490:最後の抵抗
童子切まで群となった流がせまるまで残り三メートル。童子切は残された右目を開き、左手の徳利から酒を飲む。
さらに迫ること残り二メートル。右手を刀の柄に乗せて淀んだ赤黒い神気を込める。のこり童子切が持つ刀と同じ長さになった瞬間――
「――神刀流 無響羅刹!!」
童子切の持つ手が消え去る。いや、消えたように見えるほど高速で抜刀した。〝シャリン……〟と、金属の輪同士がぶつかり合うような軽い音。
「「「童子切いいいい――――――!! ――――――!?」」」
分身している流たちは目撃してしまう。童子切の近くにいる分身体がチリになり、粉々に消えていくさまを。
さらに驚いた事がおこる。金属の輪同士がぶつかったような音の後、すべての音が消失。だが童子切が振るっているであろう剣閃の音だけが響き、次々と流が斬り殺される。
その苦痛に童子切へと叫ぶ流だったが、その声が途絶えたことで自分の回りの音ばかりか、色までもが死んでいる事に気がつく。
(なんだ!? なぜ俺の声が消えた? クソっ、こんなはずではッ!!)
声だけじゃなく自分が振るっている力も後が続かない。そう、今ある分体のみしか無限万華鏡からコピー出来ず、その万華鏡の鏡が徐々に崩壊していた。
音だけじゃなく無限万華鏡に憑いている付喪神、〝卯妙姫〟の苦しげな声だけが頭に直接響くことで流は焦る。
(流よ聞いておくれ。どうやら貴方のごちそうを食べきる前に、妾はこの男の攻撃を耐えれそうにない。妾は多分死ぬだろう……)
(卵妙姫なにを言っている! 馬鹿なこと言うな!)
(あの男の業、無響羅刹というたか? あれは無限に作り出すこの世界を止める力があるようだな。おかげで流の分身体が作れぬわ)
(まて、だからと言ってまだ負けたわけじゃない!)
流はそう言うが、その内情は現状どうしようもない事を知っていた。それが分かる卵妙姫はクスリと笑うと、流を諭すように話す。
(知っているだろう? お前は妾に供物を捧げいる間はまともに動けん。使える業も無く、敵が瀕死になっている事を条件に、数で押しつぶすのが今回の契約だ。だが補充が出来ないこの状況ではな)
(分かっている! 分かってはいるがッ!!)
(久しぶりの外界に慢心しておったゆえ仕方なきことよ。こんな事なら平時に流の苦痛を味おうてよけば良かった。まぁ今更だがな……化け狐に伝えておくれ、約束は果たしたと)
(何を!? おい! 待て! 早まるな!!)
卵妙姫はそう言うと、流の本体が持つ巻物――無限万華鏡の筒から抜け出て実体化する。その直後、童子切が流の分身体を全て排除し本体である流の元へと姿を見せた。それと同時に音が戻り、世界に色が戻ってくる。
童子切はそれを見て、「やれやれだねぇ」とつぶやき歩いてくる。
「あんたがこの恐ろしい空間を作った張本人かい?」
「そうさ。妾が構築した美しき世界……よくもまぁ剣の業だけで壊せたものだ」
そう卵妙姫がいった瞬間、万華鏡の世界は粉々に崩壊し元の壊れた建物の中に戻る。それを苦々しく見る流だったが、力が未だ戻るのにあと少し。
童子切はその様子を見て「健気だねぇ」と卵妙姫に話す。
「健気にもなるさ。あんたも知っているだろう? あの女狐」
「〆かい? ありゃぁいい女だが、恐ろしいからねぇ」
「仕事をしくじり殺されるか、貴様に殺されるかだろう? ならどのみち死ぬなら、その後の平穏を求めて何が悪いのさ?」
「あぁ~違いないねぇ」
死した後、あの〆なら神界まで追ってきて何をするか分からない。それを思えばゾっとする童子切だかこそ、目の前の血反吐を口から垂らしながら睨む和装の女に同情する。
その和装の女、卵妙姫の胸には童子切の刀が深々と突き刺さり、そのまま七色に光る鉱物で固まって抜けないようになっていた。
「卵妙姫!! 馬鹿野郎!!」
「嫌だね、妾は女だよ。野郎と言わないでくれないか? ――ゴッフォッ」
「命を賭けたその刹那。俺は嫌いじゃないねぇ……どのみちコレを抜くには手間がかかる。さて流、この女が作り出した金貨より貴重な時間を無駄にするんじゃねぇぜ?」
そういうと童子切は刀から手を離し、徳利をあおり呑む。無限万華鏡の力から開放された童子切は、初めて食べた味のように心からの声を叫ぶ。
「かぁ~うめぇ!! 味覚を殺されてたとは言え、旨さがしみるねぇ~これは新しい感覚だ。感謝するぜ女」
「それは結構。妾もキサマの役にたてて嬉しいよ……。さて流よ時間だ、もう大丈夫だな?」
卵妙姫は最後の力を使い、背後の流へと肩越しに見つめる。それに一つ頷き「重ねて感謝する」と言い頭を下げると、苦痛と極度な倦怠感から開放された体の感覚が戻ってくるのを感じるのだった。
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