486:家主は祭りを楽しむ
「ここでそいつぁ剛気! たまらんねぇ!!」
妖気をふんだんに蓄積した巨木斬を見て、童子切は口角を上げ獣じみた表情で笑う。そのまま徳利を煽り一口呑みながら、刀を巨木斬と同じ角度で淀んだ神気を込めて高速で振るう。
巨木斬の白銀の斬撃と赤黒い斬撃がぶつかり合い、一瞬だが斬撃同士が均衡する。が、どうやら力負けしたらしく、童子切は「うぉ」とマヌケな声を出しながら建物の奥へと押し込まれた。
次の瞬間、木造二階建ての揚屋が斜めに斬り落とされ建物が半壊。そこへ流は躊躇なく突っ込んでゆく。
建物内部は幸い人がいなく、ほこりが舞い散る内部構造を鑑定眼で探りながら、童子切の気配も探る。
(どこだ? この近くにいるのは違いないが……ッ!?)
突如ほこりの向こう側から銀閃が現れ、流の額をつらぬきにくる。それを悲恋で弾き返し、いまだホコリ舞う向こうにいる童子切へと剣を連撃して押し通す。
「おいおい足元が危ねぇんだから、そう急かすなよ」
「急かさないと犠牲者が増えるもんでね」
「分かってないねぇ……」
そのまま階段へと童子切を追い詰める。が、後ろも見ずに跳ねるように駆け上がる。それを追撃する流は、童子切の足めがけて斬りつけるが、童子切の持つ刀の切っ先で弾かれてしまう。
それを見た流は「器用な奴め」と内心悪態をつきつつ、その後を追って二階へと到着する。
二十畳はありそうな和室だったが、半分無くなっており外の桜がよく見える。その桜を背景に童子切は軽く一口呑むと、流に向けて斬りかかってきた。
「今度はこちらから行かせてもらおうじゃないの」
童子切は刀を真横にかまえると、前のめりになり走ってくる。その速さはまるで旋風。その触れたものみな両断する旋風は流の胴体をまっすぐ横に一閃。
(くッこいつはヤバイ!?)
一瞬バックステップで躱そう思ったが、どうみても普通の太刀筋じゃない。だが受けようと考えた瞬間、第六感が警報をならす。ならばと妖力で足を強化し、そのまま天井すれすれまで飛び上がりながら真上から攻撃することにしたが。
「あら残念だねぇ」
「うっそだろ!?」
流のような大業を放ったワケでもなく、ごく自然に。だが淀んだ赤黒い神気を込めた一閃。
たったそれだけで背後の建物が崩壊したのが見えたことで、次の攻撃がコンマ数秒遅れた。だが流はそれでも天井の梁を蹴って、童子切の頭上から襲いかかる。
「あまいねぇ」
「クソッ!」
童子切は酒を一口飲みながら、流の攻撃を弾く。それも背中に刀を斜めに背負い、上からの斬撃を滑らせて下へと落とす。
床に悲恋の妖力が込められた斬撃が落ちることで、この建物もいよいよ完全にだめになる。
崩壊する足場。それがダメになる刹那、二人は隣の建物に向け剣をふるい壁を破壊しながら戦場を移す。
そのまま流は悲恋を左上から袈裟斬りに斬りかかり、童子切も同じように斬り返す。金属のネジ当たる嫌な音が響くと、そのまま二人はその場で剣戟を重ねる。
崩壊する建物……それにあわせ二人は部屋を移動しつつ、お互いが壁に阻まれた瞬間業を繰り出す。
「ジジイ流・刺突術! 間欠穿【改】!!」
まずは流が自分の妖力を最大限に込めた業である、一撃集中型の穴を穿つ間欠穿を放つ。
――もともと穴を穿つ業であったが、悲恋の力により縦に割れると言う業である。そこに流の【改】にまで高めた妖力を込めることで点が線になり、さらに真横に亀裂が走る――。
壁の向こうにいる童子切へ放った瞬間、壁は十字に斬り裂かれ大穴が出現。当然斬撃は童子切へと向かったが。
「いよう、久しぶりだな。神刀流・紅時雨!!」
流の攻撃を待っていた童子切は、カウンター技である紅時雨を放つ。持ち手の親指は上、つまり。
「クソ、攻撃だとッ!?」
壁の向こう側だろうが、童子切からすれば流の動きは分かるだろう。だからこそ、防御型の紅時雨を使い、大業を防ぐと思ったが逆だった。
童子切の前に赤き刀身が三本出現しており、それが一斉に襲いかかって来る。まず二本が間欠穿にブチ当たり対消滅。
その直後残った一本が流へとまっすぐ襲いかかることで、流の注目をそちらへと引き寄せた。
「よそ見はいけないねぇ、何処を見ているんだい流?」
いつの間にか流の右横に迫っていた童子切。迫る正面の赤き刀身と、右から斬りかかってくる童子切に焦りながら、流は赤い刀身へ向けて踏み込む。
「お~! その判断ができるのは中々いないんだがねぇ」
「クソオオオオオオオオオ!!」
童子切の攻撃が着斬するまえに、流は前方の赤い刀身へ向けて渾身の一閃! 赤き刀身は細かくひび割れ、花びらのように舞い散り消えた。そこへさらに勢いを殺さず走り出し、隣の建物へ向けて四連斬を放つ。
「誰もいるなよ! ジジイ流・肆式! 四連斬!!」
当たればインパクト機械のような衝撃を与える肆式を放ち、隣の建物の壁に大穴と爆散させることで煙幕を作る。
そのまま空中へと飛び出しクルリと頭を下に姿勢を変え、追ってくる童子切へと業を放つのだった。




