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498:噛み砕く獣

「嘘だろう……美琴……そんな……俺、俺が……」

「ナガレ……」


 震える手で美琴の頭を触る。とても冷たくなっており、まるで氷のような肌触りだ。その冷たさを感じたことで、さらに震えて涙が頬をつたう。

 ぽたりと涙が美琴の頬に落ちる。するとそのまま凍りつき、さらに冷気が増したかと思うと、美琴の死体がますます凍りつき最後は砕け散ってしまった。


「あ……あ……あぁ……そんな……」


 左手を砕け散り粉々になった美琴だったものに手を伸ばす。その一つをそっと手に取り流は嗚咽(おえつ)を漏らす。そのとても苦しそうな様子を童子切はジッと見つめ、一言話し始める。


「はぁ~。せっかく楽しくなってきたと言うのに、そんなくだらない娘(・・・・・・)に水をさされるとはねぇ。こんな事なら俺がさっき、とっとと殺しておきゃぁよかったかねぇ」

「…………れ……」


 流が何かをつぶやく。だが少し離れた場所にいる童子切にはそれが聞こえない。


「はぁ? 男たるもの、声は大きくいこうぜ? それにいい加減そのまま腑抜(ふぬ)けているなら、もう仕舞だ。興醒めもいいところだねぇ。本当にくだらない糞のような娘だっ――」

「――黙れと言っているのが聞こえないのかああああああ!!!!!!!!」


 流は童子切の発言を大声で遮ると、邪気の無い妖気を爆発させ――。


「ぐああああああッ!? ナ、ナガレ!!」


 さらに混在する様々な力の数々。それが歪に混ざり込み流の力を大増幅させる。エルヴィスは先程の駒那美との会話でそれが何かを理解した。


「――ッ!? これが混合された力だと言うのか? 何という恐ろしくも美しく。甘美なお姿(・・・・・)だろうか……ッ!? だ、だめだ呑まれるな!!」


 エルヴィスは腰に刺した短刀を抜き放つ。そのまま躊躇(ちゅうちょ)なく自身の左腕を突き刺し、痛みにより正気を保つ。

 この至近距離、そこまでしないと耐性がついたエルヴィスですらこの有様。だから周りなどは狂える咆哮(ほうこう)をあげ、狂信者と言われても不思議じゃない群衆になっていた。


『『『ウオオオオオオオオオオオオオ!!』』』

「ここまでか!? ッ――おい! ナガレ! しっかりしろ!! ミコトさんが命がけで戻したお前の意識、ここでまた怒りにまかせて暴走させてもいいのか!?」


 エルヴィスの言葉を理解したのか、苦しむように左手で頭をおさえ、右手の悲恋で童子切を威嚇(いかく)する。

 その姿を見た童子切は、檻に入った猛獣を見るように憐れむ瞳で流を見つめた。


「やれやれ。娘を使った挑発(・・・・・・・)は間違いなかったようだが、その後に自我がまだ残っているとはねぇ。いっそ獣になった古廻と、最後まで楽しみたかったねぇ」

「キサマッ! ナガレがこうなると知って挑発したのか!?」

「ん~? あぁ。アルマークの()せがれかい。そうさね、戦いは楽しんでなんぼだろうさ。それも最高の状況、最高の舞台でこそが華だろうさね?」

「戦闘狂めが!!」

「何よりのお褒めの言葉として受け取ろうじゃないかい。さてさて、中途半端な猛獣はどうなるかねぇ」


 流は苦しそうに唸る。だが美琴の破片を口に持っていきそれを噛み砕く。その瞬間だった、バケモノと化した流は血涙を落とし、悲恋を左斜め後ろに構えながら水面の童子切へと爆走。

 そのまま足に強大な力を込め、水面を童子切がしたように走り出す。


「やるじゃないか!! こいつぁまだまだ楽しめそうだ!!」

「グガアアアアアアアアアアッ!!」


 暴走した流を止めることが出来るのは、もはや誰もいない。地上ならエルヴィスが命がけで突っ込んで止めれたかもしれないが、ここは水上。

 エルヴィスも声を張り上げることしかできず、流の無事を祈ることしかできないのだった。

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