459:冒険者ギルドからの脱出?
「それでナガレ、コイツはどうするつもりだい?」
「あぁそれなんだが、俺も処理に困っているんだよ。どうしたらいい?」
「キングか……他のゴブリンなら魔核だけ抜き取ってオシマイだが、コイツはほぼ全部使えるはずさ。キングの討伐数が少ないから昔の記録からだが、かなりの額にはなるはずだよ」
「ん~なら全部任せてもいいか? 俺は魔核だけもらうから、手数料なんか引いたものを俺のギルド口座へと入れてくれよ」
それに了解をしたユリアは、職員に解体倉庫へと運びいれるように指示をする。そしてナガレにそっと耳打ちをし、この騒ぎを利用して別の場所へに向かう。
そんな冒険者とラースたちを見ながら、一番の主役であるはずの流は逃げるように歩く。
流が危惧していたラースたちへの非難もなく、ゴブリンキングという破格の強敵を討伐したことで、冒険者たちは逆にお祭り騒ぎとなる。
もみくちゃにされているラースたちを尻目に、指定された場所へと流は到着する。そこはギルドの横にある広場で、多目的に使われている場所だった。
すでにその場所にはシーラをはじめ、イルミスやL。そしてワン太郎が待っていた。
さらに目の前に四頭だての馬車が用意され、豪華とは言えないが立派な仕立ての物だった。
「やれやれ、また行くはめになるとはねぇ。ほらとっととお乗り」
「すまないな婆さん」
「婆さん言うんじゃないよ、失礼な男だねぇ。あらためて自己紹介をしようかね。アタシはアルマーク冒険者ギルドのマスターで、名はユリアってんだよ」
そう言うとユリアは右手を伸ばす。それを流も右手で握りかえし固く握手をするのだった。
馬車の室内は意外と広く、大人が五人で乗っても十分な間隔がある。内装もそれなりの作りで、天井も高かった。
やがて馬車の走行音が聞こえてくる頃、ユリアが流へと話し始める。
「あぁすまないユリア婆さん。つい馴染みすぎて忘れていたよ」
「婆さん言うんじゃないよ! それで……本当のことを聞かせてくれるんだろうね?」
「その前にこちらの事を分かったうえで、今回の対応に感謝するよ。正直ユリア婆さんのような傑物じゃなければ、色々と無茶はするつもりでいたからな」
「傑物とは褒めすぎさね。まぁナガレの顔もそうだが、拳は嘘をつかないからねぇ。それで?」
「そうだな……もしこの事が露見すれば、この町は確実に滅びる」
「なんだって!? それはどういう事だい?」
流はそれに答えてもいいものか迷う。そして祖父の言葉を思い出す。
――流よ。武を極めたというのは、良くも悪くも信頼にたるものよ……その意味は分かるか?
――ジジィっじゃなくて、お祖父様。つまり武を極めた者は、自分の存在に自信があるから、余計な小細工はしない。それが良きものなら信頼に。悪しき者なら暴虐に。そういった感じかい?
――まぁそのような感じではあるな。つまり己の心に正直なんじゃよ……どちらに転ぼうがな。
そんな教えを受けた事をふと思い出す。そして先程の短い攻防ではあったが、ユリアという女性の『芯』をハッキリと流は感じる。だから――。
「あの森、蜜熊の宴会場は健在だ」
「それは分かっていたさ、あんたの真っ直ぐな瞳を見てね。それがどうしてこの町の崩壊になるんだい?」
「ここから先……誰かにこの情報を漏らせば、この町はおろか国も滅びる可能性が高い。そういう情報だが、ユリア婆さんは信頼できると確信している。だからこそ話す……分かってくれるだろうか?」
ユリアはその真剣な表情と、射抜くような視線に背筋が寒くなる。それは圧倒的な強者が無意識に放つソレだたのだから。
だからこそ誠心誠意、偽りない気持ちで流へと応える。
「ああ、分かったよ。この〝百打のユリア〟の名にかけて、絶対に口外しないと誓おう」
「また勇ましい二つ名だな。まぁ納得ではあるが……ありがとう、あんたなら信頼して話そう。それにこの町が最前線になる可能性もあるのだからな」
その言葉でさらに緊張をもって話を聞く。その顔を見た流は一つうなずくと、話を続ける。
「実はあの森、蜜熊の宴会場と呼ばれる場所は、あるものを封印していた。そのあるものと言うのは、この国を裏から動かしているであろう存在の力そのものだ」
「なんだって? まさか……いや、だからリッジのジジイは……そういう事なら話は別だ。どうだい、この町の代表でありトエトリー領主に次ぐ、王党派の対抗勢力である男の前で話してみては?」
「あぁ、それは俺も考えていたことだ」
「なら決まりだね。どのみちそんな重要な話し、アタシ一人じゃ荷が重い」
そう言うとユリアは腕を組み目を閉じる。その様子から色々と考えているようだ。やがて馬車はこの町の目的の鍛冶屋のまえに到着する。
すると店の中から三人の影が現れ、転げるように出てくるのだった。




