表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

452/539

451:緑の王都よ、さようなら

「王滅級なのは分かったが……コレをどうするんだナガレ?」


 流は「そうだなぁ」と答えたのち数瞬考える。そして口を開くと、ラースが驚愕するような事を言い出す。


「よし、コイツはお前らが討伐した事にしよう」

「なッ!? なにを言っているんだッ!! そんな嘘はすぐにバレる。それに俺たちはギルドへ帰るなりペナルティーを受ける。それなのに嘘がバレたらそれ以上のペナルティが――」


 わめくラースに流は静かに言葉をかぶせて、それを止める。


「――だからこそさ。いいかラース、誰もお前達だけ(・・)で討伐したと言っても当然信じないだろうさ。だからコレだ」


 流は右手に魔力で作り上げた極武級のフラッグをはためかせる。そして隣のイルミスを見て、目線でその先をうながす。


「抜けてるのは髪毛だけじゃないようですわ。いいですこと? 流はこう言っているのですわ。私達全員で討伐したことにすればいい、とね」

「俺の頭は剃ってい――って、たしかにそれならまだ分かるが……いや、でもそんな他人の功績を奪うようなまねは……」

「いいんだよ。氷狐王は俺の使い魔みたいなものだが、お前たちは俺の配下となったわけだ。そして早急に、トエトリーへと向かってもらわねばならない。そこであの森でのペナルティを受けたままでは、活動に支障をきたす。そこでこの真っ二つのキングってわけだ。それにな……あいつらも天国で喜んでくれるさ」


 ラースはその意味が分かると、流へ頭を下げる。それはラースや生き残った仲間だけではなく、死んだ仲間たちの汚名も(そそ)ぐ事となるのだから。


「……重ねて感謝する。俺はお前に絶対の忠誠を誓おう」

「そんな堅苦しくなくてもいいさ。ただの口止めでは不安だったから、俺のワガママでお前たちを縛った。だがお前たちは恐れながらも、勇敢にそれを受け入れた。ただそれだけのことさ」


 流はラースの肩へ右手をのせ、軽く二度たたくと氷狐王のところへと向かっていく。

 その後ろ姿を見て、ラースは自然と頭が下がるのだった。


「氷狐王、狼たちにゴブリンの上位個体らしきものがあったら、集めてくるように言ってくれるか?」

「承知! ――リデアル平原の猛者たちよ! 我が主のオーダーである! 上位種をここに集めよ!!」


 瞬間静まった緑の村に、凍えるような遠吠えが響き渡る。それは聞くだけで精神を削り取られそうで、その恐怖が冒険者とシーラを襲う。


「おい、シーラがまた漏らしたらどうする。やめさせろ」

「しょ、承知!! お前たち遠吠えをやめんかああああああ!!」

「お前が一番やめんか! 見ろ、ラースが尻もち付いてるぞ!」


 ラースは思う。配下を叱りつけた氷狐王が一番怖いと。そしてその氷狐王の中から「漏らしてなんていないんだゾ!」と、声が聞こえた気がした。


 しばらくすると、氷漬けのゴブリンの死体が六体ならぶ。どれも普通より大きく、上位個体だろうと流は思う。


「それでラース、素材とかはどうする?」

「そうだな……ゴブリンの体からは素材は取れても、まぁゴミのようなものだ。酋長であってもそれは変わらん。魔核だけ抜いて死体は穴にでも埋めたいところだ。ただ、キングに関しては俺も知らないから、できれば体ごと持っていきたいが」


 流はなるほどと頷き、氷狐王へと指示を出す。その後冒険者たちが全員で魔核を抜き取り、キングは氷狐王が氷の棺に閉じ込める。

 それを背中に固定し、全員で氷狐王へと乗り込むのだった。


「さて、少し時間も取られたが、閉門前には到着するだろう。出発するぞ」

「承知! ではお前たち、後の処理は任せた。時間が切れるまで適当に過ごせ」

『『『ウォォォンッ!!』』』


 氷狼へとそう告げ、後処理を任せた氷狐王は草原を走り出す。あっという間にゴブリンの村は遠のき、すでに小さい点となる。

 窓から後ろを振り返り、それを確認した流は氷狐王へと話す。


「なぁ、あの狼たちはどうなるんだ? 人とか襲ったら困るんだが」

「ハッハッハ。その心配にはおよびません。ああ見えても、知性が人間と同等以上はありますからな。そして最後は召喚時間がすぎれば、強制的に門が開き中へと吸い込まれますので、ご安心ください」

「ならいいが……お前本当に王様なのな。ビックリ」

「今は貴方様の飼い犬ですがな。ハッハッハぁ~」


 最後はこころ無しか、語尾がため息まじりに笑う氷狐王。そんな彼の心境を、美琴は不憫(ふびん)に思うのだった。


 やがてしばらく走る一行は、大きめの川へと差し掛かる。それを見た冒険者たちは騒ぎ出す。


「うおおおあああ!! 川に突っ込むのか!?」

「落ち着け、大丈夫だ。まぁ見ていろよ」


 氷狐王はジャンプすると、川の中心付近へと着地する。見れば川は凍っており、そのまま走り去ってしまう。


「ハハハ……もうどうにでもな~れぇ……」

「懐かしい。俺も嵐影と遠くに行った時に同じことを思ったな」

『あはは、あったねそう言えば。嵐影ちゃん寂しがってるかな?』


 流は「あぁ」とうなずくと、アルマークで待っている嵐影を思い出す。今頃は噴水でも見つけて、その中で転がっているのかも? と思うと、嵐影の顔を見たくなる流であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ