451:緑の王都よ、さようなら
「王滅級なのは分かったが……コレをどうするんだナガレ?」
流は「そうだなぁ」と答えたのち数瞬考える。そして口を開くと、ラースが驚愕するような事を言い出す。
「よし、コイツはお前らが討伐した事にしよう」
「なッ!? なにを言っているんだッ!! そんな嘘はすぐにバレる。それに俺たちはギルドへ帰るなりペナルティーを受ける。それなのに嘘がバレたらそれ以上のペナルティが――」
わめくラースに流は静かに言葉をかぶせて、それを止める。
「――だからこそさ。いいかラース、誰もお前達だけで討伐したと言っても当然信じないだろうさ。だからコレだ」
流は右手に魔力で作り上げた極武級のフラッグをはためかせる。そして隣のイルミスを見て、目線でその先をうながす。
「抜けてるのは髪毛だけじゃないようですわ。いいですこと? 流はこう言っているのですわ。私達全員で討伐したことにすればいい、とね」
「俺の頭は剃ってい――って、たしかにそれならまだ分かるが……いや、でもそんな他人の功績を奪うようなまねは……」
「いいんだよ。氷狐王は俺の使い魔みたいなものだが、お前たちは俺の配下となったわけだ。そして早急に、トエトリーへと向かってもらわねばならない。そこであの森でのペナルティを受けたままでは、活動に支障をきたす。そこでこの真っ二つのキングってわけだ。それにな……あいつらも天国で喜んでくれるさ」
ラースはその意味が分かると、流へ頭を下げる。それはラースや生き残った仲間だけではなく、死んだ仲間たちの汚名も雪ぐ事となるのだから。
「……重ねて感謝する。俺はお前に絶対の忠誠を誓おう」
「そんな堅苦しくなくてもいいさ。ただの口止めでは不安だったから、俺のワガママでお前たちを縛った。だがお前たちは恐れながらも、勇敢にそれを受け入れた。ただそれだけのことさ」
流はラースの肩へ右手をのせ、軽く二度たたくと氷狐王のところへと向かっていく。
その後ろ姿を見て、ラースは自然と頭が下がるのだった。
「氷狐王、狼たちにゴブリンの上位個体らしきものがあったら、集めてくるように言ってくれるか?」
「承知! ――リデアル平原の猛者たちよ! 我が主のオーダーである! 上位種をここに集めよ!!」
瞬間静まった緑の村に、凍えるような遠吠えが響き渡る。それは聞くだけで精神を削り取られそうで、その恐怖が冒険者とシーラを襲う。
「おい、シーラがまた漏らしたらどうする。やめさせろ」
「しょ、承知!! お前たち遠吠えをやめんかああああああ!!」
「お前が一番やめんか! 見ろ、ラースが尻もち付いてるぞ!」
ラースは思う。配下を叱りつけた氷狐王が一番怖いと。そしてその氷狐王の中から「漏らしてなんていないんだゾ!」と、声が聞こえた気がした。
しばらくすると、氷漬けのゴブリンの死体が六体ならぶ。どれも普通より大きく、上位個体だろうと流は思う。
「それでラース、素材とかはどうする?」
「そうだな……ゴブリンの体からは素材は取れても、まぁゴミのようなものだ。酋長であってもそれは変わらん。魔核だけ抜いて死体は穴にでも埋めたいところだ。ただ、キングに関しては俺も知らないから、できれば体ごと持っていきたいが」
流はなるほどと頷き、氷狐王へと指示を出す。その後冒険者たちが全員で魔核を抜き取り、キングは氷狐王が氷の棺に閉じ込める。
それを背中に固定し、全員で氷狐王へと乗り込むのだった。
「さて、少し時間も取られたが、閉門前には到着するだろう。出発するぞ」
「承知! ではお前たち、後の処理は任せた。時間が切れるまで適当に過ごせ」
『『『ウォォォンッ!!』』』
氷狼へとそう告げ、後処理を任せた氷狐王は草原を走り出す。あっという間にゴブリンの村は遠のき、すでに小さい点となる。
窓から後ろを振り返り、それを確認した流は氷狐王へと話す。
「なぁ、あの狼たちはどうなるんだ? 人とか襲ったら困るんだが」
「ハッハッハ。その心配にはおよびません。ああ見えても、知性が人間と同等以上はありますからな。そして最後は召喚時間がすぎれば、強制的に門が開き中へと吸い込まれますので、ご安心ください」
「ならいいが……お前本当に王様なのな。ビックリ」
「今は貴方様の飼い犬ですがな。ハッハッハぁ~」
最後はこころ無しか、語尾がため息まじりに笑う氷狐王。そんな彼の心境を、美琴は不憫に思うのだった。
やがてしばらく走る一行は、大きめの川へと差し掛かる。それを見た冒険者たちは騒ぎ出す。
「うおおおあああ!! 川に突っ込むのか!?」
「落ち着け、大丈夫だ。まぁ見ていろよ」
氷狐王はジャンプすると、川の中心付近へと着地する。見れば川は凍っており、そのまま走り去ってしまう。
「ハハハ……もうどうにでもな~れぇ……」
「懐かしい。俺も嵐影と遠くに行った時に同じことを思ったな」
『あはは、あったねそう言えば。嵐影ちゃん寂しがってるかな?』
流は「あぁ」とうなずくと、アルマークで待っている嵐影を思い出す。今頃は噴水でも見つけて、その中で転がっているのかも? と思うと、嵐影の顔を見たくなる流であった。




