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048:招かれざる者

 流は風呂で汗を流し三階へ戻ると、そこには大きなモニターのような物が正面に置かれている。

 このモニターのような物は、こっちの世界で仕入れた絵を拡大表示する魔具を、参が自前の式神と術式を使い、モニターのように改造した物だった。

 現在は屋敷の外を映しており、向かいの建物の影からこちらを伺う賊の姿がハッキリと見えるのがなんとも滑稽で笑える。

 

 それを食事をしながらゆったりと、今後の計画書を見ながら鑑賞をする事とする。


「本日メインは、異世界産の舌平目に近い味の岩魚のムニエルと、その後は赤色鳥の燻製の良いのが手に入りましたので、そちらのソテーを合わせてお楽しみください」


 一口食べると、流の目が〝クワッ〟と見開く。


「ふむ……シェフを呼んでくれたまえ」


 メイドが厨房へ赴き、まもなくしてシェフが入室する。


「旦那様お呼びでしょうか?」

「実に……いい仕事だ。シェフの熱い拘りを感じるこのソース。そして燻製された香を素材に合う様に実によくマイルドに抑えつつ、肉本来の旨味が凝縮されたこの鶏肉を合わせたのは妙技とも言えよう。見事だ! 私専属のシェフに任命する」

「ハッ、ありがたき幸せ」


(なぁ、シ~ンちゃん。僕ら何時までこれに付き合わないかんの?)

(フム。飽きるまで、じゃないでしょうか……)

((…………))


 元々流の専属シェフを、さらに専属認定した悪者ロールプレイに、壱と参がちょい引きながら見守っていると、賊に動きが出る。

 どうやら五人で屋敷に侵入するようだった。


「フム。古廻様、お食事中失礼致します。賊に動きがあったようです」

「クックック、ついに来たか。モニターを回せ!」


(目の前に大きいのがあるんやけど……)

(……それは言わない約束かと)


 流はおもむろに「リー〇ルのブラックシリーズ」のワイングラスに、スパイシーな赤ワインを三分の一程を入れた物を片手に持って、一際豪華な黒い革張りの椅子へと座る。

 無論膝の上には猫が……居なかったので、代わりのモフモフを乗せている所が抜かりが無い。


「あの~お客人? なぜボクを膝の上に乗せて撫でながらワインを飲んでいるのです?」


 見ると猫の代わりに、因幡が膝上サイズになっており、どこかの垂れてる「ぬいぐるみ」のような恰好で乗っかっていた。


「そこはニャ~、もしくはゴロゴロと喉を鳴らすんだぞ?」

「良く分からないけど分ったのです。にゃ~」


 ウサギなのに猫の声を出す因幡に、愕然と見守るメイド達。


(因幡……おまえっちゅう奴はウサギのプライドが無いんかい!?)

(フム。にゃ~ってあんた……)


 そうこうしていると、賊は壁を乗り越え窓際に到着する。

 仕草は素人丸出しだが、斥候として使い捨てならばこんなものかと思いながら、全員画面を見守る。



◇◇◇



「おい、窓の向こうにメイド達が荷物を運んでいるぞ……」

「あれは……マジかよ。透明なガラス? 製品を運んでいるぞ」

「それだけじゃねぇ、見ろよ。見た事もない綺麗な柄の大きな壺もある」

「待て、それにあれは……金か!? 全部金貨かあれは……」


 メイドが二階へ運んでいた物は、賊から見たら財宝の類であった。


「今すぐ奪いてえ……」

「まてまて、今日は下見だけだ、が……」


 そんな時だった、近くの窓が開け放たれて中の声が聞こえて来る。


「空気の入れ替えはこまめになさい。それでは貴重品は全て、二階と三階へ移動が終わりましたら報告を」

「はい、承知しましたセバス様。大量の金貨は如何しましょう?」

「そちらは旦那様が常にお持ちになるとの事でしたので、この都市で入手した魔具の鞄に入れておきなさい」

「承知しました」


 魔具の鞄――説明するまでも無く、この鞄は見た目の数倍は余裕で物が入る鞄である。

 それは容量が小さくてもとても高額で取引される夢アイテムだった。


「聞いたか? 魔具の鞄アイテムバッグまであるそうだぜ?」

「とんでもねぇ野郎だな、ますますぶっ殺したくなってきた」

「そう、はやるな。それにせっかくのお誘いだ」


 偵察隊のまとめ役が親指で開いた窓を指す。

 セバス達使用人は全員上階へと行ったのか、姿が見えない。


「誰も居ない今がチャンスだろ? 少しばかり頂いて行くぞ。見張りに二人、後は付いて来い」


 賊は窓を超えて屋敷に侵入する。


 すると奥の部屋が異様に明るいのを確認する。

 賊は好奇心に駆られ近づくと、そこには溢れんばかりの金塊の山が三つあった。


「すっげぇ……」

「並みの金持ちってレベルじゃねーぞ……」

「お、お前ら正気に戻れ。まずは俺達の分で五本確保して、アジトに一本持って行くぞ。これを見ればキルトさんも信じるだろう」


 偵察部隊は金のインゴッドを六本確保すると、暗闇に紛れて逃走するのだった。


◇◇◇ 


「エクセレ~ンテ!」

「にゃ~」


 そう流は言うと因幡を一撫でし、グラスを「ガーゴイルの彫刻が天板を持つ」デザインの、ワインテーブルに置く。

 そしてよく通る乾いた音で、大きく三回拍手するのだった。


「参、壱。良くやってくれた。クックック……。これであの『偽物』が奴らのアジトにたどり着くだろう。その後、偽装金塊はどうなる?」

「フム。属性が悪そのものですので、盗人に相応しい精神洗脳汚染の後、この街にあるであろう複数の拠点へと向かわせます」

「壱:相変わらずお前はえげつないのぅ。それで拠点を……って訳かい」

「随分と――お楽しみのようですね。因幡が居ないので探してみれば、まさかの異世界へ行って居たとは……」

「ゴロゴロ」


 そう声が後ろからする。振り向くと〝むにょ〟っとした感覚に襲われる。


(出おったで! あの女狐が!! 古廻はんどう出るんや!?)

(こ……これは。フム。古廻様の大ピンチでは!?)


「もう! こんな楽しい事を私を置き去りにしてするなんてズルいです、私も仲間に入れてくださいましな♪」


 そう言いながら〆は流の頭へ抱き着く。


「フガガガガ」

「にゃ~」

「あ! これは失礼をしました」

「お、お前は何度同じ事すれば気が済むんだ? まったく……」


(ええええ!? 何でや! 僕らだったら真っ二つにされてるで、ほんま!)

(フム。本当ですね……コマ切れにされる未来しか見えませんな……)


 二人が理不尽に嘆いていると、更なる理不尽が襲い掛かる。


「時にそこの二人。因幡を連れ去った件は重いですよ? 後でOHANASIしましょうね~?」


 そう言うと〆は実にいい笑顔でニコリと笑うのだった。


((あ、死んだ…………))


 笑みが深くなるほど、その危険性が格段に上がる事を知っている二人は、涙目で固まるのだった。


「さて、落ちもついたのでそろそろ本題だ。参の式神は奴らを追っているな?」

「フム。それは抜かりなく。金塊型の式神が追っています」

「結構! 壱、ダミーの偽装は?」

「壱:はいな、僕の能力でそれは完了しています」

「よし! では冒険者・商業ギルドへの手配も終わってるな?」

「フム。先程メイドが手紙を届けたと報告がありました」


 準備が整ったとばかりに、流は因幡を抱いて立ち上がる。


「全てのカードが出揃った。明日より……凶賊を蹂躙する!」

「にゃ~」

「壱:古廻はん、カッコええ! 完璧や!!」

「フム。様式美ここに極まれり……ですな!!」


 それを見ていた〆が、ぽつりと一言。


「えっと……これは何をしているのでしょう?」

「「「悪役ロールプレイ」」」


 それを聞いた〆はガクリと肩を落とし、美琴も〆と同じ気持ちであった。


「はぁ~。因幡まで連れて行ったから何事かと思ったのですが、問題無くとりあえずは安心しました。それで今回は何を?」


 ジト目の〆に今回の一連の作戦内容を流は説明する。


「なるほど、それは許せませんね。しかも以前、古廻様が襲われたと言うあの蛮族みたいなのと、同じ賊と言うではありませんか。これは私もお手伝いしないとですね♪」

「いや、そんな可愛く言われてもなぁ……お前は町を滅ぼす気か?」

「失礼な、ちゃんとその辺りは弁えていますからご安心を!」


 自信満々に言い切る娘に、三人はジト目で穴の空くほど見つめる。


「な、なんですか!? 私だって頑張れば手加減くらい出来ますとも! たぶん……」

「まぁ〆だけのけ者ってのも可哀そうだしな。よかったら手伝ってくれよ?」

「はい! それはもう喜んで。大好きでございます古廻様!」

「んじゃ、明日に備えて――乾杯するか~」

「壱:寝るんやないんでっか!?」

「馬鹿野郎、夜は始まったばかりだぞ!」


 悪役ロールに飽きた流はそのまま宴会モードに突入する。

 そんな楽しそうな流を見た膝の上のモフモフは「にゃ~」と一鳴きすると、そのまま眠りについたのだった……。



 ◇◇◇



 翌朝ギルドへ到着すると、今日も朝から威勢のいい冒険者で溢れている。

 因みに雑魚ーズは珍しく仕事に出かけているようで、不在だったのが寂しい。

 そんな喧騒のギルドを流は迷わずエルシアの元へと行くと、予定された「挨拶」で声をかける。


「よ、エルシア。今日は何か面白い依頼・・・・・は無いか?」

「おはようございます、ナガレさん。えーっとですね……あ、そうそう。この後貼りだそうと思ってたんですが、町の西側にある『トラフ草原』でトラフタイガーの討伐なんてありますが、どうでしょうか?」


 流は如何にもウーンと考える素振りをする。


「場所が分からないんだよな、地図とかあるかい?」

「じゃあ俺達が案内してやる」


 声のする方を見ると、そこには実力テストで一緒だった「ドラゴンスレーヤー」の三人が居た。



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