507:吹き飛ぶよっぱらい
「ジジイ流・刺突術! 針孔三寸【改】!!」
妖力と魔力を練り合わせた力を込めて、童子切へと刺突術の一つ。タイムラグが少ない業を放つ。
その合計三つの刺突の先には、正面から見たら☆のように見える歪なものだった。しかもよく見れば動いているようであり、右方向へと回転し威力を底上げしているようだ。
回転が次第に早くなり、やがて螺旋状に見えだし蒼い光を引きながら童子切へと迫る。
「次から次へと面倒だねぇッ!!」
童子切は左右から迫る刺突を回避できないと判断。右ふとももを狙う最初の刺突を刀を真下へと突き刺し斬撃を防ぐ。それと同時に親指を下にして勢いよく刀を抜くと、防御型の紅時雨を発動。
瞬時に湧き上がる紅の花びらは、腰へと迫る斬撃を一点集中で受け切ると、大徳利へ迫る斬撃も同時に弾き返す。
「大徳利を狙うとは、イヤラシイ奴め――なにッ!?」
童子切が紅の花びらの向こう側にいるであろう男を睨みつけると、信じられない光景を目撃する。
太もも、大徳利と紅の花びらを集中させ確かに他の部位は確かに薄い。が、だからと言って、パワーアップしたとはいえ流の攻撃で破れる代物ではない。
大業がもう一つ当たれば崩れもしようが、通常の斬撃では不可能。そう童子切は思っていたが――。
「――何度も視れば構造解析もできる。それに雅が教えてくれらからなああああああああ!!」
流は紅時雨の不規則だが〝一つの違和感〟を感じていた。それは一定の花びらは全く動いておらず、ソレを中心に紅の花びらの厚さが決まっていた。
あまりにも膨大な花びらの中からそれを探し出すのは偶然だったが、鑑定眼と雅御前がさきほど行った紅時雨への攻撃の正体を看破。
つまり動かない紅の花びらが伝達系統のコアとなり、他の紅の花びらへと指示を出すと理解。そこで流は紅の花びらを斬るのではなく、それを束ねている司令塔になっている紅の花びらを斬ることに成功した。
これは雅が鎌を取り込まれた時に、蒼いツバメが無軌道に当たり砕け散った時に、一部のツバメが突き抜けた瞬間を目撃していたのが大きい。
そのツバメが突っ込んだ紅の花びらは、全く攻撃して来なかったのだから。
「こんな事でええええええええええ!!」
童子切は断ち切られた紅の花びらを、無理に戻そうとはせず放棄。その隙きに体勢をなんとか整え、流へと斬りかかることで紅のドームは消失。
だがそのまま刀を右手に〝逆さま〟に持ちながら、まるでナイフで闘うように刀を振り回す。
(なんだ? 童子切のやつ刀を持ち変えるひまがないほどなのか?)
流はそう思うも、今は全力で童子切を手数で追い詰める。だからこそ、刀を持ち変える前になんとか決着を急ぐ。
日本刀のような長い武器では不利なスタイルだが、童子切は扱いに困ること無く振り回す。
持ち手部分の柄をを逆さまで持つことで、当然威力は低下をしている。振り下ろす事もできず、パワーダウンはいなめない。
だが剣速は徐々にあがりはじめ、やがては流の剣に当て弾くようにまでなる。
「くッ、そんな逆に持ったままなぜそこまでやれる!?」
「そういう業だからさぁ!!」
童子切はますます斬撃を鋭くし、回転しながら鎌鼬を生み出すにまで剣速度をあげる。
それに負けじと流も剣速をあげて、さらに妖力と魔力を練り合わせて悲恋へと注ぎ込む。
ますます力がほとばしる悲恋に、さすがの童子切も徐々に押され始めたことで流は確信してしまう。
――もうすぐ倒せる――と。
「うらあああああああああああ!!」
流は童子切へ渾身の一閃を左下からすくい上げながら当てる。それに耐えきれなく童子切は能楽堂の柱をへし折りながら、背後へと吹き飛ぶ。
それと同時に流は悲恋を高速納刀し、妖力と魔力を極限にまで高めて抜刀術の姿勢にはいるのだった。