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046:【新しい依頼を受けよう! その名はリットンハイム】

 冒険者ギルドは一階と二階が事務所兼酒場となっており、三階は完全なオフィス空間である。

 因みに四階と五階はギルマスの部屋になっているらしいが、今は王都へと急用が出来て行っているために不在らしい。


 そんなギルド三階にある通りに面した、日当たりの良いサブマスターの部屋へ流達は来ていた。


「……よく来たナガレ。私はお前と違って大変忙しいのは分かるな? まったく、私が一介の冒険者の対応とは……手短にさっさと要件をすませよう」


 そう言うと、サブマスは机の引き出しから一枚の用紙を取り出す。


「これは商業ギルドからナガレ、お前に指名依頼だ」

「また指名依頼か? 今日来たのは幽霊屋敷の指名依頼を完了したからなんだが?」

「何? まさかお屋敷街の例のやつか?」


 サブマスターのリットンハイムはエルシアを一瞥し、それにエルシアが答える。


「はい、間違いなく完了をしたと、商業ギルドよりの使者である『この人』が持って来ました」

「ええ『この人』の言う通り間違いありません。商業ギルドとしても保証します。それとこちらもギルドマスターのバーツより預かっております」


 リットンハイムはメリサからの書状を受け取ると、中身を確認する。

 少し眉をひそめながら手紙を読むと、流へと向き直り内容を話す。


「……さらに細かく追加か、ふむ。それでだ、ナガレに改めて指名依頼だが受けるか?」

「突然言われても困るんだが……内容によるな」

「当然だな、クエストの内容は『殺盗団の討伐』だ」


 殺盗団さっとうだん――以前、流がトエトリーに来る間に襲われたケモケモしい鎧を着たボーナスキャラ達である。


「殺盗団ってあれか、俺が追い払った連中の事だろ? 何でまた」

「そうだな……奴らの悪行は聞いているな? 最近は街道だけじゃなく、このトエトリー内でも活動を活発化している。衛兵や憲兵は無論対応しているが、言いたくは無いが内通者が居る。そして冒険者の中にもな……」

「内通者? そんなに居るのか?」


 その問いにリットンハイムは忸怩たる思いに近い感情となるが、話を続ける。


「例えばだ、衛兵や冒険者に武力を背景に脅しは効きにくい。だが殺盗団は狡猾でな。暴力は無論使うが、奴らの最大の脅威は諜報力と実行力だ」

「暴力以外にも何かするってのか?」

「その通りだ。まず奴らは金で篭絡し、次に女だ。特に女の問題は上部の人間ほど、社会的、政治的にも脅しの道具に使われやすい。そして金や女で弱みを握られたヤツが上役へ出世したら、その下の部署も丸ごと篭絡される事もあった。そしてその諜報力を駆使し、人間関係を利用したトラップ等、やってる事は他国からの諜報戦並みに酷い。いや、むしろ何でもありだからこっちの方が深刻だな」

「盗賊のくせにやる事が大胆だな……」

「ああそうだ。しかも連中は大物から小物まで内通者を集め、組織化している。その組織の人間はお互いが監視し合いながら活動しているので、裏切る事は困難な状況ってわけだ」


 地球でも似たような話があると思いながら黙って聞いていると、リットンハイムは驚く内容をさらに続ける。


「例えば身近なので言えば、ナガレが解決した屋敷の元の持ち主だが、こいつが内通者の一人だったので処刑された訳だ。地下倉庫があっただろう? そこに禁忌製の呪具や、さらった娘たち、更には亜人の奴隷や人間の奴隷もいたとの報告もある……無論こんなのは氷山の一角だ」


 そう疲れたように話すリットンハイムだったが、冒険者ギルドとして見過ごせないのはここからだった。


「そして冒険者の内通者は、初心者を始めとした力が弱い者達を主に狙って、クエストの最中に襲い掛かって来ると言う。更に酷いのは金品は奪う事は無論、男は皆殺し。女は犯された後に殺されると言う報告がある……この情報はたまたま助かった女の冒険者からの貴重な証言だったが、それで奴らの行動も分かったのだよ」


 大体は知っている内容とは言え、改めて聞くと吐き気がする所業だった。

 だがやられてばかりでも無いとリットンハイムは言う、その一つとして内通者がこちらにも居て、ある程度の情報が集まって来るが、中枢までは潜り込めないそうだ。


 そして――。


「そんな奴らが最近話題の金持ちに目を付けたらしい。その金持ちは『冒険者登録初日に』富と名声を手に入れ、私の財布を空にした悪党だと言う」

「チョットマテ、それは俺の事か!? まぁ++の称号まで貰ったから文句は無いが、アンタ、俺が負けると思ってたんだろ?」


 リットンハイムは遠い目になる。

 流、メリサ、エルシアはジト目になる。


「人は……失敗してこそ成長するものだ。時間が惜しい、話を戻そう。そのこちらの内通者からの情報では、ナガレが宿泊している場所を特定したらしく、そこへお前が戻るのを待って襲う計画らしいが……その様子ではまだのようだな?」


 昨夜は異怪骨董やさんに宿泊したから、戻らなかった事が幸いしたようだと流は胸をなでおろす。

 もし自分のせいで、あの仕事熱心な宿屋の娘(守銭奴)が襲われたらと思うとゾっとした。


「……なるほど、話は分かった。俺で良ければ受けよう」

「報酬は聞かないのか? 割に合わないかもだぞ?」


 一瞬考えるようなそぶりを見せる流だったが、商業ギルドの依頼だと思うと信頼がおける事を思い出す。


「楽しみは最後にとっておくタイプでね、それに俺の友人も困っているみたいだからな。どのみち俺も商人として他の町へも行く事もあるだろうし、そう言うゴミはさっさと掃除するに限るだろ? それで具体的にはどうすればいいんだ?」

「そう、だな……まずは目立つように普通の依頼でも受けてくれ。町から離れたフィールドかダンジョン系が良い。そこへお前が相手だから、かなりの戦力で殺しに来るはずだ」

「そして、それを殲滅してリーダー格を捕えろと?」

「話が早くて実にいい反応だ。そしてもう一つ。今の宿屋は引き払った方が良い。理由は分かるな?」

「ああ、そうしようと思ってたところだ。それに今は立派な屋敷があるしな?」


 そうメリサを見てウインクする。そんな流を頬を染めて見つめながら頷くと、隣のエルシアはムッとした様子でメリサを睨む。


「そうですね。あ、丁度良い。サブマスターなら、こちらの完了証にサインをいただけますか?」

「ッ!? ナガレ、お前……幽霊屋敷の事は聞いたが、まさか私の財布だけじゃなく、屋敷まで手に入れたのか。とんでもない悪党だな」

「マテ、俺はあんたの財布など知らん! 全く俺に賭けとけばこんな事にはならなかったのにな。マヌケめ」

「ぐぬぬぬぬぅ」


 リットンハイムは顔を真っ赤にしながら、とても丁寧にサインをするのだった。


「……これでいいな。それと内通者が何処に居るか不明な点で、悪いがお前一人での討伐となる。お前の実力は知っているので心配はしていないが、商業・冒険両ギルドからの頼みだ、本当にすまない」


 そこで何か違和感を感じた流は、一つ聞いてみる事とする。


「そこまで信頼出来る奴が居ないのか? 例えばジェニファーちゃんとか」

「いや、ジェニファーは『ギルドの要』だからな。ウチのギルマスからの依頼か、または緊急時か、それに相応するような事態が起こらないと、決められた事以外の依頼が出せないんだよ。冒険者ギルドとしてはそれなりに居る事はいるんだが、全員町を離れて居てな。それも殺盗団がらみの依頼だから、信頼出来る奴を優先に付けている感じだ」

「それで以前、殺盗団と戦った俺に話が回って来たと?」

「それもある。が、商業ギルドからの熱望に近い依頼でな。今回お前が狙われているとの情報をあちらも持っているから、それを利用しようとしたんだろう。そんな訳もあり、是非ともお前にして欲しいそうだ」


 その話を聞く流は難しい顔して、しばらく考え込む。

 あまりにも無謀かつ、常識で考えればありえない孤立無援の依頼に裏があるのかとも思える。


(商業ギルドが何故そこまで新参の俺を頼る? 商業ギルドの地位向上のためとか? そして冒険者ギルドもいくら何でもムチャ振りがすぎる。まぁ……いずれ分かるか)


「思う処も多々あるだろう……だがすまない。そこでギルドとしてではなく、これは私個人として、この件についてはお前に出来るだけ便宜を図りたい。冒険者の増援は出来ないが、その他の方法で手助けするつもりだ。詳細は一応ここでは伏せておく。それが動いてくれるとも限らんからな」

「了解した、期待しないで待ってみるさ。そうだ、一つ聞きたい。この件では無いが、俺の屋敷の地下に居た悪霊の親玉について何か知らないか?」


 その話を聞いたリットンハイムは、これまで聞いた情報を思い出す。


「そうだな、初めて報告にその悪霊が出たのは、前の持ち主が処刑された後だったな。それまでは幽霊騒ぎも無く、新しい買い手が決まるかどうかと言うところでの幽霊騒ぎが起きたと聞いている」

「そうか、情報に感謝する」

「では私は忙しい、察してくれ」

「ああ、状況が進展したら報告する。じゃあな」


 そう言って流が席を立った時だった。


「……まあ、少し待て。なんだ、もうちょっとそこに座れ」

「でもアンタ忙しいって言ってたろ」

「それはそれ、これはこれだ」


 流達を座らせるとリットンハイムは机の横にある棚からティーセットを出す。そして流れる仕草でお茶を入れると、三人にすすめる。


「この茶葉は私のお気に入りでな、実に良い味と香りがする。試してみてくれ」


 困惑しながらも三人はお茶を飲む、すると確かに絶品の味と香りだった。


「これは美味い、な……フラワリーで、口に含むと心地よい渋みと共に、香が鼻孔から抜ける満足感が実にいい」

「本当ですね、とても美味しいです……」

「サブマスにこんな趣味があるなんて意外でした!」


 それを聞いたリットンハイムは実に満足気に頷き、さらに焼き菓子も披露する。


「これはまぁ……うちの婆さん作なのだが、この紅茶によく合うんだ。これも試してくれ」


 恥ずかしそうに焼き菓子を出す姿に三人は思う『こいつ、ツンデレだ!!』と……。

 オッサンのツンデレにいかほどの需要があるか分からないが、コアコア層を狙い撃ちにしたリットンハイムは、憎めない男であったと流は思うのだった。


 そしてエルシア以外誰もが思っていたが、口に出さなかった禁忌をリットンハイムが口にする。


「ところでエルシア。お前は何故、『花束のように』串焼きを抱えているんだ?」

「えっと……大事な人からのプレゼント……ですから?」

「「「いや、早く食べよ」」」


 一斉に突っ込まれたエルシアは涙目になりながら、泣く泣く提案する。


「あの……一本だけですが食べます?」

「……もらおう」

「……俺も」

「……私も」


 身を切る思いでエルシアはそう言うと、みんなに串焼きを渡し美味しそうに食べるのだった。


 その日はクエストを受けずに、殺盗団の殲滅準備をするために一度帰る事とする。


「ご店主、待たせてすまなかった。うちのラーマンは大人しくしてたかい?」

「あ~、あいつならホレ、そこの木陰で寝てるぞ」

 

 見ると屋台の裏にある街路樹から伸びる日陰で、ラーマンは気持ちよさそうに寝ていた。

 しかも周りには子猫や老犬、そして小鳥が頭や背中と足元で寝ており、なんとも平和であたたかい空間がそこにあった。


「あ~なんか癒されるなこれ……」

「本当ですねぇ……」


 二人はその光景をしばらく見ていたが、ふいにラーマンが目を覚ます。

 すると、ラーマンとマッタリしていた動物達も自然と立ち去っていく。


「へぇ~、みんなちゃんと分かって帰っていくんだなぁ」

「そうなんですよね、ラーマンが寛いでいる時は色々な動物達が一緒に寝てるんですけど、ラーマンが目を覚ますとみんな何処かへと行ってしまうんですよ」

「面白なぁ」


 そう話しているとラーマンが二人の前に来る。


「……マ、マ?」

「ああ、もう用事は済んだから問題ないよ」

「……マ」

「そうだな、じゃあ商業ギルドへ先に行ってくれるか?」

「……マ~」

「いや、待たせたのはこっちだからな。少しは腹の足しになったなら良かったよ」


 ラーマンと自然に会話している流に、メリサは驚愕する。


「ナ、ナガレ様。そのラーマンと話せるのですか!?」

「え? そう言えば話してる事が分かるぞ!? 普通に話してたけど何だこれ」


 驚いている二人にパン屋の店主が声をかける。


「はっはっは。そう言う奴はたまに居るのさ。そして俺もその『たまに居る』部類だ」

「マジかよ。『こんにゃく』でも食べたのか、おっさん?」

「こんにゃく? は知らんが生まれつき分かるんだよ、不思議とな」

「そう言うもんなのか……」


 流は店主と話した後、メリサを商業ギルドへと送り届けた。


「じゃあメリサ、討伐日デートの日時が決まったら教えるから期待して待っててくれ」

「デ、デートですか!? あの神話の?? 生きていて良かった……」

「おいおい。そんなに大きな声で言うなよ、恥ずかしい。じゃあそんな訳だ。またな!」


 顔を真っ赤にして立ち尽くすメリサに別れを告げ、流はラーマンの背に揺られながら「昼から享楽亭」へ向けて進む。


(メリサの奴も役者だな~ギルドの入口であの演技とはな。顔を染めている所とか、本当にデートの約束みたいじゃないか。仕事のプロとしての矜持を学ばせてもらったな)


 額面通りに「デート」という言葉を真に受けただけの、心底嬉しいメリサだったが流には演技に見えたらしい。


 今日も二人の溝が埋まる事は無かったのであった……。



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[一言] あのクソガキ絶対絡んでるな
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