表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/539

004:妖刀なのかモノノ怪か、そこが悩みだ

 ――古廻流はこの瞬間を一生忘れないだろう。そう言う出会いだった。陳腐な言い方をすれば『運命』と言うべき物との邂逅であり、もう一瞬たりとも目が離せない――。


 それは新月の夜を纏ったような、会津塗りの漆を使用した黒色を基調に置き、色あでやかな桜が品よく散り、優美な蒔絵が施された鞘に納刀された刀が静かに佇んでいた。


 さらに目線をずらした瞬間、その芸術的な物に目を奪われる――。


 柄は青葉を思わせるような艶やかな糸で織り込まれており、(つば)は桜の花が模られたデザインが異なる物が十個、円状に対面に彫刻され、素材は黄金と漆黒の金属が絶妙に絡み合い、妙な妖艶さがあった。


 流は突如現れた至高の一振りに、文字通り魂を鷲掴みにされる。

 それが刀、つまり「無機質の塊」だと頭では理解しているのに、何故かそれが一人の儚げな娘に見えた。

 その娘の、あまりの――芸術的と言うありきたりな表現が最初に思いつく。


 が、それ以上考える事を放棄して()に魅入る流は、息を呑み込む事数分がたったかのように感じた頃、やっとの事で一言振り絞るように口を開く。



「……因みに、このホンモノ(・・・・)の妖刀の由来を聞いても?」

「〆:最初に申したとは言え……うふふ、よく妖刀が本物だとお分かりになりましたね。え~っと、江戸中期頃に高名な刀匠おりまして、その刀匠は鍛刀地には女人禁制は無論、仕上げた刀を女人に見せる事もしなかったそうです」


 当時の刀匠の事を思うと、その行動も分かる流は一つ頷き黙って聞き入る。


「〆:ところが何を思ったか、その刀匠は女人の体の神秘にのみ刀を昇華し、至高の一振りに出来る事を突き止めたらしいのです。現在は失伝したため製法は不明ですが、その製法を、自分の娘に一子相伝した結果が功を成しました。そして出来たのがこの刀と言う訳です」


 そう〆は淡々と説明を終えると、折紙の両手を広げ朗々と宣言する。


「〆:とても明快で分かりやすい説明でしたね。ささ、どうぞこの『悲恋美琴』お持ちください♪」

「そこにその物騒な名前の由来が無いのだが?」

「〆:チッ、そのまま納得して持っていけばいいものを」

「納得できるか!! って言うか舌打ちするな」


 すると本当に面倒くさそうに、渋々続きを〆は話し始める。


「〆:はぁ~、我儘なお人ですね。乙女の秘密を探るとは下種の極み、されど古廻様はその類の方とお見受けし、少々長くなるのでメモ形態でお話します」

「チョット待てい! さり気無く俺をディスるんじゃあない」


 そんな流の訴えを無かったかのように、〆はメモ用紙に戻り淡々と語り始める。


「〆:刀匠の娘は『美琴』と言いました。名は体を表すと言うように、美琴は象牙をふんだんに使用した美しい琴を思わせるような透き通る白い肌と、聞けば荒ぶった心までが鎮まるような美声。そして最上質の絹のような手触りの黒髪だったと言います。そんな美琴は幼子なのに大層美しい少女でした」


「スルーかよ……」


「〆:その美琴が不運と言うのも憚られる、地獄へ追い落とされたのは美琴が八歳の頃でした。美琴の父である刀匠は、これまでの弟子を全て破門した後、美琴を鍛冶場へ入れ昼夜問わず倒れるまで秘儀を叩き込んだのです」


 現代では考えられない、虐待と言うのも烏滸がましい話に顔をしかめながらも、流は黙って〆の話を聞き続ける。


「そして時は流れ、美琴は十七歳になりました……。実に九年もの歳月を鍛冶場の中だけで生活をした美琴は、外部との接触を一切断たれました。美琴は薄暗い鍛冶場の格子窓から見える、外の景色に強く憧れたと言います。特に小雨の中、一つの傘を二人で仲睦まじく使い歩く若い男女を見て、その羨ましさに血涙を流しながら刀を打ち続けたといいます」


 ここまで話すと悲しそうに、〆は眼を伏せるような雰囲気で一端間を置く。


「そこまでして打つとは壮絶すぎるな……」

「〆:やがてその時は来ました。美琴は早くこの地獄から解放されたいがため、その命を削り刀を仕上げたのです。結果、その命の叫び『九年の怨念の結晶』とも言える刀をついに完成させたのです」


 流は思う、妖刀と言うのはここまでしないと出来ない物なのかと。


「しかしその完成間際、刀身へ最後の一打ちをした刹那、美琴は盛大に吐血し、あれほど美しかった黒髪が白絹の如き色彩になったのを見て、自分のその命が残り僅かと悟ります。そして散り際に血文字で刀自体に『悲恋』と命名を行い、さらに刀身に傘を書き、傘下の片方に銘として『みこと』と書いて散り果てたそうです……。その結果完成したのが、妖刀――悲恋美琴です」


 そう悲しそうに話し終わると、〆は沈んだ雰囲気を払拭するかの如く、ひな人形に折りたたまり話し始める。


「〆:恋に恋した少女の素敵なお話ですね。全女子が感動に魂をふるわせる、ハートフルな逸話でした♪」 

「そこの何処にハートフルな要素があるんだ? 言ってみろ!」

「〆:因みに父である刀匠がその刀を持ち、試し切りをした直後に七日七晩大発狂し、最後は盛大に吐血して亡くなったと伝わっています」

「なんだそれ!? 怖すぎだろう!!」

「さあ、お持ちください! 希代の女性刀匠による最後にして、日本の歴史上稀な希少性と、最()にして最高の強度と切れ味を誇る、幻の名刀→妖刀・悲恋美琴を!!!!」


 〆は実にいい笑顔のような声で、別のメモ持ちながら宣言する。

 さらにメモには悲恋美琴向けて矢印を描き、流へとアピールする。


「そんな物騒な刀! い! る! かああああああああああああああ!! アホカー!! そんなの持ったら呪い死ぬわ!! 大体、名刀の後にさらっと妖刀って書き加えるな! それに強が『狂』になってるぞ!? それにどこがハートフルなんだ!? ただの呪いの刀じゃねーかよ!! 大事な事だからもう一度言わせていただきます。アホカー!!」


 それはもう全力で拒否をした、妖刀・ダメ・絶対! と言う勢いでこれでもかと、魂の叫びを吐きつくす。


「〆:ああぁぁ!! ダメですよ! その子に呪われると言っては!」

「な、なんでだよ?」

「〆:だって……ほら……」


 流は刀を見ると、若い娘の聞くだけで呪われるような、不気味なすすり泣く声が聞こえて来た。

 しかもなぜか鞘から液体が、ポタリポタリとしたたり落ちている。


「ヒッィィ!?」

「〆:ほらぁ! どうするんですか、ああなったら百年泣き止みませんよ!?」

「ど、ど、ど、どうすればいいんだ~?」

「〆:激安の殿堂みたいな言い方はやめてください! 早く悲恋美琴を手に取り、誠心誠意謝るのです!!」

「うぅ……よし、まずは触れないであやまろう。美琴様ごめんなさい! 迷わず成仏してね! アーメン! なんまいだぶ! 悪魔よ去れ!」

「〆:それ、謝ってませんよ!? ほら、ますます酷く泣き始めたじゃないですか!!」

「うぅぅ、俺ここで死んじゃう? え、ええいままよ!!!!!!」


 流は覚悟を決めて妖刀・悲恋美琴を手にし、心の中で誠心誠意謝った。それはもう土下座すら生温い気持ちで謝った。

 さらにはそれでも足りないと、実際に五体投地と言う「うつ伏せになったまま、床に体を投げ出す格好」で、魂の底から謝罪する。

 

 すると今まで泣いていた刀は嘘のように静かになり、涙と思われる液体は固形物となっていた。


「こ……これで良いのか?」

「〆:ふぅ~。なんとかなりましたね。それよりも無事に妖刀・悲恋美琴の入手おめでとうございます!」

「は? いや、〆が持てと言うから持っただけですが?」

「〆:過程はどうあれ、結果的に主と認められたようですね。もし美琴が拒否したら狂い死にしていたでしょうし」

「おまえはなんつー恐ろしい事をさらっと……って! またお前にハメめられたのか!?」

「〆:失礼な。古廻様なら出来ると信じていたからの事ですよ、正に信頼の証ですね。それと、なんとか無事に生還出来たので、特別報酬が発生しました。報酬は『異世界言語理解』です。触れて了承すれば即、力が反映されます」


 どうやら命の危機だったらしい流は、知らないうちに新たな報酬を手に入れていたようだ。


「お前はブラック企業の社長か? って言うか、お前『なんとか』ってやっぱり信じて無かったんだな! 大体いらないぞ、こんな呪――コホン。妖刀なんて! 返品を要求する!」

「〆:当社の規定により、クーリング・オフはお客様が手に取った瞬間から、返品不可となっておりますのでご了承ください☆」

「し、信じられねぇ……。消費者庁へ訴えてやるッ! 出発前に命の危機にあっていた事実にぶっ倒れそうなほど疲れたよ……帰っていい?」

「〆:まぁまぁ。おかげで軍資金も出来、さらに異世界言語も得られましたよ、ほら? すーぱーらっきーって感じしません?」

「しませんね! ええ全く持って!? たくっ……さて異界言語理解とやらはこの巻物っぽいやつか?」

「〆:はい。それを手に持ち、頭の中に出る選択肢を了承すれば完了です」

「どれどれ、こうか? おお! これは凄いな」


 流は頭の中に浮かぶ、まるで「ゲームのステータスウインドのような光景」に興奮しながらも了承を選ぶ。


「……別に何ともないが、成功したのか?」

「〆:はい、特に何も変わった事は無いと思います、実感は向こう側へ言って書物を見れば分かると思います」

「なるほどね。了解した」

「〆:ではこちらへ……」


 フワリと〆が浮かび上がると、悲恋美琴の傍まで行く。すると先ほどの涙が落ちた所をよく見ると真珠となって床一面にばら撒かれていた。

 その一粒を手に取り、流はまじまじと見つめて唸る。


「〆:これで活動資金にはなると思いますよ。あちらでも真珠は高価なはずですからね」

「かなりの良品だなこれは。深みと言い艶と言い申し分ない一品だ。呪われているとか言ってごめんな、美琴」


 すると美琴が嬉しそうに震えた感じがした。

 

「うぉッ震えた!? ……キモい。ん、それに湿っぽくなってきたぞ?」

「〆:もう! そう言う事を言うとまた泣いちゃいますよ?」

「あぁごめんごめん、慣れなくてつい、な?」

「〆:もう、美琴を泣かせないでくださいましよ?」

「分かっているって。じゃあ行って来る。行くぞ美琴!」


 流は真珠と近くにあった品を適当に袋へ詰め、悲恋美琴を片手に持ち障子戸の前に立つ。


「〆:行ってらっしゃいませ、鍵は無くさないように細心の注意を払ってください。無くすとここへ戻れなくなりますからね」

「分かった! では、開錠!」


 ●を押す。するといつの間にか治っていた障子がまたも〝ぷすっ〟と穴が開いたと同時に障子戸が開く。

 今度は少量の光が溢れただけで、即外へと繋がった。


 その様子を見ている〆は、内心はとても揺れていた。

 そして「あの日」から封印されたまま、開く事が無かった障子戸の向こうを見つめ、流の背を優しく見守る。

 

(〆:本当にまた開く日が来るとは……。流様(・・)行ってらっしゃいませ。そして美琴を頼みます、彼女は私の大事な友人ですからね。それと兄もよろしくお願いします)


 〆は流が消えて障子戸が閉まってもなお、その場所を見続けた。

 過去を思い出すように静かに、ずっと……。



◇◇◇



「あらためて見ると凄く広い所だな……ここはやはり崖の上なのか?」


 流が景色に見とれていると、背後から何かが落ちた音がしたので振り返ると、障子戸は無くなっていた。

 障子戸があった場所には、登山用に使えるリュック状の革製で出来た物と、固形燃料等の器具やレトルト食品が入った箱が置いてある。


「〆の奴、なんだかんだとサポートは万全だな」


 ふと、右手の重みを思い出し美琴を見ると、桜がほんのり赤くなった気がした。

 送られた荷物から無駄に豪華な帯剣用の腰帯を巻き、早速美琴を腰に佩ぐ。

 逸る気持ちから荷を適当に持ってきた流は、真珠やちょっとした行商が出来る物や食料を、〆が送ってきた質の良い黒皮のリュックに詰め込み準備を完了させる。


 準備が完了した流れは、荷物にあった双眼鏡で景色をもう一度よく見る。すると遠くに町のような建物群が見えた。


「よし! まずはあそこへ行ってみようぜ美琴!」


 美琴は流に答えるように、優し気に揺れるのだった。


本作の要である妖刀がやっと出てきました。

これから妖刀で大暴れする、流の活躍に期待される方の応援お待ちしてまっす!


面白かったらブックマークと、広告の下にある評価をポチポチ押して頂いたら、作者はこうなります→✧*。٩(ˊᗜˋ*)و✧*。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ここまで読んでみて―― キャラの感情が、生き生きしてて、素晴らしいです。 [一言] 各話のタイトルに、数字入れるの面倒臭く無いですか?
[良い点] ワクワクしますね…! [気になる点] なんか同じ文章繰り返してる?? [一言] 他に見ないアプローチなので楽しみです!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ