461:妖気
まず封印が壊れた理由。それに付随し現れた吸血熊。そして――。
「ゴブリンキングがその力により現れた。俺は鑑定眼と言うスキルを持っていてな、それでその力で探ったら、ゴブリン村の一箇所にピンポイントで力漏れ出ていた。それで成ったのだろう、あの王に」
四人は現実感の無い話に動揺しつつも、まずはその力が何なのが気になる。だから――。
「――それは一体なんの力なんだい? アタシはこの中でもその手の話に精通している。だが、聞いていた限りではそんな力は知らないね」
「あぁ、ここからが本題であり引き返せない事実だ。心して聞いてくれ。あの森にあるもの……それはこの国を裏から操っている奴らの、妖力を封じた樽が封じられている」
「ヨウリョク? いや、妖力と言うのか。ワシはこの町を造る前は王宮に出入りしておったから、この国の裏まで知っておる。が、そんな力や裏から支配するやつなど知らんぞ? むしろ操っているのは、あの馬鹿息子たちじゃわ」
リッジがそう言うと、ガラン師とエルヴィスも二度頷く。シーラですら頷くほどだから、それは本当にそういう認識なのだろうと流は思う。
「いや……いるんだよ。この国を戦乱に落とし、それを楽しんでいる奴らがな。爺さん、あんたの息子が、魔核をつかった兵器を作っているのは知っているか?」
「うむ知っとる。だが詳細はしらん。ワシ引退した後で何やら始めたようでな……まさか、それの技術を教えたのが、ナガレの言う存在なのか?」
「これまで俺が集めた情報から考えると、ほぼ間違いなくそうなると思う」
流は悲恋に手を添え、ある人物を呼び出す。そう、三左衛門と向日葵だ。
「三左衛門、向日葵。出てきてくれないか?」
『はっはっは! よろしいので?』
『ふぇ~めんどうですぅ~』
「かまわん。その程度では驚かん人物たちだ」
リッジたちは流が誰と話しているのか理解できなかったが、その直後に見たこともない容姿の初老の男。そしてなぜか顔だけ出ている熊の着ぐるみ姿の向日葵が出てきた。
その姿もそうだが、目の前に人が突如として現れた事で三人は「なにッ!?」と同時に声をあげ驚く。
「そう驚かないでくれ。こいつら二人は俺のこの刀、悲恋美琴に住んでいるやつらさ」
「驚くなという方が無理がある。どうなっているんじゃお主は……」
「俺はドワーフとして長い時間を生きているが、武器から人が出てくるとはな……これは驚いたわ」
「カタナ……ナガレあんた、やはり普通じゃないねぇ」
エルヴィスとシーラは知っていたので驚きはしないが、やはり不思議な二人に目が行く。とくに一人、どう見てもオカシナ存在に自然と注目があつまる。
「時にナガレ……その、どうしてその娘は……くまなんだ?」
「聞くなエルヴィス……その女は頭が見た目通りなんだ」
「ふぇ~ひどくないですか大殿!? もりのくまさんとの戦いで、ファンシーとはなんぞや? と思い直し、作ったばかりなのに」
「はぁ~そうかい。それで全員に説明をしてくれるか、死人の事を」
いまだに呆然とする三人と、エルヴィス兄妹へと三左衛門はこれまでの話を聞かせる。
「するとその男が、トエトリー支部の代表・エスポワールだったというのか?」
「うむ。大殿がそれを討滅した。が、彼奴はまだ生きておるわ」
「首をハネたのに生きているって言うのかい? にわかには信じられないねぇ」
そうユリアが訝しむが、入り口が開き中へと人が入ってくる。見ればセリアとルーセントだった。
「ユリア、その話は本当よ。私もアイヅァルムでそれの劣化版と戦ったんだから」
「ひさしいなユリア。さきほど冒険者ギルドへ行ったのだが、留守と言われてな。仕方なく戻ってきたら、まさかここに居たとはな」
「ッ!? セリアの嬢ちゃん、そして兄さん!! どうしてここへ?」
「ワシはセリア様の護衛としてだよ。まぁそれより今はナガレの話じゃ……こやつの言うことは全て真実。まぁ何を言っているかは知らんが、それは間違いない」
「はぁ……二人がそう言うならそうなんだろうさね」
ユリアは呆れるように両手を上に向け肩をすくませる。それを見た流は話しの先をすすめる。
「ん? ルーセント将軍と兄妹だったのか」
「いやいや、ワシは義理の兄。ユリアのやつはワシの嫁であるバーバラの妹だ」
「まぁそういう事さ。それでナガレ、魔核兵器の事は分かったが、それが今回の事と関係が?」
「それについては、そこの熊が説明する。向日葵頼む」
「ふぇ~面倒だくまぁ~」
向日葵はそういうと、腹に付いている大きなポケットから熊の人形を出す。
それに向けて印を二言何かをつぶやくと、その人形が立ち上がる。驚く観衆を無視し、向日葵は次々と人形へと命令をする。
すると走ったり、座ったり、手をふったりと生きているように動くのだった。
「ご覧になったから実感出来たと思います。これがアルマーク商会が実戦投入した、魔核兵器と同じ術式で動いています」
「向日葵おまえいつのまに……」
「ふぇ~まぁ色々あるんですよぅ。ただ一度入れたら元には戻せませんけどね。あのあと忍者な変質者、半蔵が魔核兵器の一体を回収し、それを姫の居城で解析した結果、内容は簡単な制御式で起動。そして妖気で動く事が判明しました」
向日葵が言う言葉である「妖気」と言う聞き慣れない単語が、全ての原因だと全員が理解する。
そして流が、さらにそれに拍車をかける事実を話すのだった。




