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471:圧倒的な弱者

 にらみ合う流と黒いローブの男。そのまま数分……双方とも微動だにせず動かない。


『流様、彼の思惑通りになっちゃったね』

「まぁ俺も都合がいいが。なんだ……その自信は?」

「…………エスポワールを排除した力、俺に見せてみろよ」

「へぇ、意外にも武人なのかい? サシで殺りあおうなんて、なかなか出来ることじゃない」


 そう流が言った次の瞬間、黒ローブの男は前かがみになり飛んで来た(・・・・・)。文字通り体が宙を飛び、回転しながら流へと襲いかかる。


「チッ、魔法師か!?」

『見た目通りですよ! 下に気をつけて!!』


 男がはためくローブの隙間から短剣を出す。そしてそのまま回転力を活かし、流の胸を(えぐ)ってくる。が、美琴が言うとおり流の影から「黒ローブの男」が出てきて、流へと攻撃をくわえる。

 下と正面、二つから同時に攻撃され、悲恋を抜いて左に弾きながら躱す。


「あっぶねぇ、何だそのデタラメな攻撃は」

『転移魔法みたいなものかな?』

「いや……あれは違うな。転移というより」


 流は向かってくる男にむけ、妖気で作った手裏剣を飛竜牙で狙い撃つ。

 手裏剣は宙を飛んでくる男へ向けてあたった瞬間、それがすり抜ける。

 流は「やはりな」と言いながら、悲恋を男の影に向かって突き刺し、そのまま男の短剣を体を捻り躱す。


「ぐぅ!? なぜ分かった……」

「なぜも何もあれだ。企業秘密だッ!!」

『流様自身が会社だったの!?』


 そんな緊張感の無いやり取りだが、答えは簡単だった。それはなんのことはない、男が影の中に潜んでいるように錯覚させる魔法を使っていたのだから。


 本体は地面を滑るように突撃し、上部の人影は幻影。だが短剣だけは本物であり、幻影と短剣のダブルの攻撃というのがこの男の魔法の正体。

 そんな陳腐ともいえる攻撃など、流の鑑定眼にかかれば裸で突っ込んでくるようなものだ。


「やれやれ、とんだ思わせぶりな雑魚だったか」

「……黙れ……エスポワールなどより俺のほうが、遥かに格上だと思い知らせてやろう」

「無いわぁ~、お前激弱だぞ?」

『そうだよ? あの太った死人のほうが遥かに気持ち悪いんだからね? あ、でもその死んだ目は貴方の勝ちなんだよ。おめでとう♪』

「黙れバケモノどもが! 人間ですらもなく、肉体すら失ったバケモノの分際で吠えるな」

「『オマエガ言うな馬鹿野郎!!』」


 そう言うと流は美琴から妖力をもらい、連斬の体勢になる。


「後悔するまもなく土に帰れ死人(しびと)ヤロウ――俺(りゅう)・肆式! 七連斬!!」


 流オリジナルの七連斬、しかも一撃集中型のインパクト機械のような衝撃をともなう連斬は、黒ローブの男へ容赦なく襲いかかる。

 一撃目は左膝を砕き、二と三撃目が両肩を砕き、五と六が鳩尾(みぞおち)と心臓を穿(うが)ち、最後の七撃目が首に着斬!

 直後、盛大に連斬があたった場所から、ドス黒い腐った血液を吹き出しながら倒れる男。


「……死んだのか?」

『どうかな……でも下から来るしタイムアップかな』

「これだから死人は嫌だねぇ。三左衛門はどう思う?」

『ここは姫の言うとおりに撤退いたしましょうぞ。大殿のお力なれば、このような雑魚など何度来ようが問題ありますまい』


 流は動かない死体を見ながら、「そうだな」とつぶやき周囲を見回す。どうやらこの戦闘に下の衛兵たちも気が付き、騒ぎ出した事で流も潮時と感じ悲恋を納刀する。


「ここは一旦引くか。あいつらも旧道に入れたようだしな。よし、嵐影行くぞ!」

「……マッマ!」


 死体を一瞥(いちべつ)し、流は嵐影の背に乗る。そのまま衛兵が来る前に岩肌に取り付き、するすると器用に登っていく嵐影。

 その姿を死体になった男は、腐った瞳で見ているのだった。


 旧道に出てしばらく進むと、イルミスが手をふっているのが見える。どうやら魔法で小さな明かりをともしているらしく、ホタルのような淡い光が流を向かえてくれた。


「悪い待たせたな」

「そんなに待ってはいませんわ。それよりあの男……死人だったのでしょう?」

「ああそうだ。あいつは死人だったが、何か気になることでも?」

「ええ……流は違和感がありませんですの?」

「違和感? とくに感じはしなかったが」


 そう言いながら流が考えていると、美琴が思い出すように話す。


『あぁ、違和感と言うかおかしな事は感じたんだよ。あの死人弱かったんだよ』

『確かに姫の言うとおりですなぁ。死人のくせに生に執着する言動もないし、不死ゆえの慢心もない。むしろ劣等感の固まりのような感じでしたな』

「三左衛門も言うのだからそうなんだろうなぁ。まぁただ死人にしては弱かったのは間違いない」

「それって私がアイヅァルムで戦った、獣人の死人モドキみたいな感じかしら?」

「いや、セリアが戦ったのは知性がないような感じだろう? 俺の戦ったのは魔法もつかえ、さらに自我があり人間らしかったな」


 イルミスは「そうですか……」と一言もらすと、黙って何かを考え込む。どうやら過去の記憶を探してるようだった。

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