あまりにも異常。あまりにも常識はずれ。あまりにも――。
「――ご同類かよッ!!」
赤く濡れた斬撃が直前に迫るも、微動だにせず動かない存在がいた。
その存在は金糸をふんだん使った、黒を基調とした最上質の加賀友禅に身を包む一人の娘がいた。
娘は〝黄金に染まった髪〟をバサリと前に垂らし、その間から蒼い目をのぞかせていた。
童子切は確信する、コイツはさっきまでの娘じゃないと。だからこそ全力でもう一撃だけ使える奥義となった斬撃を放つ。
「バケモノは、これ以上はいらないねえええええええええッ!!」
元々の赤く濡れた斬撃に超高速で迫り、さらに覆いかぶさり赤く濡れた斬撃は一つとなった。
バケモノ――美琴は目の前にある悲恋の柄を握りしめると地面から抜き放つ。瞬間、青金の半透明の力に悲恋が覆われ刃が唸りを上げて青金に光る。
美琴は赤く染まる斬撃も、背後で苦しむ流も見てはいない。ただ童子切だけを金色の髪の隙間から睨みつけ、それが今やっと動き出す。
バサリと左手で輝く黄金の髪を背後になでつけ、美琴は悲恋をダラリと右下へとさげる。
赤く濡れた斬撃がせまること、その距離残り二メートル。そのまま下げていた悲恋を斜め上に無造作に斬り揚げた瞬間、空間に金と青色の亀裂が走り赤く濡れた斬撃が斜めに斬り割かれた。
その隙間から童子切を睨む美琴と、その奥にいるボロボロの流も童子切を見る視線だけは死んでいない。
むしろ流などはさらに目に力入り、先程までの死ぬ寸前の弱さを感じられない。
「チィィィッ、ここまでとはねぇッ!!」
童子切は迫る青金の斬撃を斜め後方へと、大きく飛び退くことでギリギリ躱す。
それと同時に赤く濡れた斬撃である、真の〝朱顛鬼神斬〟は真っ二つになり、美琴を頂点に斜め後ろへと二つに分かれ飛ぶ。
まずは阿吽像が真横に真っ二つになったのを始めとし、次々と背後の建物群に赤いひびが走る。次の瞬間、背後の建物群が次々と十メートル以上浮き上がり、粉々になって勢いよく吹き飛ばされた。
さらに美琴が放った青金色の斬撃も似たような挙動をする。童子切は空間を断ち斬る青金色の斬撃を躱したが、その背後も自分が放った斬撃と似たように吹き飛び〝裂けた空間に呑まれていく〟のを見て背筋が凍りつくのだった。