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501:妖刀のおもひで

(ここで決めなきゃ後は無い。向日葵(ひまわり)の策にまんまと乗せられたのは(しゃく)だが、確実にパワーアップしたのは確かだ)


 向日葵が思いついた策とは、流の「底」を今できる範囲で最大限に覚醒させることだった。

 流が暴走した当初、実は悲恋の中では混乱するほどの騒ぎになっており、三左衛門ですらその状況のまずさに焦りを覚える。

 

「三左衛門様、このままでは大殿が狂われますぞ」

「越後屋、商人(あきんど)其方(そのほう)ですら焦るか」

「ええそりゃぁ。大殿にはまだまだ稼いでもらわねば困りますゆえな」

「だが我らがここから出来ることなどたかが知れている。わし等が飛び出そうものなら、悲恋はさらに力を失い童子切に負ける。だというのに、姫様は飛び出して行きよるし困ったものよ。どうしたらよいか……」

「どうもこうもありませぬ」


 三左衛門が両目を固く閉じ思案をする。そこにマジメな声(・・・・・)で一人の娘の声が広間の入り口から聞こえた。その(りん)とした声からはいつのも寝ぼけたいい加減さは感じられない。


「向日葵か。何か妙案でもありそうだが……策を示せ」

「はい三左衛門様。まず姫様には〝死んで〟もらいます」

「なに? それはどういう事じゃ?」

「この状態の大殿様にもはや言葉が通じるとは思えませぬ。なれば最大のショック療法をと」

「……気に食わぬな。姫様を(にえ)にせよともうすか?」

「それは私もです。ですがこの状況、我らがいかようにしようとも動きますまい」


 その言葉に広間に集まっている面々は深く頷く。唯一、異世界で加わった新参の盗賊のみ、「ざまぁみろ」と小声でつぶやいた刹那、隣の武士風の男に殴り倒されて庭へと吹き飛ぶ。

 やれやれとそれを見ながら、三左衛門は向日葵へと先を促す。


「それで本気で姫様を滅するわけではあるまい」

「ええそれは当然ですとも。姫様がおられなければ、悲恋城(ここ)おろか外もその余波に巻き込まれて大惨事になるでしょうから。ですから大殿には姫様の偽物を斬ってもらいます」

「偽物とな? しかし準備が……ほぉ……」


 三左衛門が向日葵に準備不足を指摘するも、盗賊の男が吹き飛んだ入り口から一人の娘が姿を表す。

 それは全員よく知る娘であり、この世界の主でもある美琴であった。


「こんなこともあろうかと、イルミスとの出会いより姫様の複製を作っておりました。見た目は姫様そのもの。多少の言動も姫様の御霊(みたま)を解析し、限りなく本物とにせてあります」

「よくそこまで似せれたものよ」

「そりゃぁ、私は姫様を愛していますからね。大殿なんかよりずっと!!」

「ぉ、ぉぅ。わしらの頃も恋愛や性には奔放(ほんぽう)であったが、近頃ではそれがおおっぴらになったようじゃからな。まぁ思うだけは自由だ、好きにせい。それで殿が止まるまでは理解したが、その後はどうなる?」


 向日葵は秘めた思いを少しだけ(・・・・)みせた後、咳を一つし「良い質問です」と右人差し指を立てる。


「三左衛門様のおっしゃる通り、また暴走する可能性が高いです。あの童子切に煽られてね。そこでそれを逆手にとって利用します」

「利用とな?」

「ええ、現在の大殿の力……お感じだとは思いますが、完全に妖人(あやかしびと)以上の力を持っています。しかも多種の力を暴走させ、斬撃まであのありさま。なればそれを自由に引き出せるようになる可能性はあります」

「ふむ、つまりもう一度正気に戻らせて、その後また暴走させることにより力を発揮できる感覚を刷り込もうと?」

「左様です。そのためには姫様を大殿が斬ったと言う事実が最大のショックとなり、理性に空白が生まれる」

「そこへ童子切が大殿を煽るというわけだな?」

「はい。そして二度目の暴走で自我が崩壊直前に、ダミーと入れ替わった姫様が現れ大殿を止める。このプランが最適かと」

「……気に食わぬな」

「そうでしょうか。私には最悪の状況を利用し、最高のタイミングで大殿の強化が狙えると思えますが」

「ああ気に食わん。数百年ここで生活し、現代の時代劇を楽しみ、ギャンブルを嗜む……が、わしは未だに横文字が気に食わん!! だが……いいだろう。やれ向日葵! 大殿様をお救いするのじゃ!!」


 三左衛門の号令で全員が立ち上がる。あの童子切に違和感なく入れ替えるには、相応の偽装と不自然さが無いようにしなければならない。

 だからこそ、悲恋の中にいる住人が総出で向日葵の策に協力するのであった。


(なるほどねぇ……一気に状況を見せてくれてありがとうよ。だが向日葵……テメェはお仕置き確定だ!)


 流の脳裏に悲恋からながれこむ映像。それは先程の内容がその場にいるように感じられるほどにリアルなものであり、自分がこれからどう〝力を使えばいいか〟のヒントになりえたのだった。

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