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045:才能は野にこそ埋もれている

 メリサと流は三階のバーツの部屋の前まで来ると、メリサはドアをノックする。

 すると中から何かをしていたのか、ついでに返事をした感じの声が聞こえた。


「はいよ~入ってくれ~」


 バーツはそう言うと来客を迎えるために、書類整理を止めて顔を上げる。


「ナガレ様をお連れしました。昨日の件ですが……」

「やっぱりダメだったか? まあ仕方ないわな~あそこは異常だって話だし」

「いえ、そうじゃなく実はクエストを完了したとの事です」

「だろう? まあ気にするな……って、え!? ほ、本当なのか?」


 バーツが焦るので二人は部屋に入って説明をする。


「本当に討伐したのか……信じられん……ゴーストが何百体も居るって聞いたぞ?」

「ああ、それ以上に居た気がしますが、数を数える事は不可能な程居ましてね。途中からただ殲滅だけに意識を集中していましたので」

「それは凄いな! それで地下の精神攻撃をしてくると言う奴も倒したのか?」

「ええ、それも何とか倒しましたね。色々ギリギリでしたが、無事にクリアできましたよ」

「ふむぅ。もうそこまで……」


 思わずバーツは独り言つ


「え? 何です?」

「ああ、いやいや。それじゃ報酬を払わにゃいかんな」


 そう言うとバーツは仕事机に向かって行くと、棚から一枚の羊皮紙を持って来る。


「ナガレ、これが今回の報酬だ。受け取ってくれ」

「…………は?」


 見るとそこには「お屋敷街の幽霊屋敷をコマワリナガレ氏に報酬として譲渡する事を確約する」と、簡単に書かれた書類に、バーツの名前とギルドの証が刻まれていた。


「ええっと……これは?」

「ん? 見たままだが?」

「えええええー ただでくれるの!?」

「まぁそう言う事になるかな。ワハハハハ」


 そう言うとバーツは、実に楽しそうに笑うのだった。


「いやいや、あの規模の屋敷をただってあんた……」

「いや実はな。どうせあのまま幽霊屋敷があっても、ウチとしても困ってたんだ。管理費用やら、解決したとは言え短時間ならまだしも、長時間になるともしもの時の事を考えると、中に入るには冒険者の護衛費用とかかかるしな。しかも誰も買い手がつかないのは確定だったから、持ってるだけで大損の物件だったんだ。それに『いわく付き』だろ? 解決したからと言って住むほどに豪胆な奴はお前くらいしか居ないだろう。それらを解決した訳だから、お前にやるって話だよ」


 等と、いきなりとんでもない事を言いだすバーツに、流は開口したまま固まるのだった。

 その後簡単な譲渡の手続きが行われた後で、流がメリサと共に退室してからバーツは独り言つ。


「これでこの町に居る理由にはなってくれたか……少々強引だったが、結果的に良かったのかもな」


 そう呟くと、バーツはまた書類の山へと埋もれるのだった。


◇◇◇


「いや流石に俺も驚いたよ、まさか報酬があの屋敷自体とはな……」

「ええ、私も驚きました。破格すぎますよね、本当に……」


 そう会話しながら冒険者ギルドへと向かう流は、メリサと共に予約しておいたラーマンの背中に揺られながら乗っていた。


「ラーマンいいよな~。見た目はカピバラみたいだけど、毛がゴワゴワしてないし、このしなやかさが猫っぽい。なにより言葉を理解してくれるのが良い」

「ですよね~ 私もよく使いますよ。丁度うちのギルドの近くがラーマンが良く居る公園なんですよね。いつも助かってます」


 ふと思う、カピバラって言葉は何て訳されているのだろうと。


「なあ、カピバラってどんなのか知っているのか?」

「え? 知っていますよ、今乗っているラーマンこのこの事ですよね?」

「ああそうなんだ……」


 改めて思う。コンニャクじゃないくせに、異界言語理解の万能さに驚く流であった。


 軽快な速度で町を歩くラーマンから見る町は、いつもより忙しそうに感じる。

 そんな事をメリサと話しながら冒険者ギルドへ到着すると、今日もバニーが誘っているのが見えた。


「あの人形は何でこう誘ってる感じなんだろうな」

「何か、こう……アレですよね」

「品が無くて『アレ』でも良いんです! あれはウチの看板娘なんですから!!」


 突如声をかけられた二人は、声のする方に振り向く。

 するとそこには憤慨しているエルシアの姿があった。


「エルシア!? いや、悪気がある訳じゃなかったんだが、スマン」

「え、いえ!? ナガレさんが悪い訳では無いんですよ。そこの商業ギルドの方が失礼なものでつい……」

「え!? 私ですか? いや、すみません。つい……」


 そう言うとメリサは流の腕の影に少し入って謝る。

 それが癪に障ったのか、エルシアはさらにヒートアップする。


「もう、何でナガレさんに隠れるんですか!? 二人でラーマンに乗ってるし」

「「え、怒るところそこ!?」」

「……ち、違います! ちょっと不純だなって思っただけですもん」


 するとメリサも一つ二つと言い返し、エルシアも負けじと応戦する。

 気が付くとギャラリーが出来ていた。そこへ眼帯のオヤジが、どっちが勝つかを胴元になって賭けを始めたようだ。


(むぅ、女心と言うのは良く分からん。そう言えば故郷あっちで、よくアイツにひっぱ叩かれたからな……あ! そうか。これはあれだ、腹が減ってるんだな! よし)


 そう思った流は、すぐそこで焼いている串焼きをあるだけ購入した。


「おい、ご店主! あるだけ全部くれ!! 大至急だ!!」

「へ、へい? よろこんで!!」


 アツアツの串焼きを急いでエルシアに渡す流。すると……。


「エルシア! 悪かった、腹減ってたんだろ? ほら、大好きな串焼きだ。存分に食べてくれ」


 それを見てた観客達やじうまは口々に言う。


「巨滅の英雄は馬鹿なのか? どう見ても原因はお前だ」

「馬鹿はあんた達さ。今回もアタイの霊が囁くのさ」

「空気読めないナガレ様も素敵です~♪ ついでに私も仲間に入れてえ!」


 などと好き勝手に言ってる輩を無視して、流は串焼きをエルシアに手渡す。

 言い争いを止め、驚いた顔で流れを凝視するエルシア……。そこに一時の緊迫した雰囲気が場を満たす。


「馬鹿だ……殴られるぞ」

「黙ってろ、一番おもしれえとこだ」


 すると――。


「あの……困ります……その、こんな人目の多い所で、そんなプレゼントなんて……でも、ありがとうございます! 嬉しいですナガレさん!!」


「はい、試合しゅ~りょぅ~!!!! 勝者! 巨滅の英雄改め~串焼きのナガ~レ~」


 眼帯のオヤジがそう宣言すると、周囲から怒号が飛び交う。


「ふざけんなーー!! なんで串焼きで落ちるんだよ!」

「俺のエルシアちゃんが串焼きに負けるだと!?」

「クソー! 串焼きの英雄め!!」

「おい、ナガレ! 夜道は串焼きに気を付けるんだな!」

「ほらみなよ、アタイが言った通りだ」

「串焼きで受付嬢を落とす鬼畜さがステキです、ナガレ様~♪」


 もう言いたい放題なギルド前は、プチ祭り状態に陥っていた。

 活気づいた露天は、フル稼働で食べ物や飲み物を売りさばき、三人の関係を肴に盛り上がっている。


 そんな中、ギルドの建物の三階から怒号が降って来る。


「ふざけんな!! 何であれで顔真っ赤にして照れるんだよ! 私だったらカーチャンにぶん殴られるとこだぞ!!」


「「「サブマス!? すげー説得力ある……」」」


 全員がそう思うほど、前回の司会後の印象が凄かったサブマスだった。


「……コホン。あ、なんだ。エルシアとナガレは私の部屋まで来るように。それと商業ギルドの娘さんも来て下さい」


 そう威厳たっぷりに言うと、サブマスはキリっとした表情で奥へと引っ込む。


「「「今更そんなキメ顔されてもオセーヨ!!!!!!」」」


 サブマスの乱入で落ち着きを取り戻した三人は、サブマスの部屋まで行く事にする。

 いつの間にか隅のほうで丸くなってるラーマンを、近くの屋台まで連れて行き、好きな物を食べさせて待ってもらう。


「じゃあご店主、こいつに好きな物を食べさせてやってくれ。お代はこれでよろしく」

「あいよ、足が出ても気にするな。小商いさせてもらったお礼だ」

「そうか悪いな、じゃあ行ってくる」


 流達三人がギルドへと入って行くと、余韻を楽しむようにやじ馬達はまた陽気に騒ぎ出す。


「おまえもエライお客を乗せちまったな~」

「……マ」

「え? それも客商売の醍醐味ってか? 深いね~どうよ、もう一つ食べるか?」

「……マ、マ」

「そうなんだよ、俺も昔は戦働きをしてたんだが、パン屋が面白くなってな。そんな訳でここが長くてね。ゴロツキも多いが、今日みたいな事もあって楽しいのさ」

「……マ~」

「嬉しい事言ってくれるじゃねーの。ほら、これはサービスだ。食ってくんな」

「……マ」


 パン屋のオヤジは何故かラーマンと「会話を楽しむ事が出来る凄い奴」だと言う事を知ってる人は少ない……。




読んでいただきましてありがとうございまっす!

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