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488:異空間

 複数の流が赤い剣山のようになった半球へと襲いかかる。その勢いは黒い山津波が襲うように、童子切へと襲いかかる。

 赤い花壁に悲恋群が突き刺さった刹那、赤い花も容赦なくその刃を反り立たせて反撃。この防御型の紅時雨の厄介なところは、包み込むほど柔軟であり、手痛い反撃ができるほど攻撃的でもある。

 さらに攻撃を続ける流の分身たち。だが全く効果がないようで、次々と細切れにされ死んでしまう。

 それがよほど苦しいのか、流たちは全員顔を歪めて脂汗をながしながら悲恋を振るう。


「ぐぅぅぅッ――」

「どうしたい、苦しそうじゃないかい?」


 童子切はそう言いながらも、流の業なのか魔法なのか不明な現象に首をひねる。方法は分らないが、この幻術以上・分身体未満という初の経験に楽しみながらも、このままではダルいと考え始めた。


(さてねぇ。このままでは流が疲れちまうし……それではつまらんねぇ。とは言え、俺でもなきゃこれは窮地ってやつだろうし、中々の(もの)だねぇ)


 童子切は流の苦しむ様子を楽しむ趣味はない。あくまで剣と剣。業と業でのみ語り合いたいのだ。だからこのような〝なにかの力を借りた〟無粋な行いにガッカリするも、これまでは楽しかったし、これからもそうなるだろう。

 

 ――だからその〝邪魔者〟を排除する。


「なぁ流。そいつぁおまえさんの力じゃねぇんだろう?」

「くっぅ。さてな、これも俺の力の一部だと思っているがね」

「そうかい……ならその無粋な力、殺してくれよう」


 そう言うと童子切は淀んだ神気を思いきり刀へと込める。それに呼応して赤き花壁は〝ざわり〟と(うごめ)き、生き物と見間違えるような動きで流たちを貫き殺す。

 その間わずかコンマ三秒。それで一気に全員殺しきると、その奥にいる艶やかな巻物を持った男、流へと斬りかかる。

 

 流は目を見開き驚いた顔で童子切を見る。その顔を見てがっかりしつつも、「次は無さそうだねぇ」と言いながら刀を左下から斬り上げ一閃。

 巻物を持つ左手ごと流の腕を斬り飛ばし、返す刀で袈裟斬りに一閃。流の手から落ちた巻物を見て、「あんたが居なけりゃもう少し楽しめたんだがねぇ」といいつつ、巻物を細切れに斬りさく。


 瞬間、それはおこった。いきなり空間が粉々になり、童子切が複数現れる。


「なんだいこりゃぁ……俺が無数にいるぞおい?」


 そう童子切が言いながら目の前の自分を叩き斬る。するとその斬った刀が、自分の右上から現れ童子切を襲う。


「うぉっと!? こいつは驚いたねぇ……ってこたぁ。よっと!」


 刀が襲ってきた場所にいる自分に刀を振るうと、正面の自分が攻撃してくる。それで童子切は意味がわかり「ははぁ~ん」と徳利をあおりつつ、一点を見つめてつまらなそうに話す。


「なぁ流よ。他のやつならそれもいいだろうさね。だが俺にこんな事をしても意味がないのが、分からないお前でもねぇだろう?」


 そう言うと、童子切は刀を担いだまま正面の自分へと歩く。その自分とぶつかる距離まで行くと、そのまま本当にぶつかってしまう。

 だがそこからが理解不可能。なぜか童子切はそのまま自分とぶつからずにすり抜けてしまったのだから。

 そのまま今までいた場所の上から突如現れると、「なるほどねぇ」とつぶやく。


「あぁこれは鏡の世界かい? よく出来ているけれど、やっぱり陳腐だねぇ。まぁ流がそれでいいって言うんだ、俺ぁ尊重するぜ? だがツマランねぇ」


 童子切はこの仕組を理解する。目の前の敵は鏡のような存在であり、攻撃すれば別空間にそれが伝わり、自分の死角から攻撃を仕掛けてくるという陳腐な技であった。

 それにがっかりしつつも、その解除方法は理解してしまう。そう、この鏡の世界の入り口にふさわしいような、存在力を持った巨木が少し離れたところにあったのだから。


 巨木には顔があった。その顔は童子切もよく知った顔、流である。それが童子切に言う。


「やめておけよ……後悔するぞ?」

「後悔先に立たずって言うだろう? 俺は後悔するくらいなら、さっさと本能で(・・・)行動するくちなのさ。だからサクっと伐り倒しますかねぇ……せいッ!」


 言葉と真逆の事を言いながら、流の顔が付いた巨木へと容赦ない斬撃が飛ぶ。赤黒い神気を含んだ斬撃が巨木へとぶち当たった瞬間それはおこる。

 木にあたったはずだが、ガラスが砕ける音がした。それも大量に連鎖して粉々に砕け散る音が響く。


「な、なんだ!? うおッ!!」


 世界が粉々になり、しかもガラガラと細かく景色が回り視界が揺れに揺れまくる。

 流石の童子切もそのありえない状況に、動揺を隠しきれない。だがそれで理解する、このカラクリを。


「――ッ、流やってくれたねぇ。こいつぁ万華鏡か!?」

「ご名答。こいつは〝無限万華鏡〟と言う。童子切、あんたを殺す骨董品さ」


 その言葉にこめかみに冷や汗をながし「言ってくれるねぇ」と独り言つ童子切であった。

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