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488:面妖な男たち

(追って来やがるか童子切? だがこれは予測できねぇだろ?)


 流はアイテムバッグから一つの物を取り出す。それは直径三センチ、長さ二十センチほどの〝艶やかな巻物〟であった。

 それを片手に持ち覗き見ると、世界が歪んで見えた。その感覚に気持ち悪さを感じ、流は意識が飛びそうになる。が、童子切が容赦なく迫ってくるのを感じた。


(くそッ、頼む仕事をしてくれ!)


 そう巻物へ懇願(こんがん)するが、巻物は流へと歪んだ世界を見せ続ける。そんな最悪の状況にさらなる凶悪が迫り、対空中だというのに流の前に現れた。


「なんだいその(つら)ぁ? 苦しそうだが……楽にしてやるかねぇ」

「ぐ……ぅ……」


 流はうなりながら童子切を見る。が、体が動かず飛んだ慣性でそのまま進む。だが相手は童子切、そんなわずかな隙きでも致命的であった。

 体勢を立て直す暇もなく、童子切は流を斬り捨ててしまう。そう、真っ二つに上下が別れ、流は大量の血飛沫(ちしぶき)と共に下へと落下していった……。


 あまりの状況に外から見ていたエルヴィスは一瞬何が起きたか分からず、流の上半身が地面に鈍い音とともに〝べしゃり〟と落ちたをを見て状況を理解する。


「――ナ、ナガレエエエエエエエエエエエエエエ!! うわあああああああ!?」


 エルヴィスは急いで流へと駆け寄る、が。それを駒那美が肩を引いてとめた。エルヴィスは振り返り、その肩を掴んでいる女へと叫ぶ。


「離してください! ナガレが死んでしまう!!」

「行ってどうなると言うのですえ? 仮に生きていたとしても、あのありさまではねぇ」

「くッ、分かっています! でも、しかし、行かせてください!」

「だめですえ。それにまだ終わった訳じゃありませんえ?」

「そ、それはどういう事です――ぇ?」


 駒那美へとエルヴィスがそういった瞬間、流が落ちてきた建物から音がした。


「ちッ、祭りも仕舞(しまい)かねぇ。ちったぁ期待をしたんだが……くそッ」


 童子切が腹立ちまぎれに右手の刀を一振りし、建物を斜め半分斬り飛ばす。木がきしむ音と共にホコリが舞い上がった向こう側から人影が一つ。

 それを見た童子切は左の口角を歪ませその相手に話しかける。


「なんだい、俺をおいて逝っちまったかと思ったねぇ。だが健在で何より、さぁ祭りの続きといこうかねぇ」


 そう言うと童子切は次の間にいる男、流へ向けて走り出す。だが流は微動だにせず、その場で立ちつくしていた。

 また腑抜(ふぬ)けたかと残念に思うも、童子切はなんのためらいものなく流の首を狩る。その勢いたるや、カカシの首を()ねるようにあっさりと斬り飛ばす。

 血飛沫を吹き上げながら放物線を描き落ちる流の首が――話す。


「痛いじゃないか。やめてくれよ」

「ん? おたく妖人(あやかしびと)じゃなくて不死者か?」

「そういうワケじゃないんだがなッ!!」


 突如童子切の背後から流の声が聞こえたと思うと、童子切へと斬りかかる。それには流石の童子切も焦り、反応が一瞬遅れたことで無様に前転して逃れることに成功。

 すぐに体勢を立て直し、その斬りつけた男を睨むが。


「なに……死んでいるのか?」


 そこには先程首を落とされた男が立っていた。その手にはしっかりと妖刀を握り、そのまま立っている。

 それを(いぶか)しげに酒を一口呑みながら見つめる。が、次の瞬間またしても背後に気配を感じ童子切は前方の部屋へと逃れ、後ろを確認するが。


「おいおい、どうなっていやがるんだ?」


 童子切の視線の先にいる流。だがそれは二人であり、どうみても普通じゃない。酒をあおりつつ、その原因を考える。


(さて面妖な。まぁ俺に言われたくはないかねぇ……幻術の類にしては斬った感覚は本物。なら分身体かねぇ? いやいやいやさ。そうじゃない、こいつぁもっと……)


 そう童子切は考えながら、視線の先にいる流二人を袈裟斬りにする。その感触はやはり本物の人間。それはこれまで無数に斬り殺してきたからこそ分かる、確実な人の肉と骨が断ち斬れる手応え。


「解せないねぇ……なぁそうだろ流?」

「「「ああ、そうだろうとも。俺も妙な気分だ」」」


 童子切を囲む無数の影。それが全て実体化すると、童子切へと一斉に襲いかかる。その様子を上から見たら確実に思うだろう。


 ――逃げ場がない、と。


 だが童子切は動かない。いや、右手だけ高速に動かし刀を空中へと突き刺す。そのまま淀んだ赤黒い神気を刀身へと込めると、〝親指を下に〟したまま刀を抜き放つ!

 

「先程とは違い少し本気(・・・・)で行かせてもらおうかねぇ。神刀流・紅時雨!!」


 巻き上がる赤い桜の花びら。その血よりも濃い赤き花びらは時雨になり童子切を包み込む。そのまま半円形になると、全体が高速回転をして流の攻撃を弾き返そうと、サメの牙のように尖った防御壁が待ち構えるのだった。

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