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469:しばしの休憩と、極上のお肉

 しばらく登ること四十数分。目の前に洞窟があり、その入口より入ってすぐの場所がかなり広い空間となっていた。

 そこを見つけたラーマンたちが誰の指示があるわけでもなく、自然に入り集まっている。

 流と嵐影もそこへ入ると、その場所の広さと人がいた痕跡に驚く。

 ここは外からは絶対に見えない位置であり、その場所には焚き火のあとや、寝具まであったのだから。


「これはガラン師が言っていた鉱石の採掘場所か?」

「……マァ」

「そうなのか。よく分かったな」

「……マ」

「なるほど、それはいいな」


 流がルーセントが乗るラーマンと話していると、セリアがその内容を聞いてくる。


「ちょっとナガレってば、何を話しているのよ?」

「ん? あぁ悪い。こんな場所をよく知っていたなぁと思ったら、このあたりに住んでいるから分かるんだってさ。それでガラン師(ドワーフ)がここに出入りしているそうで、他の人間は見たことはないと言っているな」

「それは丁度いいですわ。ここで休憩と食事にしましょうか」

「だな。流石に飯は食べたいところだが……」


 流はイルミスの言葉に同意するが、一つ気になることがある。それは先程たおした斥候たちのことだ。

 彼らが関所に戻らなければ、確実に捜索隊が来るであろうし、それがなくても砦の警備もきつくなるだろう。

 そんなことを考えていると、Lが流に話しかける。


「マイ・マスター、僭越(せんえつ)ながら具申します。あたしが空から偵察したいと思うのですが、いかがでしょうか?」

「う~ん……いや、やめておこう。お前も疲れているし、食える時に食ったほうがいい」

「そうね。あなた達がいかに強靭だろうと、お腹はへるもんね」

「承知しました。それでは食事の支度をします」


 そう言うとLは焚き火の後に積んである薪を置く。そして火を吹き着火するのだった。


「浮かない顔ね。先程の斥候が気になるんでしょ?」

「ん。まぁな……ここでのんびりしていても大丈夫か?」

「大丈夫ではないわね。今頃はすでに騒ぎになっているでしょうし」

「おい、それってまずいんじゃ?」


 流はセリアの落ち着いている言葉に驚きと共に、緊張がはしる。だがセリアもイルミスも、〝それがどうしたの?〟と言わんばかりの顔だ。


「いやお前ら、どうしてそんなに落ち着いているんだよ?」

「簡単よ。もし崖からの侵入が特定されているなら、関所規模なら魔法師がいて、それが斥候魔法を使用していると思うわ」

「ええそうですわ。ですから今のところはその様子も感じられない、だから食事と休憩する程度なら問題はありませんわ」

「そういう事か。流石歴戦の強者(つわもの)は違うねぇ……で、もう一人の歴戦の強者なんだが」


 しばらく二人と話していると、静かな二人を流は思い出す。ふと見れば、入り口にへたる男が二人。

 一人はエルヴィスであり、真っ青な顔をしてぐったりと転がっている。もうひとりは老いてますます盛んな猛将、ルーセントであった。


「「オウエエエエ……」」

「ちょ、汚いわねぇ! 二人ともあっちでしなさいよね!!」

「お……お嬢様はなぜ平気なんじゃぁぁぁ」

「休憩後でよかった……あのまま休まず来ていたら、確実に振り落とされていた……」


 どうやら二人ともにラーマンの背に揺られまくって、激しく酔ったらしい。まぁ分からないでもないと、流は苦笑い。

 腰のアイテムバッグから、紫の回復薬を出し二人の元へと向かう。


「大丈夫か? ほら手を出してみなよ」

「「うぁぁぁぁ……」」


 二人はゾンビのようなうめき声を出しながら、流へと手を差し出す。死んだ魚のようなその瞳は、濁りきっていて怖い。

 生気を失った濁った瞳に顔を引きつらせ、流は二人の手のひらに一滴回復薬を落とす。


「なめてみろよ、その程度ならすぐに治るはずだぜ?」

「「うぁぁぁぁぁ――ぁあおおおお!? 治った!!」」


 その効果は圧倒的だった。あれほどへばっていた二人は一気に回復すると、元気に立ち上がる。


「すごい効き目じゃなあ! 貴重品じゃなければ譲ってほしいわい」

「ですねぇ。でもおかげで助かった、ありがとうナガレ」

「気にするなよ。さ、飯にしようぜ?」


 回復した二人を連れて焚き火の場所まで行く。ちょうどLも支度が終わり、人数分のパンとスープが用意された。

 それがいように旨い。調味料も無いはずだが、厳選された上品で奥深い味わいと適度な塩分。

 そして謎の肉が噛んだ瞬間口の中で、肉汁を撒き散らしながら熱烈に暴れるのだ。ぶるんぶるん!

 流は夢中になって極上なクセのない肉を堪能する。が、一つ疑問がわく……。

 パンはLが荷物として持っていたのを知っていた流だったが、鍋はどこから持ってきたのか?


「なぁL。このスープはどうやって作ったんだ?」

「はい? そこのトカゲ甲羅を鍋に、具材もそいつから調達しましたが」


 見ればリザードマンの亜種、亀リザードと呼ばれる丸いトカゲが真横に真っ二つになっており、恨めしそうに流と目が合う。その目は流にこう語りかけている……。


 ――どうだ小僧、俺の肉は旨いか? とびっきりのA5ランクのサーロインだ。よく味わってくれよ? フフフ――と、言っている気がする。


「ぶっふぉ!? ちょ、L! なんか俺を睨んでる首が怖いんだけど!? つか、こんなの喰わせるなよ! セリアとイルミスもなんか言ってやれよ!!」

「「はい(ふぉぇ)? 美味しいけど(おいひぃけろ)?」」


 流は思う。異世界の娘は強いんだな……と。そんな流を見る二人の男は涙目でサムズアップするのであった。ナンダコレ。

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