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044:守銭奴の謎が解ける日

「と、言う訳なんだよ壱衛門」

「壱:それは大変だったねぇ~。ならこれがあるんだ~。むーしーめーがーねー! これはねぇ虫を見るんや~って訳や。分かるかぁ、参よ? あの冷酷狐と違ってお前なら分かってくれると信じとる」

「フム。兄上、ここまでが様式美と言うものなのですか?」

「壱、でかした! 様式美を教え広めるのも僕達の役目ってやつやからな」


 二人と合流し、突如始まる様式美のレクチャーを流と壱は始める。

 流は疲れたのか座り、壱は肩に止まりながら快活に笑っているが、参と〆は呆れた顔をしていた。


「はぁ~古廻様。愚兄は捨て置いて、ちょっとよろしいでしょうか?」

「ん? なにかあったか?」

「実は――」


 〆が調べていると、この封印の仕組みが分かって来た。

 解除の方法は、この封印を最初に発見した者の「一番大事な物を捧げる」事で封印を解除する仕組みの術式なのだと言う。


 ちなみにゴーストが何故居たかと言うと、肉塊に魅了された魂が、生贄を求めて屋敷をさまよっていたらしい。

 そして肉塊そのものが何故ここに居たのかは、依然不明なのだと言う。

 推測だが、多分元の屋敷の主が禁制品を地下に持ち込み、それが何らかの理由で暴走した結果ではないか? と言う事で決着が付いた。


 つまり――。


「ここの持ち主だった悪徳主が肉塊に魅了されて、一番大事な金をささげて行くうちに、封印が弱まるってアホな解除方法を設定してしまったと?」

「そうなります。ですが、せっかくこちらで古廻様がご苦労をして稼いだお金を、私の我儘に使わせていただくのは心苦しく……」

「何を言っているんだお前は? 〆が居なかったら商売すらままならない訳だし、何よりお前が居てくれないと俺が困る」


 その流の言葉に〆は瞳を潤ませ、頬を赤く染めて頷く。


「ありがとうございます! 古廻様にお会いできて本当に良かったと、心から今はそう思います」

 

 そう言うと〆は座っている流の頭をギュッと抱きしめて、感謝の気持ちを表すのだった。


「壱:うわぁ、きっしょい……アレがあの女狐言うんやから世も末やわぁ」

「さっき無慈悲に私を『焼き殺そうとした』同じ人に見えない……」

「フム。いい話なのに、何故か不気味ですな、不気味なほどに」


 〆は流に抱き着きながら周りを威圧する。

 ちなみに流は息が苦しいのか、〆の胸の中でばたばた藻掻いていた。


「うふふ……誰かしら? 最初にあの世へ旅立ちたいのは?」


「壱:あ! 馬鹿!!」

「フムゥ!? 妹よ、古廻様が!!」

「え……? あああああ! こ、古廻様ああああ!?」


 至近距離で〆の強烈な殺気の籠った威圧を受けた流は、どこかへと無事に旅だったのだった……。



◇◇◇



「壱:酷いやつやで。大事な主を気絶させるとか、聞いたこともないわ」

「フム。全くですな。地獄の鬼よりも、鬼のような狐ですな」

「もう! 貴方達が悪いんですからね!!!!!!」


 涙を流しながら〆は流を三階まで運ぶと、急いで寝具を用意して流れを休ませる。無論膝枕でだ。


「流様……愚かな私をお許しください。流様が回復の暁には、愚兄共の手足を縛って三途の川へ流してまいりますからね」


((ちょっとまて、どうしてコチラへ怒りが向くんだ!!))


 流石の兄弟も、手足を縛られ三途の川に遺棄されたら、二度と浮かび上がって来る事が出来ないだろうと顔を青くする。そんな恐ろしい未来を妄想していると、やっと流が復活する。


「ウンンン……寝た……」

「古廻様! 良かったぁ、ご無事で何よりでした。酷い目にあわれましたね……」


((どの口が言うんだ……でもここで何か言ったら、確実に死ぬ自信がある))


「あぁ〆か、一体何があったんだ?」

「そ、その……私が古廻様を……」

「あ!! 思い出した! お前なあ~、胸が大きいんだからあんなにギュっとしたら窒息するだろう? 気を付けてくれよな」

「!? は、はい。今後は窒息しないように優しく抱きしめます……ね?」

「そうしてくれ。まあ気持ちよかったから、それはそれでありだな、うん」


((なんチュウ悪運の強い奴だ!?))


「ん? どうしたお前達。借りて来た猫みたいになって?」

「壱:イエ、ナンデモアラヘンヨ?」

「フム。イモウトガコワイナンテ、ゼンゼン、オモッテハイマセン」


 どこか何時もと違う二人に疑問を感じつつも、地下の封印について話す。


「まあ、ここ数日で稼いだ額はこんな感じだな」


 流は行商で得た金額と、冒険者業で得た金額の二つを、大体の日本円換算をしながら見せる。


「流石は古廻様。もうここまでお稼ぎになられるとは」

「壱:せやなぁ 僕も見とったけど、強運に物事が運びすぎやもんな」

「フム。やはりあれですかな、幸運値の『あらすごい』と言うのが?」

「壱:どうもそれだけじゃない気もするんやけどな……なんちゅ~か、型にはまった? ちゅうか、目に見えない何かに導かれている気もするんや」

「また曖昧ですね、でも愚兄のそう言う所は珍しく信ぴょう性があります。今後はこの辺りも注意しておきましょう」

「壱:珍しくって何やねん! 失礼な妹やで、そんなんやから古廻はんに妖力を叩――ぎゃあああ」


 〆の爪がキラリと光った次の瞬間、不死鳥は真っ二つになってパサリと床に落ちる。


「「……惨い」」


「い、嫌ですわぁ古廻様! 愚兄の上に虫、そう! 虫が居たのでついつい力が……ね?」

「そんな『ね』だけ可愛く言われても、死んだ壱は帰って来ないんだぞ!? まぁ良いけど」

「壱:良いんでっか!? 善良な折紙が叩き斬られても良いんでっか!?」

「「「まぁ……べつに」」」

「壱:酷ッ!? 児童相談所へ駆け込んだるさかい覚悟しいや!!」


 頭は児童でも相談出来るのかと一瞬思ったが、大きいお友達枠として処理してくれるだろうと流は思う。


「壱:それで話戻すけど、古廻はんは骨董品屋をやりたいんやろ?」

「無論だ! それが俺の夢だからな。でもなぁ、こっちで商売すると何か違うんだよな。全て高額になるから楽しくない」


 世界の商人が聞いたら、全員に棍棒で殴られてもおかしくない事を言い切る流だった。


「壱:それな! 分かるわ~」

「フム。贅沢な悩みなれど、やりがいと言うには反対の結果ですな」

「そんな古廻様もすてきでございます! もうたまりません!」


 〆は膝枕に乗っている流の頭に前かがみに押し込む。


「ふがががが」


「壱:またやらかしおったぞ、信じられんわ」

「フム。馬鹿ですね」

「ああ!? 申し訳ございません!!」


 悪鬼羅刹も怖れ逃げる九尾の娘。

 だが流の事となると馬鹿になる、困った娘でもあった……。

 と、言うよりも流、おまえは起きろと美琴は思ったのだった。


「はあはあ、お前と言う奴は……」

「申し訳ございません……」

「フム。愚かな妹で申し訳ありません」

「壱:あ! それ今僕も言おうとしてたんやけど、先越されたわ」


 ジットリとした視線が二人を射抜くのを見て、流はヤレヤレと仲裁する。


「お前達、また串刺しになるから黙っとけ。で、簡単に稼げるのは癪だが、地下の封印の件もあるし、いくらあっても困る事は無い。そうだな?」

「はいその通りかと。そして予想ではこれからいくらあっても足りない事態になりかねません」

「……ん? それは何でなんだ?」

「憚り者一党を駆逐するためです。あの外道共を追い詰めるには、とにかく金銭が掛かるのは、先の戦いで経験済みですので」

「経験者は語る……か。その辺りの判断はお前たちに任せる」


「「「はい」」」


「じゃ、堅い話はこのあたりにして、明日から売る品を見てきますかね!」


 〆の柔らかい枕から飛び起きると、流は荷物を整理しだす。


「参、私はそろそろ店番に戻らなくてはいけません。後は頼みましたよ?」

「フム。お任せあれ」

「壱はお好きに行動なさい、貴方はそれが一番いいでしょうから」

「壱:何となく釈然としないでっけど、まぁ分かったで」


 そう〆は指示を出すと、流に挨拶をしてから帰宅するのであった。



◇◇◇



 翌日、流は討伐の報告と、正式な買い取りの為に商業ギルドへと向かった。


「こんちわ~。メリサは居るかい?」

「あ!! ナ、ナガレ様ご無事で何よりでした!!」

「ありがとう、でもそんなに興奮するなってば」

「はぃ……あと昨日、そのありがとうございました!」


 そう言うとメリサは真っ赤になる。


「……おい、メリサちゃんが乙女になってるぞ?」

「嘘だろ、あの冷血ドールがあんな顔をするなんて!?」

「イイ! 恥ずかしがってるメリサちゃんに踏まれたい!!」

「何か悪い物でも食べたんじゃないか? 最近暑いし」


 一部おかしな奴も居るが、概ね「メリサがおかしい」で一致していると言う、失礼な客達でホールは賑わうが、本人には全く聞こえてなかった。


「それで、その……幽霊は退治出来たのでしょうか?」

「ああ、問題無く討滅……って言った方が良いか? まあしたよ。数は……分からん程居たから数えて居ないけど」

「えええ!? そ、そんなに居たんですか!!」

「いたねぇ~。地下から湧いて来たらしいんだけど、天上やら床やらから生えてるように湧いて来るし、窓ガラスにベッタリと、こびり付いてる程居たよ」

「ひぇぇ。よくそんな恐ろしい場所を浄化出来ましたね……本当に凄いです!!」

「ははは、ありがとよ。じゃあギルマスの所へ案内してくれよ?」

「そうでしたね! じゃあこちらへどうぞ」


 二人はギルマスの部屋の前まで来ると、ノックをしてから返事を待った。

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