453:一刀両断
「撃て撃てええええええ!! 魔法も矢も出し惜しみするなあああ!! 矢が尽きたものは交代し、補給後に再配置! 魔法師は魔力が八割を切ったら交代し、ポーションで回復!!」
門番長が必死に指示を出す。どうやら流石の氷狐王も、魔法と矢の攻撃はこたえたらしく、歩みを止めて門の前に立ちつくす。
それをチャンスと見た門番長は、さらに苛烈に攻撃をしかけると同時に、他所の増援要請に向かった伝令の吉報を待つ。
(早くて八分か……クソッ、これだから日頃から訓練はしておけと言うのに、あの無能指揮官どもがッ!! だがこの兵力ではこれが最善。持ちこたえてみせるッ!!)
見れば魔法師がいい仕事をしているらしく、熱波で燃やされた毛皮の部分へと、土属性のジャベリンを撃ち込む。それが効いたようで、少し体の部分が欠けたようだ。
それを見た門番長はニヤリと口角を上げると、あの未知のバケモノを倒せると確信する。
「見ろ!! 攻撃が効いている!! このままの調子で増援が来るまで撃ち続けろ!!」
『『『オオオオオオオ!!』』』
そのまま猛攻が続き、もうすぐ十二分。やっと増援の第一陣が到着した事で門番長は胸をなでおろす。
「来たか!! よし、魔法師は全員下がれ! その間に増援の魔法師と入れ替えよ!! 弓兵はそのまま攻撃を続けて、魔法師が入れ替わったと同時に増援と交代!!」
ここまでは順調だった。が、またしても他の部隊の訓練不足による連携の悪さにより、交代がまごついてしまう。
それにより攻撃に穴が空き、その隙きをつかれる形で氷狐王が動き出す。
バケモノは薄い透明な氷の壁を作ると、大声で吠える。
「聞けええええええい!! 我は敵ではない!! これより我が主と、その下僕がキサマらに下知を下す! 全員傾聴せよ!!」
「なッ!? か、体がうごか――」
門番長は防壁の上から、バケモノの威圧をモロに受け動けなくなる。周りを見れば攻撃の手もとまり、ほぼ全員が固まった。
「おい、なんでお前はそう偉そうなんだよ。また俺の評判がおちるだろうが」
『仕方ないですよ、王様なんだから』
「違いない。ほらシーラ、もう大丈夫そうだ」
「うん……あ、本当だ攻撃がやんでいるゾ」
氷狐王の腹の下から階段が出来ており、その中から現れたのは黒髪の男と金髪の少女。
そのあまりにも場違いな様子に、兵たちはあっけにとられ見つめる。
そして門番長はその一人をよく知っている。そう、この街の統治者であり、この国最大の商家・アルマーク家の娘だったのだから。
「ひ、姫えええええ!? どうしてそんな所からッ? さてはお前が姫を拉致して人質にしたのかッ!!」
「どうしてそうなる……はぁ~。シーラ、この男へ説明してくれるか?」
「当然なんだゾ! 門番長さん聞いてほしいんだゾ。私はこのナガレ様に助けてもらったんだゾ。だから一刻も早く中へと入れてほしいんだゾ! おじいちゃんと、おにいちゃんに報告しなければいけない事が沢山あるんだゾ!!」
突然のことに驚く門番長。だが即座にその意味を理解し、部下に開門を命じる刹那にそれはおこる。
入れ替わった増援部隊の一人が氷狐王の恐怖に錯乱し、あろうことかシーラへ向けてファイア・ジャベリンを放ってしまう。
「ウワアアアアアア!! 死ねバケモノガアアアアア!!」
「なッ!? 馬鹿者がああああああああ!!」
叫ぶ門番長。だが放たれた炎の槍は、真っ直ぐシーラへ向けて放たれる。
最早これまで。シーラへと炎の槍が着槍するまで残り五メートル。だが、氷狐王が張った透明で薄い氷の壁に阻まれ、硬質なもの同士がぶつかり合う音が聞こえ――つぎの瞬間!
氷の壁に亀裂が、ファイア・ジャベリンが突き刺さった部分より一気に広がり、壁が崩壊間際にあの女が現れる。
「いやですわ。部下の躾くらいちゃんとなさい。流、いい機会だから見ていてほしいですわ」
イルミスは気負いなく歩き、もうすぐ崩壊するであろう壁の後ろに立つ。
「イルミスなにを?」
「ふふ。いいですこと? 魔法は剣でも斬れますわ。無論、刀だったら当然に」
流はその言葉に覚えがある。過去、先生と呼ばれたあの男……ザガームとの戦いで魔法を斬ったのだから。
だからイルミスの話に一つ頷き、流はその話の続きを待つ。
「あら? そのお顔なら覚えがありそうですわ。しかし普通に斬れば、モノによっては自分までダメージを受けてしまいますわ。そこでこのように――」
イルミスは魔力を刀の刃に纏わせる。その雑に見える魔力のゆらめきが、刀身に完全に定着。
するとまるで刀身自体が発光しているかのように、赤く輝き出す。
「――なりますわ。さて、ころあい。お客様がいらっしゃいますわ」
そうイルミスが言った瞬間、氷の壁は崩壊してファイア・ジャベリンが襲いかかる。
イルミスは備前長船を大上段に構えると、目前に迫るファイア・ジャベリンを一刀両断!
真っ二つになったファイア・ジャベリンは、そのまま左右に別れて十メートルほど飛ぶ。
そのまま氷狐王の背後へ飛び去ったあと、地面に突き刺さり爆発するのだった。




